【天皇と健康】冬至の日に、鎮魂祭を行う理由とは?

 

どこの国でも、王族や皇族はスペシャルな人たちだから、特別な対応がされている。
特に女性の場合、そこらの人間が手を触れることは許されない。
そんな考え方から、タイの王妃が川でおぼれた際、誰も救うことができず、周囲の人たちが見守るなか、王妃は川へ沈んでいった。…という都市伝説もうまれる。

高嶺の花にも限度がある タイの王妃&王女に起きた悲劇

さて、きのうの記事で、気の毒な後水尾(ごみずのお)天皇について書いたのですよ。
江戸時代、高僧に紫色の衣を与えたところ、幕府が抗議し、それを無効にしてしまった。
当時の天皇は幕府に行動を制限されていて、お坊さんに衣をあたえる自由さえなかったのだ。

対象的な関係:英国の国王と議会・日本の天皇と幕府

 

この後水尾天皇が譲位を決意した理由には、とてもユニークな説がある。
それは、「天皇だって灸(きゅう)をしたい」からだった。
病気で苦しい思いをしていた天皇は、治療のために灸の治療を受けたいと考えていた。が、臣下の者たちから、「とんでもない! そんなことをしたら、玉体に火傷(やけど)のあとがついてしまう」と反対されてしまう。
美しく、立派なものを「玉」という。
そんな意味から転じて、天皇の座るイスは「玉座」、天皇の声は「玉音」、そして天皇の体は「玉体」と呼ばれた。
臣下は、尊い玉体を傷つけることは絶対にいけないと考えたから、後水尾天皇は灸の治療を受けるために、天皇の地位を退いたという話がある。

 

日本では昔、何かのきっかけで体から魂が抜け出て、寿命が縮まると信じられていた。
それで、「たまげる」を漢字で「魂消る」と書いたりする。
「ハックション!」とくしゃみをすると、鼻から魂が抜け出して死んでしまうと恐れたから、日本人は魂を体内にとどめるために、「くさめ」という呪文を唱えた。
それが「くしゃみ」の語源になったという。

「くしゃみ」の語源は、死を防ぐための呪文だった

きのう11月23日は「勤労感謝の日」で、全国の神社では「新嘗祭(にいなめさい)」がおこなわれた。
*「新嘗」とは、その年にとれた穀物である新穀(しんこく)を食す(嘗)という意味。
天皇はこの日、新嘗祭をして秋の収穫を神に感謝し、国家や国民の平和や安全を祈る。
新嘗祭は有名でも、その前日、御所や石上神宮などの神社でおこなわれる「鎮魂祭」という神事はあまり知られていないと思う。

鎮魂といっても、この場合は死者の魂をなぐさめることじゃない。
この日には、天皇の体から魂が離れてしまうとされたから、その魂を鎮め、体内にとどめるためにこの神事をするのだ。
玉体を守り、天皇の健康や長寿を祈願する儀式が鎮魂祭。

で、なんでこのタイミングなのか?
まず、天皇は太陽神アマテラスの子孫とされている。
そして、この日は一年の中で最も昼の時間が短くなる冬至にあたるから、太陽のエネルギーが最も弱くなると考えられた。
*冬至を「死に最も近い日」とする見方もある。
それで、天皇の体内に宿る魂の活力を高めることを目的に、鎮魂祭の儀式をおこなうという。
21世紀の日本では、最先端の医療技術とこうした神事との組み合わせによって、天皇の玉体は守られているのだった。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。