先日、首都ダッカにいる知人のバングラデシュ人女性から、こんな不穏なメールが届いた。
「Do you now about the current situation of Bangladesh? About our facist govt?
Never felt so ashamed and hopeless about my own motherland.」
(あなたはバングラデシュの現状、ファシスト政権について知っていますか?
私は祖国について、これほど恥ずかしく、絶望的な気持ちになったことはありません。)
いまバングラデシュで、天地がひっくり返るようなことが起きている。
学生たちが政府に激怒して大規模なデモを起こすと、軍が動員されて鎮圧にあたり、150人以上の死者が出た。
日本のメディアは、視聴者に配慮して比較的おだやかな場面を映しているけれど、それでは現地の緊迫感や知人の危機感が伝わりにくい。
読者諸賢は大人で衝撃に耐えられると思うので、ここではイギリスBBCの動画をシェアすることにしよう。
ただし、クリックするかどうかは自己責任で。
今回の地獄のはじまりは、1971年にぼっ発した独立戦争にある。
当時、東パキスタンだったバングラデシュは、西パキスタン(現在のパキスタン)から不平等で屈辱的な扱いを受けていたため、71年に独立を求めて立ち上がった。
バングラデシュはこの戦いに勝利して自由を手に入れたが、とんでもない被害を受け、300万人が亡くなったという見方もある。
戦後、政府はバングラデシュのために戦った戦士たちに敬意を表し、彼らに政府職員の特別枠を用意することにした。
これは安定した職で待遇もかなり良いため、現在では、4000のほどの募集枠に対して 30万人以上の学生が応募するという。とんでもない倍率だ。
しかし、独立戦争では現在の与党「アワミ連盟」が中心的な役割を果たしたため、政府がこの特別枠を悪用し、支持者に割り当てていると考える国民が多かった。
それで、2018年に政府がそれを廃止した。と思ったら、ことし6月、最高裁判所が廃止を廃止する決定、つまり、政府の決定を打ち消し、特別枠を存続させる決定を下したからバングラデシュ国民が激怒した。
特に、高い教育を受けて能力はあるものの、キャリアにふさわしい仕事を得られない大学生の間で反発が爆発し、彼らは与党の党首シェイク・ハシナ首相の辞任を求めている。
学生らの抗議デモが激化すると、バングラデシュ政府は軍隊を動員し鎮圧し、これまでに150人以上が死亡した。
このニュースに対し、日本のネット民の感想がこちら。
・デモの鎮圧に実銃でも使ってるんか?
・どうしたら100人も死ぬんだよ
・バングラデシュのイメージ
日本と似た国旗
世界最貧国
イスラム教
イスラム原理主義に日本人を含む外国人が銃殺された事件
・バングラディシュ人と働いていたけど、彼らは休まず日本人より働いてたわ。休みはいらない、お金欲しいっていつも言ってた。
でも仕事の質は酷かった。
・所得がだいぶ上がってると聞いたが。
日本でも反政府デモは起こるけど、死者が出ることはない。
大正時代に全国で発生し、教科書にも載っている「米騒動」でも死亡した人は約30人だ。
その5倍以上が亡くなる事態は日本では考えられない。
しかし、今回のデモの背景を調べていて、わからない点があった。
政府が特別枠を廃止し、最高裁判所がその存続を決めたのなら、学生たちの怒りの矛先は与党政府ではなく、最高裁に向けるべきではないか?
その点を含めて、今回の事態について知人のバングラデシュ人に意見を聞いてみた。
抗議として「人間の鎖」を呼びかけるポスター
日本にいるバングラデシュ人に抗議活動を訴えるポスター
バングラデシュの国旗は緑地に赤丸だから、日本の国旗とよく似ている。
これには、日の丸のデザインを取り入れたという説もある。
今回の事態について話を聞いたのは、日本の大学に通うバングラデシュ人の男性で、彼は祖国の学生たちを「彼らは正義を求めている」と支持し、政府の失業対策や腐敗っぷりを批判していた。
「どっちもどっち」という中立的な立場ではなく、学生寄りのバングラデシュ人から聞いた話だから、彼の意見はその方向に片寄っている。
それに、彼は熱く語っていたから、話がすべて100%正確かどうかもわからない。
あくまで、1人のバングラデシュ人の認識と考えてほしい。これが怒りの原動力になっている。
バングラデシュの学生たちは、平等・公平に、実力に応じて政府の職を得ることを望んでいるから、不公平な特別枠は絶対に受け入れられない。
その気持が今起きているデモの動機になっている。
1971年の解放戦争に勝利すると政府は「自由の戦士」のために、30%の公務員特別枠を用意した。
*バングラデシュで独立戦争で戦った人たちは「自由の戦士(freedom fighter)」と呼ばれ、尊敬されている。
もともと「自由の戦士」には貧しい人が多かった。
政府は祖国への貢献に敬意を表し、命をかけて戦った彼らの生活を保障するために安定した職を与えることにした。
この考え方は正しい。
しかし、これは一時的な政策として採用されたはずなのに、もう50年以上が過ぎている。
しかも、特別枠の対象は拡大され、「自由の戦士」の子どもや孫までも含まれるようになった。
彼らは生まれた時から特権を得ているから、今では恵まれた生活を送る人も多い。
祖父たちのようにバングラデシュのために特別な貢献をしていないのに、子孫たちは自動的に地位と金、それに名誉のある職を割り当てられている。
政府与党はその枠を支持者に分け与え、自分たちの権力強化のために利用してきた。
バングラデシュの街なかには「自由の戦士」を称える絵がよくある。
トップ画像もその一つ。
*「学生たちの怒りの矛先は政府ではなく、最高裁に向けるべきでは?」という質問に対して、彼はこう答えた。
2018年に政府が特別枠を廃止したのはただの見せかけで、まったくの茶番だ。
政府は最高裁を裏であやつって、2024年に特別枠を維持する決定を下すようにした。
政府には特別枠を廃止する意思はなく、国民の反発を受けてその撤廃を発表した後に、最高裁にそれをひっくり返させることを考えていた。
つまり、最初から最後まで、すべて政府与党の計画どおりに進んだことなる。
政府の支配下にある最高裁の決定に意味はない。
(だから、「ファシスト政権」なのか)
日本人のボクとしては、バングラデシュに早く平和がおとずれることを願うしかない。
この会話の後、冒頭のバングラデシュからこんなメッセージをもらった。
「The current death toll is over 1000.
No one knows the exact number. The death records are seized by the govt.」
(現在の死者数は1000人を超えている。
正確な数は誰も知らない。死者の記録は政府に操作されているから。)
彼女の絶望的な気持ちは深まっている。
こういう現実を知ると、自分の「お花畑脳」が恥ずかしくなる。
日本人の日本料理店VS韓国人のヘンテコ和食店 in バングラデシュ
たいへん悲劇的な話です。
でも、世界にはもっと酷い話もあって、何百人あるいは何千人が軍による鎮圧の犠牲になったか分からないまま、現在では公式に「無かったこと」とされ、国民がネットで情報検索しようとしても出てこない、下手すると検索したことだけで反政府主義者として捕まってしまいそうな、そんな国もありますから。