日本にいるトルコ人は「川口クルド問題」をどう思う?

 

日本とトルコの関係を一言でいうと「雨天の友」となる。
今年は両国の国交が樹立されてから、ちょうど100周年になり、イスタンブールで行われた記念式典に出席された秋篠宮さまが、

「日本とトルコは、一般的な交流にとどまらず、トルコ語の諺である『雨天の友』のように困難な時に助け合う歴史を重ねてきました」

と述べられた。
1890年に和歌山の沖合でトルコの軍艦「エルトゥールル号」が遭難すると、近くの村人が全力で乗組員を救助する。それから時は流れ、1980年から始まったイラン・イラク戦争の時には、テヘランにいた日本人が脱出できずに困っていると、「今度はわれわれの番」とトルコが助けてくれた。

日本とトルコの良き関係:和歌山の恩を100年後、イランで返す

恩を受けたら100年過ぎても忘れず、きっちり返す日本とトルコの関係はまさに「雨天の友」。
しかし、いま日本でそんな固い絆に暗い影を落とす問題が発生している。

 

きょねん2023年、改正出入国管理・難民認定法が成立した。
すると多くのメディアが、トルコ政府からの迫害を逃れ、埼玉県の川口市や蕨(わらび)市に滞在している2〜3000人のクルド人が強制送還の対象になる可能性があるため、「恐怖を感じる」や「差別や暴力があって帰れない」といったクルド人の不安の声を取り上げた。
しかしその一方で、在日クルド人が騒音やゴミ出しの生活トラブルから、乱闘事件や性暴力、日本人が死亡する事故を起こしていたこと、川口市には不法滞在状態(仮放免者)のクルド人が約700人いることなどがメディアの報道やSNSで広く知られると、強制送還を「悪」とする見方が変わっていった。

2004年に法務省の入国管理局がトルコで現地調査を行ったところ、川口市にいるクルド人は実は難民ではなく、「季節労働者」と断定する報告書をまとめていた。しかし、「それは人権侵害だ!」といった批判の声が上がったため、この調査結果は公表されなかったという。

産経新聞の記事(2024/11/24)

<独自>川口クルド人「出稼ぎ」と断定 入管が20年前現地調査 日弁連問題視で「封印」

 

さらに入管関係者の話によると、クルド人が日本で難民申請を行うことには、一定の「周期」がある。
彼らは夏が始まるころに「問題が解決した」と言って、難民申請を取り下げてトルコへ帰国する。そして、秋になると同じ人物が日本へやってきて、「また問題が起きた」と難民申請をする。放牧が始まる5~6月に合わせて帰国し、農業や牧畜の仕事がヒマになる10~11月ごろに来日しているとみられるという。
「差別や暴力があって帰れない」という状態と矛盾しているようなことが、毎年繰り返されている。

ソースは産経新聞の記事(2024/11/27)

川口のクルド人、トルコの農閑期に難民申請、農繁期に帰国 血縁集団の絆で「移民の連鎖」

 

駐日トルコ大使も、彼らが「政治難民」であることを否定する。
大使は、トルコがシリアから多くのクルド難民を受け入れている事実を指摘し、「(日本にいるクルド人)が選んで来ているのは、トルコは暮らしに値する国であり、迫害はないという証だ」と語る。
また、不法滞在のクルド人については、

「問題は、彼らが日本の法令にのっとっていないことだ。違法な形で滞在し、難民認定制度を悪用して滞在を引き延ばしている。これこそが問題だ」

と語り、トルコとしてもこの現状を見過ごすことはできないと話す。

ことし3月、トルコのクルド人地域で現地調査した元国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表の滝沢三郎氏も、日本にいるクルド人について「彼らの多くが経済的理由で来日している」と述べ、“難民説”を否定している。
そんな調査結果もあり、この問題に長く関わってきた参議院議員の和田政宗氏は「日本にいるクルド人はほぼ全員偽装難民で送還は当然」と明言した。
「ほぼ」ということで、政治難民である可能性がなくもない。それが明らかになった場合は保護する必要がある。
しかし、「トルコで迫害を受けていて、戻ると命の危険がある難民」という前提がひっくり返ったことで彼らに対する日本人の見方は変わり、冷ややかなものになった。難民を“偽装”していたのなら、その反応も仕方ない。

 

さて、ボクには日本で働いているトルコ人の知人が2人いて、彼らに「川口クルド問題」について聞いたことがある。
そのうち1人は祖父がクルド人で、父親にはクルド人の血が半分、自分にも25%あると言う。彼女は子どものころから、祖父のいるトルコ東部にあるクルド人の村に何度も行ったことがあるから、トルコでクルド人が平和に生活していることをよく知っている。
もう一人の男性にもクルド人の血が流れている。彼の話によると、トルコではクルド人の閣僚や議員、公務員などもいて、クルド人という理由だけで迫害を受けることは、昔はあったが今はない。
ただし、PKK(クルド労働者党)はその例外。
トルコからの独立を目指して活動しているテロ組織PKKのメンバーや、その支持者に対してはトルコ政府は厳しい態度で臨んでいるという。
*PKKは日本やアメリカ、ヨーロッパなどでもテロ組織と認定されている。

彼らは日本にいるクルド人が政治難民として、保護の必要性を訴えていることを“ウソ”と否定し、本当は働きに来ただけと言い切った。
ただ、そのころは個人的に、それを事実と裏付ける根拠を知らなかったけれど、今では「季節労働者」と断定した法務省の調査などいくつもある。これで、堂々と2人の見方は正しかったと書くことができる。

*日本にいるトルコ人から怒りや不満の声が噴出していることは、ウィキペディア(在日クルド人)にも書いてある。

 

日本にいるクルド人はトルコ国籍であるため(すべてそうかは知らない)、彼らが犯罪行為をすると、新聞やテレビでは「トルコ人が〜」と報道されてしまう。
日本で普通に生活しているトルコ人にとっては、関係ないのに当事者にされ、名誉を失墜させられているようなもの。だから、2人ともそれにはご立腹で、日本とトルコの関係が悪化することを心配していた。
トルコ大使が不法滞在のクルド人について、「難民認定制度を悪用して滞在を引き延ばしている」と問題視した背景にも、トルコに対する日本のイメージ悪化があったはず。

日本とトルコがこれからも「雨天の友」であり続けるためにも、そうしたクルド人は一度トルコに戻って、正式な手続きをとってから再来日してもらうしかない。
それが合法的に住んでいて、ヘイトスピーチに悩まされているクルド人のためにもなる。

 

 

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4 件のコメント

  • クルド人は、トルコ(南部)、シリア(東部)、イラク(北部)、イラン(西部)の4か国が接する国境付近の山岳地帯に居住する民族であり、人口総数は4,000万人前後、「独立国を持たない世界最大の民族集団」と言われています。上記4か国の中で最も居住者が多いのはトルコ国内ですが、彼らの国籍が居住国と一致しているか、あるいは正式に国籍が与えられているのか、分かりません。

    > そうしたクルド人は一度トルコに戻って、正式な手続きをとってから再来日してもらうしかない。
    それは理屈としてはその通りだと思います。が、現実にそれを強制するのは難しい。
    まず第一に、日本在住の多数のクルド人達が、適法滞在者か不法滞在者かを一人一人見分けなくちゃならない。そんなのどうします? 片っ端から職質をかけて「パスポートとビザを見せろ」と迫りますか?(かつてナチがやったように。)
    第二に、不法滞在者のクルド人をまとめて出身国へ強制送還すれば、彼らは出身国で犯罪者として扱われるのが避けられません。特にトルコでは、日本との友好関係を重視するために、強制送還されたクルド人達を残らず刑務所送りにするでしょう。その結果が分かっていて、それでも多くのクルド人達を(自称する)出身国へ強制送還しますか?

    移民にせよ、難民にせよ、多数の外国人を受け入れるならば、彼らは特定地域で同一民族コミュニティを形成するのが常です。そうなった場合、日本社会で彼らをどう扱っていけばよいか、充分に考えて政策を実施しないとこの種の問題は解決できません。(当然、放置したままでも解決しません。)日本国と当事者地域住民の知恵が問われるところです。

  • >適法滞在者か不法滞在者かを一人一人見分けなくちゃならない。そんなのどうします?
    すでにそれは約700名と判明しています。

    >強制送還されたクルド人達を残らず刑務所送りにするでしょう。
    この根拠は何でしょうか?
    毎年、夏前に帰国して秋ごろに来日する人もいます。

  • > 日本で普通に生活しているトルコ人にとっては、関係ないのに当事者にされ、名誉を失墜させられているようなもの。

    同じトルコ国籍を有しているのだから、「関係ない」とは言い切れないと思うのですが。
    この辺の感覚が、(ほとんど)単一民族である日本人には理解が難しいところです。
    最近、クーデターにより政権が転覆したシリアにおいても、今後のクルド人の扱いが問題になっているようです。
    結局、「国を持たない民族」は、世界中で迫害を受けるという宿命が避けられないのでしょうか。そんな現実を見るにつけ、クルド人と同様の憂き目を長い間にわたって見てきたユダヤ人が、自国イスラエルの防衛と周辺国に対する攻撃にあれほど執着するのも、無理もないかとも思います。

    この世に神様はいるかもしれないし、いないかもしれない。でもそんなことには関係なく、世界は悲劇に満ちています。残念ながら。

  • この問題は国会で取り上げられたりして、大きくなりつつあります。
    日本人も外国人も関係なく、法に反する行為をした人はペナルティーを受けるべきです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。