10年ぐらい前、韓国のソウルに行ったとき、韓国人の友人と明洞(ミョンドン)の飲み屋に入った。
店のメニューに目を通すと、トンカツがある。
でも友人の発音は「トンカス」。
韓国語には「ツ」の発音がないから、「トンカス」になってしまうらしい。
日本の統治時代に入って来たトンカツは、すっかり韓国社会に定着して人気の食べ物になっていた。
ということは、トンカツは日帝残滓(にっていざんし)か?
トンカスならいいのか。
今回の話はこのトンカツ。
「日本の常識は世界の非常識」なんて言われるけど、韓国の常識もけっこうぶっ飛んでいる。
日本に対する見方はとくに。
このトンカツを韓国人的に解釈すると、どうなるか?
これからそれを見ていこう。
でもその前に、トンカツについて簡単に確認しておこう。
トンカツは代表的な和洋折衷料理だ。
トンはもちろん豚のこと。
カツレツはフランス語のコートレット(côtelette)に由来する。
だから、「トンカツ」という言葉は日本語とフランス語でできている。
ちなみに、コロッケの語源もフランス語のクロケット(croquette)だ。
トンカツは明治時代に登場した洋食で、1895年創業の洋食屋「煉瓦亭」で生まれたという。
煉瓦亭は他にも、オムライス、カキフライ、エビフライ、ハヤシライスをつくったと言われている。
ただ、これらの料理の誕生には別の説もある。
でも、トンカツが明治時代にできた料理であることは間違いない。
そのトンカツを、韓国人の作家が独特の視点で説明していた。
なんでもその韓国人によると、トンカツには「日本の帝国主義熱望」が込められている。
そんなことを言われたら、とんかつKYKや和幸はどうするんだろう?
いや、無視したらいいんだけどね。
週刊東亜の記事(2018-07-03)に、韓国人から見たトンカツについて書いてある。
돈가스엔 일본의 제국주의 열망이 담겼다
「トンカツには日本の帝国主義熱望が込められた」
これは「簡単で面白い歴史の本」ということだから、普通の韓国人向けに書かれた本のはず。
つまり、この本の内容は特別なものではなくて、一般的な韓国人の理解や常識にもとづいていると考えていい。
この本には出会いの席を楽しくさせる話題があるというのだから、それで間違いない。
この記事にはこんなことが書いてある。
19世紀の明治維新から、日本は帝国主義に変わった。
西洋諸国との差を埋めようと、日本は欧米の食文化まで研究する。
そして、日本人の身体を大きくするため、日本政府は国民に、牛肉や豚肉をたくさん食べるようすすめる。
軍隊では、強制的に兵士が肉を食べるようにした。
肉食への抵抗感を減らそうと、ご飯がそえられるようになる。
この過程で、日本のトンカツが誕生したという。
で、結論が「トンカツは日本帝国主義化のための尖兵だったわけだ」となる。
とんかつはとんかつ以外の何ものでもなく、日本兵になることはできない。
でも、韓国人がトンカツを見たらこうなる。
ということは、牛肉や豚肉を使った明治期の料理はすべて「日本帝国主義化のための尖兵」になってしまうのだが?
トンカツのカレー
日本・フランス・インドの多国籍料理だ。
この韓国人作家が書いていることの大まかな流れは正しい。
明治時代、欧米諸国に追いつくよう日本政府は、国民に肉食を奨励した。
軍隊でも兵士に肉を食べさせようと、いろいろな工夫をしている。
帝国陸軍の兵食には戦前の日本人が特に慣れ親しんでいた和食のみならず、洋食・肉食を積極的に取り入れた数百種類のメニュー、おやつ(デザート)といった嗜好品、飽きさせない副食の設定がされていた。
このときの軍隊食にはカツレツだけではなく、こんなメニューもあった。
コロッケ・ハンバーグ・ロールキャベツ・ビーフステーキ・オムレツ・カレー・シチュー・ドーナツ・フレンチトーストなどなど。
いちおう参考のために、これものせときます。
1910年(明治43年)制定の陸軍公式レシピ集『軍隊料理法』(「明治43年陸普3134号」)には、肉をメインとする洋食レシピとしてカツレツ(ビーフ・ポーク)、ビーフステーキ、メンチビーフ、フーカデン・ドライド、ハッシビーフ、ロール・キャベツ、カレー・ライス、スチウ、ミートオムレツ、燻製豚肉、牛肉のサンドウイッチ、肉スープ、コンド・ビーフなどが掲載されている。
たしかに日本では、こういった食べ物が軍隊で計画的に出されていた。
だから、先ほどの韓国人の「明治政府が国民に肉食をすすめていた」という指摘は合っている。
でも、トンカツについて「日本の帝国主義熱望が込められた」「日本帝国主義化のための尖兵だったわけだ」という見方は大げさ。
と思ってしまうのは、ボクが日本人だからかもしれない。
次回、こんな韓国人の「トンカツ観」に対する日本人の反応や、明治政府が国民に肉食をすすめた背景について書いていきます。
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