【脱中国文化】日本人が仮名を作り、仮名が日本人を作った 

 

隣国の人たちは自国の文化をとても大事にする。だけでなくて、それを誇りに思う気持ちがとても強い。

民族文字のハングルが生まれて574年になることし、「ハングルの日」を前にムン・ジェイン大統領は「世界がハングルを愛している」、「韓国の国格がそれだけ高まった」と宣言した。
そんなことを前回に書きやした。

世界がハングルを愛している! 韓国旅行で国民の熱意を実感

 

「世界が仮名を愛している」、「日本の国格がそれだけ高まった」と首相が国民にアピールしなくてもいいけど(引くし)、でも、自国の文字に対する自信や愛情については日本人も隣国を参考にしていい。
ということで今回は、日本人が作った仮名によって日本人も作られたという話ですよ。

 

 

「平仮名とカタカナのどっちを学ぶべき?どっちが重要?」と質問する外国人に、同じく日本語を学ぶ外国人がこう答えた。

Learn both. They’re equally important.(両方学べ。同じぐらい大事だ)
Its like saying for English should I learn A-M or N-Z?(それは英語について、A~MとN~Zのどちらを学ぶべき?と言ってるようなもの)

平仮名もカタカナも日本語のマストだから、両方の仮名を学ばないといけない。

 

さて、まだ自分たちの文字がなかった時代、日本も韓国も中国から伝わった漢字を使っていて、日本人は平安時代の9世紀ごろ、仮名という民族文字を発明して使い始めた。

その前から日本人は和歌を作って詠むのが大好きだったのだけど、漢字だけでこれを作るのは苦行というか拷問。
平仮名とカタカナが使用禁止になった状態を考えてほしい。
そうなったら、「私はブログを書いています」が「私葉部露具尾書異手位魔巣」みたいな謎文になってしまうから、民族文字のなかった時代の日本人の苦しみが分かるはず。

例えば万葉集にある大伴旅人(おおとものたびと)の歌を見てみよう。

「余能奈可波 牟奈之伎母乃等 志流等伎子 伊与余麻須万須 加奈之可利家理」

これをひらがなにしたら、意味がみえてくる。

「よのなかは むなしきものと しるときし いよよますます かなしかりけり」

下がひらがなと漢字のハイブリッド、つまりいまの日本人が書く文章だ。

「世間は 空しきものと 知る時し いよよますます 悲しかりけり」

「世の中は空(むな)しいものだと知ると、悲しみはさらにますます深まってしまう」といった意味。

 

 

仮名を生み出したことで漢字という「縛り」から解放された日本人は、自分の思いや気持ちを100%自由に表現できるようになり、古今和歌集という歌集や竹取物語・枕草子・土佐日記、それと世界最古の小説ともいわれる源氏物語などの文学作品を次々と世に生み出した。

「芸術は爆発だっ」というのは仮名を手にした平安時代の日本人のことで、文化面で中国を脱して、日本文化の基礎を築いたのはこのころだ。

中国の影響が強かった奈良時代の文化(唐風)に対して、これを国風(和風・倭風)文化と呼んでいる。現在まで続く日本の文化の中にも、この流れを汲むものが多い。

国風文化

 

前回書いた韓国の場合、ハングルができたのは15世紀で、ハングルによる文学作品が登場したのは17世紀といわれるから、誕生から約200年かかっている。
でも世界をみればむしろそれが「ふつう」で、仮名を生み出すと、すぐにそれで創作活動を行った日本人は例外的らしい。

評論家の山本七平氏がこう書いている。

自らの文字を造ると、いきなりその文字で自らの言葉の自らの文学を創作した民族は珍しい。自らの文学を創作するにあたって、ローマ人は長い間ギリシア語を用い、ヨーロッパ 人は長い間ラテン語を用いても、自国語は用いなかった。この点では、自国の文学をあくまで漢文で記そうとした韓国人の方が普通なのかもしれない。

「日本人とは何か。神話の世界から近代まで、その行動原理を探る  (PHP文庫)  山本 七平)」

 

仮名によって日本人は自由に表現することができるようになり、その後の長い歴史の中で、日本的な美意識や感覚、情緒などがはぐくまれていった。
だから、日本人が作った仮名が現在の日本人を作ったと言うこともできる。
「世界が仮名を愛している」と首相が言わなくてもいいけど、年に1日ぐらい、国民が仮名の歴史や意義に触れる日があってもいいかな。

 

 

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3 件のコメント

  • ヨーロッパの場合は、「ローマ帝国の分裂・崩壊」と「ローマ教会による国際的な宗教支配体制の継続」という歴史的な背景があるので、ちょっと事情が特殊ですかね。
    西ローマ帝国が滅亡した5世紀以降、民衆の言語は、ラテン語から急速に各国・各地方ごとの方言化が進みました。けれども、ラテン語は、バチカンを中心とするローマ教会の正式言語として、その後も長らく用いられ続けていました。例えば「聖書」がラテン語以外の言語に翻訳されるようになったのは、ようやく宗教改革の時代になってからのことです。
    また各国の教会に始まるヨーロッパ各地の大学においても、ラテン語は正式な学術用言語として採用され続けていました。特にサイエンスの分野では。たとえばイギリスにおいては、17世紀になってもまだニュートンが最初はラテン語で(「フィロソフィエ・ナチュレ・プリンキピア・マセマテカ、自然哲学の数学的原理」など)科学論文を出版していましたが、後年には英語で(「オプティックス、光学」など)出版しています。民衆の生活から自然に生まれた言語は、そのままでは、学術成果を正しく記述するには不十分なのです。

    現代サイエンスの分野では、学術用標準言語の地位は、実質的に英語です。英語で論文を書かない限りどんな優れた研究論文でも国際的な学術価値は認められません。

  • ベトナムには民族文字のチュノムがありましたが、それができたと同時に文学作品を生み出してはいません。
    国や地域によってそれぞれ事情は違いますが、日本人の例は珍しいです。

  • 最初に独自文字を作った地域では、文字とは儀式や行政の為の実用スキルで、そもそも文学自体が当初は未発達だった為です。
    英語を例に挙げるとHistory(歴史)とStory(物語)は語源が同じとされますが、古代において文学は歴史を積み重ね、文字で記録して初めて成立しうるものだったのです。

    他の地域で成立した文字を借用した地域では、文字を発明した先進地域の文字、言語が正式であり教養、後に発明された独自文字や自らの言語は非公式な物、女性や身分の低い者が使う物という認識がありましたから、独自文字による文学が育ちませんでした。
    東アジアの漢字、漢文や欧州のアルファベット、ラテン語(古代ローマにおけるギリシャ語、ギリシャ文字も)がよい例ですね。

    日本でも仮名は当初、女手とされて公式には使用できない文字で、女性の文字という認識でした。
    紀貫之が土佐日記執筆にあたって女性のふりをしたのも、それが理由のひとつです。
    日本で仮名を用いた文学が早くに発展したのは、清少納言や紫式部に代表される女流作家が早期から活躍したこと、それと漢字だけだとやはり面倒だからですね。
    漢字は覚えるのが大変ですし、元々別言語用の文字なので日本語を表記するのには問題があり、誤読もあり得ますから。

    ちなみに、英語でアルファベットという表音文字を使用しているのに、綴りと実際の発音が異なるのも、ローマ帝国時代、当時のイングランドの言葉にラテン語用の文字を当てはめて無理矢理表記した為で、古代日本と事情は同じです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。