人造人間の制作者:西洋のフランケンシュタイン・日本の西行

 

1964年7月19日に『週刊少年キング』で、石ノ森章太郎による日本の国民的マンガの連載が始まったことで、昨日は「サイボーグ009の日」という記念日だった。
島村ジョー(009)らが改造手術を受けてサイボーグ戦士となり、異能力を武器に悪の組織と戦うという物語で、人間の心と機械の体をもった存在ならではの苦悩を描いた名作。

 

ということで話はフランケンシュタインですよ。
ペヤングのような四角い形にツギハギされた無表情な顔、そして首にはふっといボルトが刺さっているこの怪物。

 

 

まず、ボクが子どものころから誤解していて、いまも多くの日本人がこれを知ると「マジか!」と衝撃を受けそうな事実から言うと、このフランケンシュタインとは怪物(人造人間)のことじゃない。

1818年にイギリス人作家が出版した小説『フランケンシュタイン』では、ヴィクター・フランケンシュタインという人物が死体をつなぎ合わせて人造人間(怪物)を創造したとある。
これがいつの間には逆転してしまい、日本では(たぶん海外でも)、「フランケンシュタイン」を怪物の名前と思っている人が多い。いや、ほとんどがそうでしょ。
この人造人間は、「吾輩は猫である」状態で名前はない。
名無しだったから、フランケンシュタインが怪物名になったのかもしれないし、海外で原作の設定を変えた小説や映画が制作されたから、「フランケンシュタイン=怪物」のイメージが定着したのかもしれない。

 

「理想の人間」をつくり出そうと考えたフランケンシュタインは、「すべての生き物は神だけが創造できる」というキリスト教の考え方に背く行為だと知りながらも、その野望を実行する。
ある夜、フランケンシュタインは墓を暴いていくつものヒトの死体を掘り起こし、それをつなぎ合わせて怪物をつくり出すことに成功。

ただこれは初めての試みだったから、「理想の人間」とかけ離れた、恐ろしくて醜い外見の人造人間が出来上がってしまい、それを嫌悪したフランケンシュタインは怪物を捨てて逃げ出してしまう。
そして残された巨大な怪物は、フランケンシュタインへの復讐を誓うのだった…。
続きはネットで見て栗。

 

では日本人で、こんなフランケンシュタインのような人物といえば一体だれがいるのか?

 

『フランケンシュタイン』(1831年)

 

「日本のフランケンシュタイン」といったら、それはやっぱり西行さんでしょ。

 

 

平安末期~鎌倉時代の日本に、武士であり僧でもあった西行(さいぎょう:1118年 – 1190年)という人がいた。
西行は歌人としても有名で、小倉百人一首には「嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな」という和歌がある。

西行については、こんなミステリアスな話があるのをご存じだろうか。
高野山にひとりでいて人恋しくなった西行はある夜、鬼が人骨を集めて人間を作るように、自分も人造人間を作ろうと思い立った。

そして西行は死体を野原に並べて骨に砒霜(ひそう)という薬をぬり、反魂の術をおこなって”ヒト”を生み出したことに成功。
でも完成したヒトは、見た目こそ人間に近いけど血相は悪いし声も細い。
“失敗作”と思ってこれを嫌悪した西行は破壊しようと考えたものの、それでは人殺しになる気がしてちゅうちょし、結局は高野山の奥に捨ててしまった。
その後、うまくいかなかった理由を知りたかった西行は、京の都で人造人間を作れるとウワサの源 師仲(みなもと の もろなか)という貴族にそのワケを聞く。
反魂の術にくわしい源師仲は、西行の話を聞いてダメだしをしたという。

そんな「平安時代のネクロマンサー」みたいな西行の話が、鎌倉時代の説話集『撰集抄』の中の「高野山参詣事付骨にて人を造る事」にある。
この物語を信じたい人は自己責任でどうぞ。

 

死体を集めて人造人間をつくり出すことに成功したものの、醜い外見を嫌って、それを捨ててしまうというストーリーはフランケンシュタインも西行も同じだ。
これで高野山に捨てられた人造人間が復讐を誓い、京都に現れて人々を襲うとガチの『日本版フランケンシュタイン』になる。
このへんの違いは創造主(神)への挑戦という、キリスト教のタブーに触れたという発想の有無か。

 

 

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1 個のコメント

  • 人骨を材料にして人造人間を作ってしまった西行法師は、日本の歴史では例外中の例外です。他には、安倍晴明の「式神」みたいに、紙のお札に術をかけて「人間のように見せかけたり」するのがせいぜいか。あとは、狐や狸が人間に化けるくらいですか。
    それに比べて欧米では、ギリシャ神話のピグマリオンとか、ユダヤ教神話のゴーレムとか、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」、カレル・チャペックに始まる「ロボット」、最近では「ターミネーター」とか。いずれも、人造人間を作ることは「罪深い行為であるとみなされる」といった印象が拭えません。
    やはり欧米では、古代からの「偶像崇拝禁止令」が今なお影響を残しているのでしょうかね。

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