今月8月は文化月間で19日はそのまんま「俳句の日」、8月25日は「川柳の日」。
さて俳句も川柳も5・7・5の定型詩なんだが、この二つの違いってなんだろう?というと、まず川柳は人の名前だ。
川柳とは、この定型詩をはじめた江戸時代の柄井 川柳(からい せんりゅう:1718年 – 1790年)に由来する。
彼が1757年8月25日に、万句合(まんくあわせ)を行ったことがいまの川柳の始まりとなった。
柄井 川柳が亡くなったあとも「川柳」の名は後世に受け継がれ、いまは16世の尾藤川柳さんがいる。
内容で見ると、俳句では季語や切れ字(けり・かな・や)を使うというルールがあって、主に四季の移ろいや自然、心情を文語で詠む。格調高く、ハイクラスな仕上りになっている。俳句だけに。
例を挙げると、
「閑(しず)さや岩に染み入る蝉の声」 by 松尾芭蕉
「雪とけて村いっぱいの子どもかな」 by 小林一茶
「さみだれや大河を前に家二軒」 by 与謝蕪村
という感じだ。
知人のカナダ人は、冬の朝にベッドから出たくない心情をハイクでこう詠んだ。
No no no no no,
No no no no no no no,
No no no no no.
対して川柳には季語や切れ字なんてものは必要なく、主に世の中を皮肉ったり、日常生活の様子を面白おかしく口語(話し言葉)で詠む。俳句に比べれば、ざっくばらんでカジュアルだ。
その具体例を見てみよう。
「おやたちは 井戸と首とで むこを取り」
「井戸と首とで」というのは、井戸に飛び込んだり首を吊ったりして自殺することをいう。
「あの人との結婚を認めてくれないなら、わたし、死んでやるからっ」と娘に迫られて、親がしぶしぶ結婚を認めるという意味の川柳。
ではこれは?
「すっぽんの 首を関守 見て通し」
江戸時代、抜け参りで伊勢神宮に行くような少年には、身分を証明する通行手形なんて持っていなかった。
でもそれだと関所を通ることはできない。通常なら。
関所では鉄砲と出女(江戸を抜け出す女性)を厳しくチェックしていたから、自分が女でないことを証明するために少年が股を見せる。
するとそこには男性器、つまりチ〇チン(すっぽんの首)がぶら下がっているから、関所の役人(関守)がそれを見て「行って(逝って)よし」と通してくれたということ。
川柳なら下ネタをぶっ込んでもいいけど、俳句ではダメだろう。
いまでもサラリーマン川柳がこの流れを受け継いでいて、5・7・5の定型詩でこんなふうに世の中を面白おかしく詠んでいる。
「会社へは 来るなと上司 行けと妻」
「スポーツジム 車で行って チャリをこぐ」
「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」
「皮下脂肪 資源にできれば ノーベル賞」
「いい夫婦 今じゃどうでも いい夫婦」
最近では俳句も口語を使って庶民的になってきたけど、それでもやっぱりお上品で、川柳ほどの自由さやゆるさはないと思う。
そうやってすみ分けができているから、日本人にはどっちも必要になる。
ちなみに内容は川柳に近くて、5・7・5・7・7で詠むのを「狂歌」という。
規制が多くてとても厳しい、清く正しい白河藩出身の松平定信の世の中より、ワイロなどの不正はあったけど、田沼意次の時代のほうが楽しく生きやすかった、と庶民がなげくこの狂歌は歴史の授業でならったはず。
「白河の 清きに魚も住みかねて もとの濁りの田沼恋ひしき」
時代が江戸から明治へ変わったときには、新政府のやり方に反発する江戸の庶民の気持ちを詠んだこんな狂歌があった。
「上からは明治だなどというけれど治明と下からは読む」。
治明は「おさまるめい」で、「おさまるめえ(治まるものか)」と思う江戸っ子がたくさんいたらしい。
インド人の発想で相撲の映画を作ったら、日本人も興味津々だった
俳句も川柳も原則として五七五の定型詩であり、その後ろに七七がつくのは総称としては「和歌」ですよね。
和歌の形式を備えた歌で、この記事にある「・・・もとの濁りの田沼恋ひしき」のように面白おかしく世を風刺したような歌は、「狂歌」と呼ばれていたのではないですか。
なおこの歌の「恋ひしき(こいしき)」のところは、濁った水の中でも生息できる「鯉」をかけているのでしょう。つまり「鯉がいるような濁った田沼」でも今となっては恋しいものだと。そのような「かけことば」を使いこなしている点で、和歌の伝統的ルールにも沿ったなかなかの名歌だと思います。
そうでした!
田沼のは「狂歌」でしたね。
カン違いしていました。
ご指摘ありがとうございます。
ちなみに、この狂歌を私は歴史の授業で習ったのではなく、池波正太郎の小説、さいとう・たかをの劇画でもある「鬼平犯科帳」で知りました。
いや違うな。歴史の授業でも習ったのかもしれないのですが、まったく覚えてません。高校時代の若い日本史の先生のスカートの鮮やかな色は、とてもよく覚えていますが。