【米の闇歴史】セイラム魔女裁判:人間と魔女の見分け方

 

とつぜん奇声を上げたり暴れ出したり、周囲の人を驚かすような言動をする人がいると、昔の日本ではキツネに憑りつかれたことが原因と考えて「狐憑き」と呼ぶことがあった。
キリスト教世界では精神が錯乱して理解不能な言動をする人がいると、「悪魔に憑りつかれたに違いない」と考えることが一般的だった。
そんな誤解が原因となって、有名なアメリカの闇歴史「セイラム魔女裁判」が1692年3月1日に始まる。
(まー書くのが4日遅れたってことだ。)

 

悪魔と契約や性行為をして不思議な力を手に入れて、人や家畜に病気や死をもらすとヨーロッパの人たちに信じられていたのが魔女。
もちろんそんなものは実在しない。
深い迷信と信仰心のあったヨーロッパのキリスト教徒が、数百年前に頭の中でつくり出した怪異だ。
でも、それをホンキで信じて恐怖したヨーロッパの人たちは「魔女狩り」を行って、15世紀から18世紀までに4万~6万人が殺されたといわれる。
この”人間狩り”は16世紀から17世紀にかけてもっとも激しくなって、17世紀末に衰退していく。

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ヨーロッパの植民地だったアメリカ大陸でも、1692年にそんな集団パニックが起きて、約200人が”魔女”として告発され、そのうち19名が処刑、1名が拷問中に死亡し、そして5名が獄死する「セイラム魔女裁判」があった。

狂気と悲劇の始まりは1692年2月、マサチューセッツ州のセイラム村で、ベティ・パリス(9歳)といとこのアビゲイル・ウィリアムズ(11歳)がいきなり悲鳴を上げたり物を投げたり、床を這(は)って家具の下に入り込むといった不可解な行動をするようになったこと。
セイラム村のほかの少女も異常な言動をするようになって、医師の診断を受けさせたけど、何も異常は見つからない。
これを「悪魔のしわざだ!」と考えた牧師は魔女ケーキ(Witch cake)を使って確認した。
少女の尿をライ麦粉にまぜてケーキを作り、それを犬に食べさせると、もし「悪魔(魔女)」の尿なら犬が苦しむらしい。
その結果がどうだったのかは分からない。

でも、少女たちに聞き取り調査を行って、「犯人」として3人の名前を手に入れる。
その3人とは、貧しい女性やキリスト教の集会に出席しない信仰心の薄い女性、そして奴隷で使用人だったティテュバという女性だった。
社会的に立場の弱い人がターゲットにされたのは明白。

そんな無実の人たちを捕まえて、裁判を行ってこんな“成果”を得る。

ティテュバは、「自白すれば減刑される」というピューリタンの法解釈から悪魔との契約を認め、求められるままに証言を行った。

セイラム魔女裁判

 

ティテュバが他の関係者を示唆したり、先ほどの少女たちが別の人の名前を言ったことで、いろいろな人間が次々と告発されていく。
裁判では魔女と疑われた人間が罪を認め謝罪して、「共犯者」を教えれば自由になれると言われ(それを拒否したら処刑される可能性が大)、関係ない人の名前を挙げていったことで、結果的に200人近くが「魔女」として告発された。

では、どうやって魔女か人間かを判断するのか?

「自白」のほかにも、もしその人物が魔女なら、悪魔と関係を持ったことが「ほくろ」などに現われるという考え方があった。
悪魔に血を飲まれた女性にはほくろなどの身体的特徴が残るから、それが「悪魔の印」とみなされたり、その人が星占いの本を持っていたりすると「魔女」とされた。
でもセイラム魔女裁判で処刑されたのは、自分が魔女であることを否定した人だけで、魔女と認めた人は一人も絞首刑になっていない。

裁判で有罪となって処刑されると、その魂までも抹殺されてしまう。
レベッカやマーサ・コーリーという女性は教会から破門されて、適切な埋葬も拒否された。絞首刑で殺されると、2人の死体はすぐに木から切り離されて墓に投げ込まれたという。

As convicted witches, Rebecca Nurse and Martha Corey had been excommunicated from their churches and denied proper burials. As soon as the bodies of the accused were cut down from the trees, they were thrown into a shallow grave

Salem witch trials

セイラム魔女裁判の宣誓供述書

 

こうして30人近くの無実の人たちが殺された。
他人を「魔女」と告発した少女が、そうすると大人たちが大騒ぎになって楽しかったと話したという説がある。
もしそれが本当なら、本当の魔女はこの少女だったことになる。

その惨劇から300年以上が過ぎて、ようやく無実が認められた人もいた。

AFP通信(2021年8月25日)

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これと同じころ、江戸時代の日本の裁判だったら、こんな迷信にとりつかれたバカげた判決は下さない。
「狐憑き」が原因になって、20人以上の人が処刑されることなんて考えられない。

 

 

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1 個のコメント

  • 欧米は、魔女狩り、大規模な奴隷制度のような血なまぐさい歴史と権力者vs人民の戦いの歴史を経験したから、人権と民主主義の議論が盛んで国民の政治意識が高い。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。