ハンガリーはヨーロッパの中部(か東部)にあって、漢字で書くと「洪牙利」または「匈牙利」となる。「牙利(ガリ)」の部分はスルーして、「匈」に注目してほしい。
5世紀ごろ、中央アジアから東ヨーロッパにかけて、広い範囲で遊牧民のフン族が住んでいた。中国人はフン族を漢字で「匈奴」と表記していて、昔はフン族がハンガリー人の先祖と考えられていたため、今でも「匈牙利」にその名残がある。
ハンガリー人は歴史的に騎馬遊牧民としての影響が強く、現代でも食文化では肉食が中心になっている。
今回は、ハンガリーの基本情報を確認してから、日本の大学に留学していたハンガリー人が「もったいない…」と思ったことを紹介しよう。
面積:約9.3万平方キロメートル(日本の約4分の1)
人口:約960万人(2022年)
首都:ブダペスト
民族:ハンガリー人(84%)、ロマ人(2%)、ドイツ人(1%)等(2022年)
言語:ハンガリー語 宗教:カトリック約30%、カルヴァン派約10%
以上のソースは外務省「ハンガリー(Hungary)基礎データ」から。
ーーこんにちは。
さっそくなんだが、日本に6ヶ月ほど住んでいて、どんなことに驚いたかな?
ハンガリーとは文化が違うから、それはいくつかある。最近ビックリしたことは、日本では野生のシカが人里に現れて、大きな被害を与えるため、その対応に困っていると聞いたことだね。
ーーいわゆる「鹿害」か。
シカが農作物を食い荒らして、人間界では70億円以上の被害が出ている。それに、シカは樹皮を食べまくって樹木を枯らすから、森林が緑を失って「はげ山」状態になってしまう。すると、そこに住んでいた生き物や植物は衰退していく。
アニメに出てくるシカは目がパッチリしてかわいい。でも、日本にいる現実のシカは人間にも動植物にも恨まれる「公共の敵」として悪魔化している。
参照:環境省のHP『シカが日本の自然を食べつくす』
君はその被害の大きさに驚いたと。
話を最後まで聞け。
俺がビックリしたのは、「なんで日本人は鹿を食べないんだ?」ってことなんだ。ハンガリーでシカは牛や鶏の肉よりも高く、“ハイクラスな肉”になっている。特に、ハンターが捕らえた野生の鹿の肉はすごくおいしい。ハンガリー人はよくシカ肉を食べるし、俺もシカ肉を使った料理が大好きだから、ハンガリーで「鹿害」が起こるなんて想像できないね。
ーーハンガリーではシカを求めてハンターが森に入っていくのに、日本では貴重な食材が自分から「召し上がれ♥」と出てきてくれるような状態なのか。
日本でも駆除した獣の肉を使った料理を提供する店があって、一般人も「食べて応援」はできる。でも、そんな店は本当に少ない。
それは本当にもったいないし、俺には信じられない。
グヤーシュ(グーラッシュ)って知ってるか?
ハンガリーで生まれた料理で、肉と野菜を煮込んで作るスープやシチューだ。今では代表的なハンガリー料理になっていて、グヤーシュでハンガリーを意味することもある。
冬はシカ肉を使ったグヤーシュがとってもおいしいんだ。
ーーその話を聞くかぎり、ハンガリーとグヤーシュの関係は、イメージとしては日本とすしだな。
知人のインド人は逆に、日本では鹿肉が売られているのを見てビックリした。
インド全体か、それとも彼の住んでいた地域だけかは知らないけど、鹿の肉を食べることは法律で禁止されているから。
それは絶滅危惧種だからじゃないのか?
まぁ、世界にはいろんな価値観や文化があるな。
インド人と山梨県に行ったとき、彼らがこの案内を見て驚いた。
調べてみると、2019年に鹿肉を所持していた2人のインド人が警察に捕まったというニュースがある。
インド人の感覚では、上の案内は「大麻があります」と書いてあるようなものかもしれない。でも、インドで鹿肉を食べることは、きっと大麻を吸引することよりも罪深い行為と見なされる。
森でハンターがしとめた鳥や獣の肉をフランス語で「ジビエ(gibier)」といって、日本で代表的なジビエ肉にはシカやイノシシ、クマなどがある。
シカの場合、大きい獲物だと重さが80キロを超えるから、輸送が大変で、肉の解体や加工なども手間がかかる。結局、駆除したシカを食材にするとお高くなるから、コスパ重視の日本人にははやらない。
「ジビエ」は外来語で、これを聞くようになったのはわりと最近のことだ。日本人は古代から「魚民」で、魚を釣って食べることは盛んにしていたが、歴史的には、仏教の「生き物を殺してはいけません(不殺生戒)」という教えが普及した影響もあって、狩猟はあまり行われていなかった。
ただし、江戸時代には、シカの肉が「もみじ」と呼ばれていたように、狩猟の文化がないわけでもなかった。しかし、ハンガリー人と日本人を比べた場合、伝統的に農耕民族と狩猟民族という違いが大きいと思う。
あちらでは昔からジビエの需要が高く、肉を加工する技術も発達してきた点が日本の食文化とは根本的に異なる。
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