2月9日に、安倍首相と文大統領が会談をおこなった。
日本と韓国の新聞を読むと、会談の内容の伝え方に、日韓で違いがあったように思う。
記事に書いてあることより、「伝えなかったこと」の方が大事な場合もある。
「書きたくない」「隠したい」という部分を知ることで、ものごと全体が正しく見えてくる。
前回書いた「自分の見たいものしか見ない」という状態で、韓国の場合、安倍首相をはじめ日本から「日韓(慰安婦)合意を守ってほしい」と言われることをかなり嫌がっているようだ。
9日の日韓首脳会談について、韓国の中央日報はこんな記事(2018年02月09日)を載せていた。
<韓日首脳会談>文大統領「歴史を直視し、力を合わせて未来志向的協力を推進」
これを読んだら、どんな印象を受けるだろう?
前半の「歴史を直視し」という部分は、文大統領が安倍首相(日本)に言ったことだ。
韓国側からしたら、韓国はすでに”正しい歴史”を直視している。
だからこれは、韓国が日本に対して「過去の歴史についての反省するように」とうながしているように読み取れる。
後半の「力を合わせて未来志向的協力を推進」というのは、「韓国と日本が一緒に」ということだろう。
文大統領は安倍首相にこう言っている。
「これまで数回にわたって明らかにしたように歴史を直視しながら首相と共に知恵と力を合わせて両国間未来志向的協力を推進しようと思う」
韓国が日本に「歴史を直視し」と言った場合は、「反省と謝罪」がセットになっていると考えてまず間違いない。
文大統領は「両国が気の合う真の友人になることができることを望む」とも言っている。
この記事は、「日本が歴史を直視することで、韓日が真の友人になったり未来志向的協力を推進したりすることができる」と伝えたいのだと思う。
同じ内容でも、産経新聞の記事(2018.2.9)では印象がずい分ちがう。
「日韓合意は最終的かつ不可逆的に解決したとの合意」と安倍晋三首相 日韓首脳会談後発言詳報
中央日報の記事のタイトルと比べてほしい。
文大統領「歴史を直視し、力を合わせて未来志向的協力を推進」
産経新聞の記事では、安倍首相の方が強い立場にあって、日本の主張を文大統領に確認させているようだ。
「未来志向の日韓関係を作りあげていく」という部分では、安倍首相も文大統領も同意している。
でも、そのために大事なこととして、文大統領は「日本が歴史を直視すること」を指摘した。
これに対し安倍首相は、「2015年の日韓(慰安婦)合意を守ることが大事だ」と文大統領に伝えた。
安倍首相はこの合意をこう強調している。
日韓合意は最終的かつ不可逆的に解決したとの合意であり、国と国との約束は2国関係の基盤だ。
こう主張した安倍首相に、文大統領は以下の4点を明らかにした。
・合意は破棄しない
・再交渉しない
・合意に基づき設立された韓国の「和解・癒やし財団」を解散しない
・日本が拠出した10億円は返還しない
先ほどの中央日報の記事では、この4点の1つも触れていてない。
「安倍首相に『歴史を直視すること』を伝えた」ということは書いてあるけれど、文大統領が日韓合意について確認したことがまるごと抜けている。
「韓国は合意を守ってほしい」と言われることは、韓国にって都合が悪い。
それで「見たいものしか見ない」となって、中央日報は記事にこの4点を載せなかったのではないか。
朝鮮日報は、日韓がぶつかり合ったことを伝えている。
「平昌五輪:韓日首脳非公開会談、慰安婦・核めぐり衝突」という記事(2018/02/10)で、両者のこんなやり取りを書いている。
安倍首相は日韓合意について、「韓国政府も約束を実現することを希望する」と伝えた。
すると文大統領は「慰安婦合意では解決できない」「政府間のやりとりという形での交渉で解決できるものではない」と言い返す。
北朝鮮の核・ミサイル問題でも、安倍首相と文大統領の考え方は違っていた。
それをふくめて、朝鮮日報はこの首脳会談全体についてこんな見方をしめしている。
これまで韓日関係や安全保障事案でこのように正面衝突することはなかった
朝鮮日報の記事では、先ほどの4点のうち、日本が韓国に渡した10億円にだけ触れていた。
両首脳は、慰安婦合意に際して日本政府が支払った10億円の処理問題についても意見を交わしたという
「意見を交わした」といっても、安倍首相が文大統領に「日本が拠出した10億円は返還しない」と明言させただけのこと。
「慰安合意について、日本から要求された」と韓国の国民に伝えることを嫌がっているように見える。
日本と韓国で世論調査をすると、国民の考え方の違いに大きな差が出ることがある。
去年、「日韓合意は間違いだった」と主張する文氏が大統領になったときに、日韓で世論調査がおこなわれた。
読売新聞の記事(2017年06月12日)では、「これから日韓の関係は良くなる」と答えた人が日本では5%だったのに対して、韓国では56%もいた。
11倍もの開きがある。
安倍首相が「国と国との約束は2国関係の基盤だ」と言ったように、この合意を否定する人が大統領になったら、日韓関係は難しくなるだろう。
それで日本では、95%の人は「関係が良くなることはない」と考えていた。
でも韓国では、56%の人が「これから良くなる」と考えていた。
「なんで、これほどの認識の違いが生まれるのか?」と考えた場合、韓国紙の伝え方に大きな原因にあるように思う。
今年1月にも、日韓の国民の意識の違いがハッキリあらわれたことがあった。
文大統領が「2015年の日韓合意では、慰安婦問題は解決できない」として新しい方針を発表する。
日本でおこなわれた調査では、韓国政府の方針に「納得できない」という人が9割もいた。
でも、韓国の反応は逆。
韓国の国民は政府の方針を好意的に受けとめていた。
中央日報の記事(2018年01月11日)では、63.2%の人が「正しい」と考えている。
回答者の63.2%が「政府の処理方針が既存の慰安婦合意を事実上破棄したもので、今後の韓日外交関係を考慮すると正しい決定」と答えた。
慰安婦合意を破棄したらどうなるか?
日韓関係はきっと破たんする。
修復できないほど悪化してしまう。
だから日本では、9割の人が韓国政府の方針に不満をもったのだけど、韓国では6割の人が「良かった」と考えた。
先ほどの結果とあわせて、日韓の国民の認識の違いは、埋められそうにないほど大きい。
日本と韓国とでは人々の考え方に、なんでこれほどの違いが生まれるのか?
首脳会談の報道の違いを見て、その理由が見えてきたように思う。
韓国は、自分に都合の悪いことは伝えようとしない。
安倍首相をはじめ、日本から「日韓(慰安婦)合意を守れ」と言われることをすごくを嫌がっている。
それを言われると、立場が弱くなるから。
だから韓国紙は国民にそれをあまり伝えない。
韓国の国民は、「日本が歴史を直視することで、未来志向の関係を築くことができる」といった”韓国優位”の報道を見て、日本や慰安婦問題の考え方を形成していく。
だから日本と韓国では、国民の認識に大きな違いが生まれるようになる。
今回の日韓首脳会談の報道を見てそう思った。
*この記事で紹介した中央日報の記事は、首脳会談がおこなわれた直後のもので、後日、産経新聞の記事を引用するかたちで4点について触れていました。
それがこの記事↓
「文大統領の顔から愛想笑い消えた」 安倍友軍・産経が伝えた韓日会談
でも、日本から「合意を守れ」と言われることを、韓国紙は嫌がって伝えない。
そのことが両国民の意識の違いにつながる。
こんな傾向はあると思います。
そのことは、日韓の新聞を読み比べて確かめてみてください。
こちらもどうぞ。
文大統領就任によって韓国が慰安婦合意を改める姿勢を韓国国民が支持するのはわかるのですが、それで日韓の関係が良くなるという判断を韓国国民がする理由が当時からわからないままでいます。悪くなるという日本側の世論調査が日韓双方で普通だと思うのです。韓国のメディアの責任というだけでは説明がつかないと思うのですがわかる方いたら教えていただきたいです。
>それで日韓の関係が良くなるという判断
これは私にもよく分かりません。
「慰安婦合意は明らかに間違っていた。文大統領がそれを日本に説明すれば、日本も納得する。だから韓日関係は良くなる」という考え方が広くあるように思います。
原因はメディアをふくめて、いろいろあるでしょうね。
回答ありがとうございます。被害者と加害者という日韓の構図について古今東西さんが過去のコラムで述べられていたと記憶しております。もしかしたらその構図による良くわからない上位と下位の関係こそが日韓の正常で友好な状態であると韓国側が思っているからこその世論調査なのではとふと思いました。
古今東西さんの昔のコラム、面白くて徘徊させてもらっています。頑張ってください。
いえいえ、こちらこそコメントありがとうございます。
儒教の影響かはわからないのですが、韓国社会では上下関係がハッキリしていますね。
韓国人としては「道徳的優位」な立場でいるから、日本との関係もそこから考えていると思います。
昔のコラムですが、もし誤字脱字があったら教えてください。
けっこうありまして・・・。