2、3年前に、中国人の留学生を日本のお寺に連れて行ったことがある。
その中国人は北京出身の20代の女の子。
場所は清見寺という静岡市にある古いお寺。
特別変わったところはない、ふつうの日本のお寺。
でもお寺の中を電車が走っている。
「中国人が日本のお寺を見たら、どんな感想を持つのか?」
そんなことに興味があって、その中国人の子を連れて行ってみた。
するとこんなことを言う。
「この建物を見て、唐朝のことを思いました。日本では唐朝の文化が大切に守られているのですね。感動しました」
この言葉はまったくの予想外。
日本の寺を見て、まさか唐を思い浮かべて感動するとは思わなかった。
唐朝とは中国の王朝(618~907)のことで、日本も遣唐使がいろいろなことを学んでいた。
こんな中国のハデハデなお寺と比べて、「日本のお寺は地味ですね」とか「落ち着いてますね」とか言うと思っていた。
「これが日本人と中国人の美的感覚の違いだろうね。中国人の場合は、寺の柱や壁にいろいろな色を塗ったり竜を彫ったりするけど、日本人はそうことはあんまりしないんだ。日本人はシンプルなデザインが好きだから」
そんなことを言おうかと思っていたら、「あれは唐朝です!」と言われて何も言えなくなってしまった。
その子は後日、フェイスブックにお寺の写真をのせて、「日本で唐朝の影響を見て誇らしく思った」なんてことを書いている。
日本の寺を見て、中国の唐を思い浮かべる中国人はけっこう多い。
今までにそう言っていた中国人に何回も会ったことがある。
特に京都観光で、中国人は唐を感じるという。
先ほどの女の子と同じように、唐の文化が今の日本に生き続けていることに感動するらしい。
でもなかには、こんなことを言う中国人のおばちゃんもいた。
「京都を観光していて、中国は本当にダメだと思いました」
「なにがダメなんだ?」と思って聞いたら、こんなことを言う。
「中国には長い歴史があって、すばらしい建築物がたくさんありました。でも、中国人が築いた文化を、中国人が破壊したのです。中国人は建物の価値が分かっていませんでしたから、保存ということを考えなかったんです。だから京都のように古いものがとてもきれいに保存されているのを見ると、日本がうらやましくなります」
伊勢神宮に行った時に、おかげ横丁を見たネパール人も同じことを言っていた。
「日本は保存状態とてもいい!」という彼の言葉を何回も聞いているうちに、「Well preserved」という英単語を覚えてしまったほど。
中国人のおばちゃんの場合、京都を見た後に中国をふり返ると残念な気持ちになるらしい。
「京都と比べて中国のことを思うと、文化を壊した中国人が憎らしくなります。特に西安なんて何も残ってないですから」
その人は京都を観光して、いろいろなものを見てそんなことを感じていた。
京都で感動したぶん、「中国は何をしていたんだろう?」となってしまう。
京都は唐の都だった長安をモデルにしてつくられている。
その長安は現在、西安という都市になっている。
ボクもその西安に行って、正直言ってガッカリした。
「唐の文化を味わいたい」と思って西安に行ったのだけど、長安の雰囲気なんて何も感じられない。
そこにあったのは近代的なビルで、西安はただの地方都市でしかなかった。
古都の風情はどこに行ったんだ?
ホテルで出会った中国人も同感だと言う。
その中国人は広州に住んでいる20代の女の子で、西安観光に来ていた。
目的はボクと同じで、古き良き中国に触れるため。
そのために西安に来たけど、そんな情緒は西安には残っていない。
それでその子もガッカリしていた。
これもすべて、「朱全忠(しゅぜんちゅう)」というヤツが悪い。
904年に、朱全忠が長安を徹底的に破壊してしまった。
長安にいた人たちを強制的に洛陽に移動させたため、長安が廃墟となってしまった。
作家の陳舜臣氏がその様子をこう書いている。
未練を断つために、長安を徹底的に破壊し、壊した宮殿、邸宅の木材は渭水から東へ流しました。
大唐の長安はこのとき、地上からすがたを消したといってよいでしょう。
(中略)大雁塔や小雁塔だけが、壊しにくいだけの理由でそのままにされ、辛うじて現存しています。「中国五千年 (陳舜臣)」
中国の歴史では激しい争いがたくさんあったため、古くからあるものが多く残ってはいない。
西安に残る大雁塔
でもこれだけじゃ、唐を感じることは無理。
最近、中国人の間で日本のマイナーな観光地が人気らしい。
金閣寺や伏見稲荷といった有名な観光スポットではなくて、大阪の「富田林寺内町」や京都の「嵯峨鳥居本地区」といったマイナーなところに行くと中国人は喜ぶという。
「富田林寺内町」や「嵯峨鳥居本地区」と聞いて、それがどんなところか分かる日本人はどれぐらいいるだろう?
これらの地区は保存地区に指定されていて、古くからの伝統的な建築物がたくさん残っている。
保存状態がとても良いことが中国人には魅力的だという。
産経新聞の記事(2017.7.24)にそのことが書いてある。
中国では、古い建築物は王朝が変わるたびに〝スクラップ・アンド・ビルド〟で消えることが多い。前王朝のものを徹底的に否定、破壊する「断絶の歴史」だけに、古くからの暮らしを丁寧に守り続ける富田林寺内町の人々の暮らしが眼前にそのまま残っているところが新鮮に映るのかもしれない。
日本より中国のほうが歴史はある。
でも中国人がそれを破壊してしまった。
だから、日本のほうが歴史は残っている。
中国人が日本を観光すると、そうしたことに感動する。
そしてその後に中国をふり返って考えると、ガッカリしてしまう。
そんなことを何回も聞いた。
中国旅行でお世話になった日本語ガイドがこんなことを言っていた。
隋唐時代の中国文化は日本にある。
明清時代の中国文化は韓国にある。
民国時代の文化は台湾にある。
中国にあった文化財は文化大革命のときに破壊してしまった。
今の中国に残っているのは役人のワイロ文化だけ。
大げさな表現もあるけど、ほとんどの中国人はこの言葉に納得するはず。
それでも西安にある兵馬俑はすごい。
写真にある兵士たちは武器を持っていない。
でも、これがつくられたときは武器を持っていたらしい。
ある人物が武器を奪ってしまったという。
ガイドからその人物を聞いて驚いた。
「項羽がここに入って来て、兵士の武器を奪っていったんです。劉邦とのたたかいに備えるために」
司馬遼太郎の「項羽と劉邦」を読んで感動して自分としては、「この場所に項羽が来た」ということだけで震えてくる。
この話がどこまで本当かは分からないけど、こういう話を聞くと西安はやっぱりすごいと思う。
おまけ
中国に鳳凰という街がある。
この街には昔の中国の姿が残っていた。
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西安は割と伝統大事にしてると思うよ。
博物館の充実具合、書道古籍関係の商店街が残ってる、空海の修業した寺院とかの再建とか見るべきとこ多いよ。賄賂関係の多さは他の都心と変わらないけど。
もちろん大事にしている部分もあります。
これは西安出身の日本語ガイドが言っていたことですが、長安の雰囲気は西安にはなくて京都にあるそうです。
朱全忠もそうですが、文化大革命で多くの歴史遺産を破壊してしまいましたから。
西安に残っている伝統文化を調べてまわれば、古き良き歴史を味わえるかもしれませんね。