韓国の”ツートラック” vs 日本の”信用第一”。これが対立の理由。

 

この1年をふり返って、つくづく分かったことがある。

「韓国のツートラックという考え方は、日本にはまったくいうほど通じない」ということ。

韓国は、歴史問題と経済や安全保障などとを切り離す「ツートラック」という考え方で、日本に対応している。
でもこれは、「反日と韓国の経済的な利益を同時に追求する」ということでもであるから、日本からすると「一方的で都合が良すぎる」と見える。

 

 

この考え方の違いから、日韓はよく対立する。

例えば、今年1月にはこんなことがあった。
釜山の日本総領事館前に建てられた慰安婦像(韓国では少女像)に抗議するため、日本政府は駐韓日本大使を帰国させ、日韓スワップ交渉も中断した。

この対応は、「慰安婦問題とそれ以外の問題を切り離す」という韓国のツートラックの考え方とは合わない。

だから韓国は日本の動きに驚き怒る。
ハンギョレ新聞は社説(2017-01-06)で、「異例の強硬措置」や「日本の居直り」と非難していた。

日本の今回の措置は不適切であることを越えて、居直りに近い。

市民の「少女像」に報復した日本の居直り

中央日報は、「超強硬措置」と書いている。

日本側が釜山総領事館前の少女像設置に超強硬対応措置を取ったことで、韓日関係の悪化を警戒する韓国外交当局の悩みも深まる見込みだ。

釜山少女像、韓日外交戦に飛び火…日本が超強硬対応

「韓日関係の悪化を警戒する韓国外交当局の悩みも深まる」と書いてあると、まるで韓国が被害者のようではないか。

2015年の日韓合意で、韓国は日本大使館前の慰安婦像を撤去することになっていた。
でも韓国政府は、慰安婦像をどかそうとしない。
それどころか、新しい慰安婦像を釜山の日本領事館前に建てさせてしまう。

日本政府は慰安婦像について韓国政府に抗議していたけれど、韓国は何も動かなかった。
本当に「韓日関係の悪化を警戒する」のなら、韓国が慰安婦像を動かせばよかったはず。

日本に「異例の強硬措置」をさせたのは韓国だ。

 

 

韓国のツートラックでは、歴史問題とそれ以外のことは切り離すことになっている。
だから韓国は、「慰安婦像が設置されても、日本は大使を帰国させたり通貨スワップ交渉を打ち切ったりするべきではない」と考えていた。

でも、それが日本には通じない。
歴史問題はそれ以外の問題にもつながる。
日本はそう考え、慰安婦像に対する抗議として大使を帰国させ、通貨スワップ交渉の中断も決めた。

多く日本人も政府と同じ考えで、FNNの世論調査では80%、日経新聞の調査でも70%以上が政府の決定を支持している。

 

韓国にとっては「不適切」「居直り」「超強硬対応措置」だけど、日本からしたら適切で問題はない。
「歴史問題(慰安婦問題)とそれ以外は切り離して考える」という韓国のツートラックは、日本人にはまったく通用しないことが分かる。

 

 

以上が今年始めに起きたこと。

そして今年もあと少しで終わろうとするとき、日本経済新聞にこんな記事(2017/12/19)があった。

日本と韓国の財務当局は2017年中をめざしてきた財務対話の開催を見送る。従軍慰安婦問題などが壁になり、金融協力を話し合う環境が整っていないと判断した。

「日韓財務対話、年内開催見送りへ」

慰安婦問題がネックになって、日本と韓国が経済や金融問題について話し合うことができなかった。

「歴史問題と経済は切り離す」という韓国のツートラックからすると、この対話は当然するべきになる。
でも、やっぱり日本はこの考え方を受け入れられない。
「韓国が日韓合意での約束を守らないのであれば、経済や金融問題についても協議することはできない」と日本は考えている。

インターネット上でも、日本の態度を支持するコメントがならんでいる。

・合意を履行しない国と新たな約束を交わすのは日本の国民感情が許さない
・国家間の合意が守れないような国には話し合っても無駄だろ
・やっぱツートラックとかいうのはスルーだよな
・合意履行してから来たら考える、だな。
・合意の履行すれば話は聞きますよ?

ネットの書きこみだから上から目線の表現だけど、考え方は日本の財務当局と同じだ。

 

また、読売新聞は社説(2017年12月21日)でこう書いている。

文大統領は、歴史問題と経済・文化交流を切り離す外交を標榜ひょうぼうする。だが、それは歴史問題での反日政策の免罪符にはならない。

「日韓外相会談 慰安婦合意見直しはあり得ぬ」

「歴史問題と経済を切り離す」という考え方は、「反日政策を進めるけど、経済的利益も追求する」ということだから、韓国に都合が良すぎる。
やっぱり、日本には通じない。

 

 

中には、こんなコメントもあった。

・そりゃ金融協力について何か合意しても、その合意を韓国が守らないわけだから話し合う意味自体が無い。
そういう扱いが嫌なら、まず合意を履行して、ちゃんと合意した事を韓国が守る姿勢を見せて日本の信用を取り戻さないと。

 

歴史問題も経済問題も、根底には”信用”がある。
「歴史問題では約束を守らなくても、経済は別だから信用してほしい」という態度は、日本には通らない。

 

日本はむかしから、国の信用を大事にしていた。
そのことについて、司馬遼太郎氏がこう書いている。

世界じゅうの貧乏神をこの日本列島によびあつめて共にくらしているほどの貧乏をしましたが、外国から借りたお金はすべて返しました。 「国家の信用」 というのが、大事だったのです

(「明治」という国家 NHKブックス)

日本がかなりの無理をして借金を返したのは、この時代(明治時代)、外国から借りた金を返さないと植民地にされる可能性があったから。

いったん返すべきものを返さなければ植民地にされてしまうのです。
でなくても、国家の信用というものがなくなります。
国家というのも商売ですから、信用をなくしてしまえば、取引ができなくなるのです。

(「明治」という国家 司馬遼太郎)

日本には、「信用を失えば国を失う」という強い危機感を持っていた時期があった。

韓国にこんな経験はないだろう。
IMFの管理下に置かれても、主権を奪われることはなかった。

 

「国家の信用 というのが、大事」という考え方は、今の日本でも生き続いている。

政治制度や社会のシステムは変わっても、人間の精神性はなかなか変わらないから。
評論家の山本七平氏がこう書いている。

どの民族でも遠い昔に受容して自己の文化となった伝統文化は、政治体制の変化によっても変わらない。

「山本 七平. 一九九〇年代の日本 (PHP文庫)」

今でも、日本人に対する外国人のイメージには「信用を守る」というものがある。

 

 

歴史問題で信用をなくせば、相手に悪感情を与えてしまう。
そうなると、別の問題であっても、交渉することができなくなる。

「だから、『歴史問題と経済は別』ではなくて、一度しっかり約束を守って信用を回復してから、話し合いましょう」

日本と韓国が対立する背景を見ると、日本人は基本的にこういう考え方をしていることが分かる。
韓国のツートラックという考え方が日本に通じない理由は、「信用」というものに対する見方が大きく違うからだろう。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。