小惑星などのかけらが「ヒョーン」と地球に落ちてくると、明るく輝いて「ドーン!」とものすごい音を立てることがある。
それが「火球」と呼ばれる現象。
まあとにかくその映像を見てほしい。
現代では「かなり明るい流れ星」と分かっているけど、古代の人間はどう考えたか?
はるか昔の中国人は火球を、犬が叫び声を上げながら空を駆けていると想像した。
それを中国語で「天狗」という。
狗は犬のことだから、「天の犬」という意味だ。
この天狗が日本に伝わって、まったく別のモノに変わった。
こんな感じにまだまだ科学が未発達で、世の中にある物や現象について正しい理解がされていなかった時代、人間は想像力を駆使して理解したり解釈を試みた。
天狗のような生き物や、いろいろな文化がうまれたのはそのおかげでもある。
さて、この世界にはアスベストという燃えない物質がある。
アスベストが「永久不滅」というギリシャ語に由来するのは、炎にふれても変化しないこの鉱石を見て、古代ヨーロッパ人(か地中海沿岸の人間)がそう感じたからだろう。
綿のように軽いことから、アスベストは石綿(いしわた)とも呼ばれている。
アスベスト
平安時代にできた『竹取物語』では、絶世の美女・かぐや姫が結婚を申し込んできた男に「火鼠(ひねずみ)の皮衣(かわごろも)」を取ってきてほしいと条件を出した。
火鼠(かそ、ひねずみ)というのは中国に伝わる怪物で火光獣ともいう。
このネズミはとにかく火に強くて、炎にふれても燃えることがない。
ということで火鼠は火山の中にすんでいるという設定だ。(または崑崙という伝説の山)
体重およそ250kgというこの火鼠には弱点があって、炎の外で出て水をかけられると死んでしまう。
なんかカッパの反対。
火鼠
火鼠が火山の炎の中にすんでいられる理由は、その体を覆っている毛が炎にふれても燃えることがないから。
この火鼠の毛から織(お)って作った布を「火浣布(かかんふ)」という。
当然この布は燃えることがないし、布に汚れが付いても、火に入れると汚れだけが燃えて雪のように真っ白になるというミラクルな布。
言い寄ってきた男に、「じゃあこれを持ってきて」とかぐや姫が要求した「火鼠の皮衣」というのが火浣布といわれる。というかそれ以外、考えらない。
人間の限界を余裕で超える無茶ぶりにもかかわらず、なんとその男はその布をゲットして、急いで持ち帰ってかぐや姫に見せた。すると姫、それをポイっと火に入れる。
男が持ってきた布は燃えてしまったから、本物の火鼠の皮衣ではないと分かって縁談は消えた。
時代は飛んでアニメの『犬夜叉』で、犬夜叉が着ている赤い衣装がお分かりになるだろうか。
あれが火鼠の衣だ。
デザインは「水干(すいかん)」という平安時代の武士や貴族が着ていた衣装で、素材は火鼠の毛(皮)という設定。
だからあれは日中合作といえる。
これまで何度も出てきた火浣布(火鼠の皮衣)なんだが、その正体はアスベスト(石綿)だったと考えられている。
燃えない不思議な物質を元ネタにして、古代の中国人が火鼠(かそ)という化物をつくり出したのだろう。
日本では江戸時代に平賀源内が石綿を発見し、これで布を作って「火浣布」と名付けて幕府に献上した。
この布はいまでも京都大学に保存されている。
つまり源内はかぐや姫の条件をクリアしたことになる。
天狗のように中国に由来する日本の伝統文化はたくさんあって、火鼠や火浣布もそのひとつ。
この写真はアスベストの原石ですね。
これを布状に加工するには、この原石の表面をかぎ爪のようなもので引っ掻いて綿状にめくって、羊の毛を刈ったような状態にしてからそれをかき集めて、毛布のように固めるのです。’私も昔、アスベスト繊維がもうもうと空中を漂っている、その加工現場を一度だけ見たことがあります。(もちろんマスクはしてました。)
アスベストは無機物(鉱物)ですから燃えないし、繊維の1本1本が非常に細くて(タバコの煙の粒子径くらい)、しかも引張り強度が高い。なので断熱材とか、自動車のブレーキパッドの補強材とか、セメント板の補強材(=人工スレート)なんかには理想的な材料だったのです。でも健康に有害だったのは致命的でした。その原因は、結局、「繊維の1本が細くて強い」ことなんです。これが吸い込まれると肺に刺さってずっと抜けずに、やがてガンの原因になってしまう。
今ではカーボン繊維とか、岩綿(←石綿じゃない)繊維とか、代替物が色々と開発されてます。ただ、やはりアスベストに比較すると、それら代替物の性能は一段落ちるみたいです。