ワクチン接種が遅い理由:英米人が指摘する日本人の国民性

 

いま全国の日本人が不満に思っていること。
それは「新型コロナのワクチン接種が遅い!」ということ。

政府の接種計画が順調に進んでいるか、共同通信社が世論調査を行ったところ、「遅いと思う」が85.0%、「順調だと思う」は12.9%という圧倒的な差があらわれた。

接種率でみると世界の中で日本は100位以下で、医療体制の整備が進んでいない発展途上国と同じか、下手したらそれ以下のレベル。
クーデターが起きて、“内乱状態”に近いミャンマーでも日本を上回っている。
先進国といわれるOECD加盟国の中ではもちろん最下位だ、それも断トツで。

これにネットの声は?

・12%も順調と思うやつがいるのに驚く
・厚労省が承認したのがファイザーだけなんだから仕方ない
・五輪やりたいくせに接種はクソ遅いんだよな
もう何がしたいのか訳がわからん
・早かったら早いで文句言われてただろうがなw
・これ比較対象間違えると単に政府叩きたい人の思う壺にしかならないから気をつけたほうがいいよ

いまの日本と対照的なのが、ワクチン接種が急ピッチで進んでいて、以前の生活を取り戻しつつあるアメリカとイギリスだ。
その差を実感しているのは日本に住んでいる欧米人だろう。
このまえ会ったアメリカ人とイギリス人からそんなグチを聞いた。いや聞かされた。

 

 

きょねん彼らは日本を理想の国と考えていた。

ロックダウンをしても感染者や死者の増加が止まらない欧米各国と、それなしでも、なんとか踏みとどまっている日本を比べて、日本の“優秀さ”を高く評価していた。

日本人はもともと慎重な性格で安全を重視するし、電車の中では携帯電話で話をしないなど、他人に迷惑をかけないよう配慮して行動する。
そうした国民性に加えて、マスクや手洗いの良い習慣が全国的に定着しているから、コロナでの犠牲者は少なかった。
日本に住んでいる彼らはこうした国民性や文化を知っていて、これが最高のコロナ対策だと思っていた。

一方、アメリカやイギリスでは何度言ってもマスクの効果を信じない人が多かったし、政府が「外出するときはマスクをつけましょう!」と呼びかけると、それに怒ってノーマスクで抗議デモを行う“バカ”もたくさんいた。
こんなんだから、外出禁止令を出してレストランや劇場などを強制的に閉めさせても、なかなか状況は好転しなかった。

そのころは日本で自由に行動できる(特に静岡では)ことが自慢だったし、母国の家族や友人からも羨望の目で見られていた。
でも、徐々に事情が変わっていく。

 

欧米でワクチン接種が現実的なものとなって議論や整備が進められ、それがスタートしても、日本ではその気配すらない。
これが新型コロナウイルスへの切り札であることは分かっていて、五輪を開催する日本は世界のどこよりもそれを進めないといけないはずなのに、社会は前に動き出さない。

知人のアメリカ人とイギリス人はそんな現状に疑問や不満を持っていた。
英語を教えている生徒(社会人)にきくと、みんなワクチンの重要性は認めつつも、「副作用がわからないから怖い」「海外の様子を見てからでいい」といった慎重な意見が返ってきた。
でも彼らは「本当にそれでいいのか?」と懐疑的だった。

きょねんの段階では欧米人は明らかにコロナを舐めていたから、大きな被害を出したし、日本ではこういう慎重さがとても有効なコロナ対策になっていた。
でもいまは状況が違う。

どこの国だって命は大事だし副作用は怖い。
でも英米はそのリスクを受け入れたからこそ、ワクチン接種率は50%ほどになり、いま大きな成功を手に入れた。(=日常生活が戻ってきた)
アメリカでは最近、ワクチン接種を終えた人は屋外でマスクをする必要がないという指針が発表され、国内では口紅の需要が急増した。

この東洋経済の記事のように、昨年のいまごろと立場が逆転している。(2021/04/21)

感染者激減した「イギリス」から日本が学べる事

 

安全重視の日本は緊急事態宣言を何度も出して、結局は危険を長引かせている。
母国の家族や知人にはワクチンを打ち終えた人が多いのに、日本にいる自分たちには、それがいつになるのか見当もつかない。
ニューヨークの地下鉄では「いまちょっと時間はあるか?」と乗客に呼びかけて、あると答えた人には「なら、ちょっと来てくれ」とワクチンを打っているという。
ワクチン接種のためにアメリカへ行く日本人だっているのだから、彼らからしたら、いまでは向こうが理想の国に見えるのは当然しごく。
ワクチン製造ができない日本は海外から輸入するしかない。
それを踏まえてもその英米人は、安全重視・危険回避の日本人の国民性がいまのこの差を招いたと考えている。

 

日本の接種が遅い原因に「現状打破」ができないことがある。
ワクチンを確保したら、今度はそれを打つ人材を用意しないといけない。
今回は特例で歯科医師たちにもワクチン接種が認められたが、それではまだまだ数が足りない。
それで河野太郎規制改革相は薬剤師にも注射を打ってもらおうと考えたところ、法律とぶち当たった。

日本経済新聞の記事(2021年5月18日)

薬剤師が注射、医師法の壁 医療行為認められず

医師や看護師、歯科医師とちがって、現状では薬剤師には医療行為が認められていない。
河野氏の案に厚生労働省は「慎重な立場」、つまり反対しているし、「厳格な医師法が立ちはだかる」という状態。
でも何かのリスクを取らないと、打ち手不足が解消されるわけない。
それに接種が遅れれば、それだけ犠牲者も増える。

これだけではなく、戦後最大といっていいほどの未曾有の危機と直面しても、日本には変化を拒否して“従来どおり”にこだわる場面がよくあった。

ニューズウィークの記事(5/15)

厚生労働省が今回、新型コロナへの対応が遅かったのは、法的根拠のない特例を作って、後でその責任を自分たちだけに負わされてはかなわない、という意識があったことも原因だろう。

なぜ日本のワクチン接種は遅々として進まないのか

 

この反対側にいるのがイギリスで、研修を受けた市民がボランティアとしてワクチン接種を行っている。
これによるリスクより、得られるメリットのほうが大きいと判断したわけで、いまのところイギリスはその賭けに成功している。

 

 

薬剤師でも技術的には問題ないのだけど、法律がそれを許さない。法といっても結局はヒトだろう。

いま世界各国が同じ危機に対応しているから、人々の価値観や考え方の違いもあらわれやすくなっている。
日本での報道を見る限り、昨年と今年の失敗/成功は、安全とリスクに対する英米人と日本人の国民性の違いによるもの、という知人の指摘は正しい。
ワクチン接種を「遅いと思う」と答えた85%の日本人のなかにも、この見方に賛成する人は多いのでは。
リスクを回避するというのも、ひとつの大きなリスクだ。

 

 

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3 件のコメント

  • かこのワクチンは製薬メーカーの利権というレッテル貼りで各ワクチン製造ラインが縮小、新規に建てようにも研究所含めて

  • 読売新聞オンライン 5/24(月) 5:01配信
    周囲の制止振り切り突っ走る首相、高齢者接種「7月完了」譲らず…[政治の現場]ワクチン

    んー、この記事タイトルからもわかる通り。
    少なくとも、メディアと首相以外の政治家・官僚は、ワクチン接種を急ぐどころか、「なるべくゆっくり」進めようとしているみたいですよ。医師会側もそうではないかな?
    だとしたら遅いはずですよね。

  • 日本のワクチン接種が、他の先進諸国に比べて遅いことは間違いありません。
    が、だからといって、「もっと早くするべきだ」と強く主張する世論はあまりないように思いますが?
    今朝の新聞とか見ても、「ワクチン接種が遅れている」ことの報道はほとんどなくて、第1面は「ワクチン接種の順番でインチキがされている例があり、不公平だ(と〇〇さんが言っている)」というニュースで大半が占められていました。

    メディアも、当初から「ワクチン接種は慎重にすべきだ」と言っていたことに対して、それをそのまま頬かむりして「もっと急ぐべきだ」とは、今更さすがに堂々とは主張しづらいのでしょうね。多くの国民も同じかな。
    現時点で堂々と「何が何でももっと早めるべし」と主張しているのは、菅首相だけみたいですね。
    それはもちろん支持率を気にしてのことですが。でもこうして誰からも批判されずに自分の考えを堂々と主張できるところも、権力の一部なんですよね。それを「困ったな」とは思っても、表立っては誰も反対できないだろうから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。