一つの中国：五輪で台湾が日本に感謝し、中国が米に怒ったワケ

東京五輪が開催される日、台湾の蔡総統がメッセージを発信したのでまずはそれを見てみよう。

待ち望んでいた東京オリンピックの開会式はもうすぐ始まります。今回オリンピックの成功を心から祈念します。台湾の選手たちと主催国、日本に大きなエールを送りしましょう！一緒に頑張りましょう！ pic.twitter.com/P9VphXnS3T

— 蔡英文 Tsai Ing-wen (@iingwen) July 23, 2021

歴史認識のイザコザや政治的なトラブルとか暗い話題の多いご近所のなかで、日本にとっては安定した希望の光が台湾。
相手におめでたいことがあったら、こんなお祝いのメッセージをおくる日台の間柄は「強敵」を「とも」と呼ぶ少年ジャンプ的なノリでいうと、日台関係と書いて「マブダチ」と呼んでいいほどだ。

日本企業も建築で協力した台湾のシンボルタワー「台北１０１」

さて東京五輪・開会式の翌日、SNSのタイムラインを見てたら、台湾人が日本人にこんなメッセージをしているのを発見。

「謝謝日本☺️　台日永友好👏」

日本ありがとう！日台の友好は永遠だっ。まぁ特に異論はない。
台湾の事情を知っていて開会式を見ていた人なら「ああ、アレね」とすぐにピンと来るはず。
この台湾人が感謝感激した理由はほかでもない、日本が台湾を“台湾”と認めたからだ。

国際社会における台湾の立場はホント微妙で、日本やアメリカ、国連などは台湾を公式には中国の一部とみている。
でも中国とは実質的に別の政府や軍があって独自の外交をおこなっているから、「台湾と中国って別なの？同じ国なの？」とこんがらがる人が日本ではよくいる。

中国は台湾の主権を認めず、自国の一地域とする「一つの中国」の原則を主張しているから、台湾の「独立」なんて絶対に許さない。
もし台湾がそんな宣言をしたら、中国は台湾に攻め込むと言っている。これはブラフじゃない。
でも台湾では中国・台湾は別々と考え、「一つの中国」を否定する人が多い。
日米や欧州など国際社会も台湾の独立は支持していない。
けど台湾の独自性を認めるような言動をするから、それが台湾人をよろこばす一方で、中国政府をイラつかせる。

そんな中国が五輪で、台湾が「国」として参加することを認めるはずない。
でも、台湾が国際的なスポーツ大会からハブられるのはかわいそう。
なので妥協点として台湾は「TAIWAN」ではなく、「Chinese Taipei（チャイニーズ・タイペイ）」という名前で参加することとなった。
これなら「中国の台北市」なので、一つの中国の原則に沿っているから中国政府のメンツも守られることになる。が、「タイワン」を否定されたことになるから、納得いかない台湾人は多い。

そんな複雑な背景があるなかで、東京五輪がスタートした。
その開会式で台湾チームが「チャイニーズ・タイペイ」のプラカードと一緒に入場してきたとき、中継していたNHKのアナウンサーが「台湾です」と紹介する。
その瞬間、SNS上では「あれ？いま台湾って言ったよね？」「言った！驚いた！」といったコメントが乱舞したらしい。
テレビ画面の字幕は「CHINESE TAIPEI」だったけど、アナウンサーが「タイワン」と言ったから、台湾人は「謝謝日本☺️　台日永友好👏」と言うほど感激した。

台湾社会でこのひと言はニュースになるほどのインパクトがある。（2021/07/23）

東奧》幫我國正名！ NHK：「台灣」進場！

「台湾に誇りの瞬間をもたらした」とよろこぶ現地メディアもあったとか。

日本ではもともと台湾と書いて「とも」と呼んでいたから、ネットの反応も上々だ。

・偶々なのか、敢えて潜ませたのか
・ニコニコで見たが台湾への「よくきた！！」、「台湾加油」みたいな弾幕と中国韓国への弾幕の落差が凄かった。
ただ、中国隊は「むっちゃ多いｗ」とか「強そう」ってのもあった
・ロンドン五輪やリオ五輪の中継も同じだっただろ。
・学生時代に地理で台湾って勉強したもんな、仕方ないな。
・台湾って選手団が紹介された上に、聖火リレーで王さん出てきたから、日台友好大勝利だな

といってもＮＨＫが「1つの中国」の原則を破ることはありえない。
日本では「チャイニーズタイペイ」と聞いても、「それって何？」という人が多いから、視聴者にわかりやすいように「台湾」と紹介しただけだろう。
日ごろから、「日本に大きなエールを送りしましょう！一緒に頑張りましょう！」といったメッセージをおくってくれるから、隣人への感謝の気持ちもあるかもしれない。
ちなみにネット情報によると、この「台湾です」に中国側は驚いて思わず放送を中断したため、中国代表が入場してくる大事なシーンを逃してしまい、中国のネット民に怒られたらしい。

こうなると気になるのはこの発言に対する中国側の反応だが、それは「軽い注意」ぐらいのようだ。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報が、「公共放送として『一つの中国』を損なうような報道はすべきでない」と主張ぐらいで大きな反発はない。
中国的にはむしろ問題はこっち。

時事通信の記事（2021年07月25日）

中国、米の五輪中継に抗議　「台湾抜き」地図表示で

開会式を中継した米ＮＢＣテレビが台湾を含まない中国地図を映したことで、中国の在米ニューヨーク総領事館が「不完全な地図」によって「中国人民の尊厳と感情を傷つけた」と怒った。
日本のテレビ局ならここまではしない。
五輪ではアスリートの活躍のほかに、国際社会の複雑な事情も見えてくる。