【隣のムスリム】日本人が忘れちゃいけない、富山コーラン事件

 

いまの日本は「第二の開国ですか?」というぐらい、たくさんの外国人を受け入れている。
これまで日本にあまり縁のなかったイスラム教徒も、23万人にまで増えているから、ある日突然ムスリムが「隣人」や「ご近所さん」になる日がくるかもしれない。
となると異文化理解、特に宗教に対する知識は欠かせなくなる。

ということで朝日新聞の記事ですよ。(2021年11月21日)

国内23万人、隣のイスラム教徒たち 中古車ビジネスも平和な祈りも

彼らムスリムの生活にとって、必要不可欠なものがモスク(礼拝所)。
上の記事には、中古車オークションで買った車を解体し、部品をコンテナに詰めて海外へ運ぶビジネスを営むパキスタン人が紹介されている。
さいたま市にある彼の会社にはミニバン、タクシー、軽トラックなどが山積みにされていて、4年前には同じ敷地内に小さなプレハブ小屋が建てられた。
これがモスクだ。

イスラム教の安息日である金曜日になると、近隣からムスリムたちがここに集まって、サウジアラビアにある聖地・メッカに向かって祈りを捧げる。
作業服を脱いでシャワーを浴びて心身を清(きよ)め、パジャマのような民族衣装に着替えてモスクへやってくる。
ほとんどの日本人は気づいていないだろうけど、毎週金曜日のこのムスリムのルーティンは、もう日本の日常生活の一場面になっているのだ。

 

 

このパキスタン人のビジネスパートナーの日本人は、「自分で事業を立ち上げて食べていくという意識が強い。尊敬してます」という。
ちなみに日本の都道府県の中で、最もモスクが多いのが埼玉県。

でも、日本に住むイスラム教徒を「尊敬してます」と評価する日本人は例外的で、この記事に寄せられたコメントを見ると、「犯罪しなけりゃいいわ」と基本的には無関心か、「こうやって、少しずつ侵食して乗っ取っていくんだよ」と警戒する人が圧倒的に多い。
グーグルからペナルティーを受けそうな侮蔑的、差別的な表現はここには載せられないけど、本音ではそう思っている日本人はかなり多そう。

正直ムスリムは、宗教については妥協や譲歩をほとんどしない(できない)から、学校給食や埋葬など日本での生活で摩擦が起こりやすい。
とはいえ、もし不満や敵意を感じたとしても、それはネット空間の中にとどめておいて、リアル世界で表現してはいけない。
たぶん無宗教の立場や感覚から、過去にトンデモナイことをやらかした日本人がいた。

 

 

ムスリムにとって上のコーラン(アラビア語でクルアーン)は神(アッラー)の言葉で、最も尊く神聖なもの。
改めて確認しとくと高校世界史ではこうならう。

コーラン(クルアーン)

イスラーム教の根本聖典。
アラビア語で「音読されるもの」を意味する。天使ガブリエルによってムハンマドに啓示された、神の教えの記録とされる。
114章からなり、第3代正統カリフのウスマーンの時代に現在の形にまとめられたとされる。

「世界史用語集 (山川出版)」

 

だからこれを汚したり、冒とくするような行為は絶対に許されない、っつーのに、個人的で幼稚な動機から2001年にある日本人がそれをやってしまい、「富山コーラン事件」とよばれる事件を起こした。

まず当時の富山では、中古車ビジネスをするパキスタン人が多くいて、1999年には「富山モスク」が開設された。
あるとき、プレハブの礼拝所(富山モスクかどうかは不明)からコーランが盗まれ、パキスタン人が経営する中古車販売店の前で破り捨てられているのが見つかった。
これはムスリムに対する明らかなヘイト(と思われた)。

すぐに東京、大阪、愛知など全国から数百人のムスリムが富山に集まって抗議集会を行う。
東京でも緊急集会が開かれて外務省に事件解決の要請行動を行ない、パキスタン大使館は犯人の逮捕を主張した。

騒ぎの拡大化を受けて、小泉純一郎首相は国会でこう発言する。

「富山県におけるコーランの破損事件において、イスラム教を信仰する人々の感情が大きく傷つけられたことは誠に残念なことであり、深い同情の念を有するものである。本件については、現在、警察当局によって法律に基づいて厳正に捜査が行われていると承知しており、早期に解決されることを期待する。」

 

海外メディアも報道を行ない、富山の出来事はちょっとした国際問題に発展した。
で結局、捕まった犯人は若い日本人女性で、仲の悪かった父親を困らせたいと思ってこんな騒ぎを起こしたという。
イスラム教に対する敵意や憎悪は特になく、ムスリムは事故に巻き込まれた格好。
犯人が女性だったことや犯行動機がバカバカしいほど幼稚だったことから、在日ムスリムはこの事件を特に問題視しなくなった。

この「富山コーラン事件」によって多くの日本人が、イスラム教徒にとってコーランがどれほど大事で神聖であるのかを実感した。
と同時に、ムスリムの激しい抗議を見て「イスラム教ってなんかコワい」と思う日本人がいたのも事実。
どっちにしても、イスラム教に対する日本人の認識不足は明らかになった。

この「富山コーラン事件」の背景をみると、朝日新聞の記事と重なる部分が多いし、無宗教の日本人は相変わらずたくさんいる。
だからまたそのうち、イスラム教への知識や理解不足から、トンデモナイ事件をやらかす日本人が出てくる悪寒がする。
いま同じことをしたら、海外にいる日本人にも危険が及びそうな国際問題になってもおかしくない。

 

これはイスラム教を国教とするイエメンの首都サヌア

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。