漢字を捨てた韓国語:外国人には朗報も、国内では困った問題が

 

以前、日本に住んでいた知人のアメリカ人が、いまは韓国のソウルに住んでいる。
彼女が日本語習得をあきらめて、(本人がいうには)韓国語をマスターした最大の原因はあのアクマの有無にあった。
平仮名とカタカナを覚えるのはカンタンだったものの、そのあと漢字という強敵が次々と現れ、弓折れ矢尽きたアメリカ人はついに敗れ去る。

その点、韓国語の表記はハングル(文字)だけで数も少ないから、ちょっとガンバレバ取りあえず読み書きはできるようになる。
努力がすぐに表れるってことは大事。
たとえば街の看板を読めるようになると学習の成果を実感できるから、さらなる飛躍へのモチベーションとなる。
日本語の場合、平仮名とカタカナをクリアしても、漢字というモンスターのせいでこんな楽しい気持ちにはなれなかったという。
それで「日本語むりっ」となる。

でも、漢字を捨ててハングルだけにしてしまったことで、便利さと引き換えにいま韓国語には大きな危機が訪れているらしい。

 

 

近ごろ韓国で、同じ党に所属する政治家が選挙に立候補を表明したことを受けて、ある政治家が「武運を祈る」と言った。
日本なら「へ~、で?」となるようなことが、韓国ではニュースになる。

朝鮮日報(2021/11/21)

「ブウンを祈る」ってどんな意味?  韓国で検索順位が急上昇

テレビ局の記者がニュース番組で、「武運を祈る」を「無運(ブウン)を祈る」と間違ってしまった。
いまの韓国人は漢字を捨てて、ハングルだけで文章の読み書きをしているから、こんな同音異義語で意味を誤解することが多々あるらしい。

この記者のミスがきっかけとなって、武運という言葉を知らなかった国民が一斉に「ブウン」をネットで検索した結果、このワードが急上昇して全国紙のニュースになった。
昨年のこの時期、つまり通常に比べて検索回数は200倍近くに増えたという。

先月10月にも同じことがアリ。
政治家が「羊頭狗肉」(羊と見せかけて安い犬肉を売る。つまりズルすること)と言うと、「羊頭狗肉」の検索回数が普段の30倍になった。
ときには意味を正反対で理解する間違いも起こる。
ことしの夏、韓国メディアが、東京五輪で女子アーチェリー代表が「9連覇」を達成したという記事を載せると、「優勝したのに連勝ではなく、なぜ連敗(ハングル表記だと連覇と同じ)と書くのか」という質問がいくつも寄せられた。

これらのミスの原因は、現代の韓国人が漢字使用をやめてしまったことにあると朝鮮日報は指摘する。

こうした現象は、漢字を知らない若者たちが増えたことに起因する。国立国語院の調査によると、「新聞やテレビで使用される言葉の意味が分からず、困ったことがある」と回答した市民は、2015年の5.6%から昨年(2020年)には36.3%と、6倍以上に増えた。

 

漢字なら橋、箸、端という文字を見れば一瞬で意味がわかる。
でもハングルは日本語でいえば仮名だから、「ハシ」と表記するしかできず、文章の前後から意味を判断するしかない。
それで一般人以上の知識のある記者でも、「無運を祈る」というデタラメな解釈をしてしまった。
*これだと運に見放されて失敗してしまう。
ハングルだと同じ表記になるから、人の死を知らせる「訃告」(ふこく)を「訃古」と間違って書いても、誰も気付かなかったこともあったという。

 

いまの韓国語(標準国語大辞典に登録された)名詞の約80%は漢字に由来する言葉なのに、漢字を廃止してハングルを選んだことで、常識レベルの言葉でも理解不能になる人が増えている。
これは韓国語にとって重大な危機。
それで記事では、教育大学のパク教授が「正規の教育課程で1800字程度の基礎的な漢字さえ教えれば、語彙(ごい)と識字力を大幅に高めることができる」と漢字教育の必要性を訴える。
たとえば「食」という漢字一つを覚えるだけで、「食堂から食事、食器など、意味を覚えなくても理解できる」と教授はいう。
日本だとこれは小学校低学年の内容だ。

漢字との二股関係に別れを告げて、ハングルを生涯の伴侶に選んだことで、韓国語は外国人に学びやすくなった一方で、韓国人が韓国語を正しく理解できなくなるという弊害を生んでいる。
*「弊害」のハングル文字を見ても、意味ワカランという韓国人も多いのでは?

でも日本は日本で、漢字のために日本語習得をあきらめて、将来の良き理解者となる外国人の獲得に失敗するという状況はマズい。
日本語の情報で日本について正しく知って、それを海外に発信してくれている外国人は多いのだから。
結局、漢字を捨てても維持しても問題はある。

 

 

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2 件のコメント

  • ルーマニア思想家エミール・シオラン「人は国に住むのではない国語に住むのだ:国語こそが我々の祖国だ」

  • > 日本は日本で、漢字のために日本語習得をあきらめて、将来の良き理解者となる外国人の獲得に失敗するという状況はマズい。

    まあだけど、漢字を全廃してしまった挙句「多くの国民が新聞記事を正しく読み取ることができない」などという「全国民の平均読解力の低下」に陥るよりは全然マシでしょう。どちらを選択するべきかの優劣は明白です。
    実は、この「読解力の低下」こそが、韓国でデジタル化が急速に発展している理由の一つでもあります。なぜなら、一般労働者がボタンを押していれば済む社会においては、一般国民はさほどの読解力を必要としないからです。また、手書きでFAXを作成するほどの文章力も必要ないのです。
    伝統文化を考慮することなく、漢字語を習得した国民から漢字を取り上げることは、国民の知的レベル低下を招くだけだと思います。(以上、呉善花氏の説に私も賛成します。)

    そのような「漢字習得に失敗した外国人」を私も何人か知っています。でも現在は、外国人への漢字の教育方法も昔より進歩して、敷居がより低くなるよう(日本語学校などでは)工夫されてきているようです。今後は、できるだけ多くの外国人が、よりすぐれた日本語指導者・指導法に出会えるといいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。