4月8日、アメリカの各地で太陽が月と重なる「日食」が見られ、昼間でも夜のように暗くなった地域もあり、人びとは特殊なグラスをかけてこの天体ショーを楽しんだ。
ほとんどの国民は日食を見て「ワオ!」と喜んだのだろうけど、共和党のある女性議員は5日に起きた地震とこの日食について、Xでこんな持論を展開して注目を集めた。
「神がアメリカに対し、悔い改めよと伝えるために強力なサインを送っている。地震と日食、そしてさらに多くのことが起きるだろう。わが国が耳を傾けるように祈っている」
この議員は、アメリカの極右勢力が唱える陰謀論「Qアノン」を信じている人物だというから、それにふさわしい内容ではある。
日本の国会議員がこんなコトを言ったらどうなるのだろう?
このメッセージに対しては、「自然現象を政治的に利用している」とか「彼はまるで自分が天使か聖人であるかのように支持者に思わせようとしている」といった批判が殺到。
しかし、この議員は負けず、「神はすべてを創造し、(日食や地震を)信仰する者に向けたサインとして使っているのだ」と反論した。
一方、日本の反応を見るとこの議員は「かなりイタイ人」の扱いで、この投稿にマジレスする人は見当たらない。
・世界の終わりには戦争・災害・疫病・食糧不足・経済破綻があるらしいが
ぶっちゃけ二千年前からずっとあるよな
・スピリチュアルを政治に持ち込むのは古代文明で卒業したはずなんだが
・ほんと政治に宗教を絡めるのって害だよな
・地震はともかく日蝕はスケジュール決まっとるやろ
・子羊たちよ、悔い改めよ!裁きの日は近い!
と言い続けて2000年。
日米の人や社会の大きな違いの一つに、宗教に対する熱意がある。
知人のアメリカ人が大学生のころ、「恐竜は存在しなかった」と科学を全否定する人がいたから、彼女が理由をたずねると「聖書に恐竜なんて出てこないじゃない。バイブルに無いものは存在しないのよ」と真顔で言われ、二度とコイツと関わらないようにしたと話していた。
信心深いアメリカ人の中には、この投稿をガチで信じてしまう人が一定数いるのだろうけど、日本人にとってはネタでしかない。
久米 邦武(くめ くにたけ)もアメリカで、宗教の影響力の大きさに日本人との違いを感じた。
左から木戸孝允、山口尚芳、岩倉具視(ちょんまげ)、伊藤博文、大久保利通という明治日本のスーパースターたち。
明治時代になると、すぐに日本政府は不平等条約を改正するために、岩倉具視をトップとする岩倉使節団(1871〜73年)を欧米へ派遣した。
これに同行した歴史学者の久米 邦武が、現地で見聞きしたことを『米欧回覧実記』に記している。
*以下の「」の部分は「特命全権大使 米欧回覧実記 (角川ソフィア文庫) 大久保 喬樹. 現代語縮訳」のからの引用。
久米はアメリカに渡った後で現地の事情を知り、キリスト教が社会に絶大な影響を与えていることに強い印象を受けた。
例えば、欧米ならどの家にも必ず聖書があり、彼らは半月ほどの旅行をする際にも必ずそれを持っていく。
アメリカ人にとっての聖書は、当時の日本人にとっては儒教の四書や仏典のようなもので、「欧米の人々に敬われ、深く浸透しているという点」では、比較にならないという。
ただ、久米は聖書の内容については馬鹿げたものが多く、天から声がして死者が生き返ったりする話などは「狂人のたわごとと言っても差し支えない」と全否定する。
彼はキリスト教の教えについては、デタラメでくだらないと思ったが、それを信じるアメリカ人の信心は日本人との最も大きな違いであると考え、こんなことを言う。
「あきれて骨まで迷信にとりつかれていると嘲られても仕方ないほどだが、思うに、この頑迷さこそが篤い信仰の要であり、最も及びがたいところではあるまいか。」
彼だけでなく、岩倉使節団のほとんど全員がこう考えたと思われる。
この時から約150年が過ぎ、日米の価値観や考え方の違いは縮まって、「日本人の好きな国ランキング」ではアメリカがよく1位になる。
それでも、地震や日食が起きて、アメリカの連邦議会議員が「これは悔い改めよという神のサインだ」とメッセージをすると、日本人は「迷信にとりつかれている」とか「最も及びがたいところ」と思って引いてしまうのでは?
宗教の影響力は現在でも日米の大きな違いの一つだ。
久米 邦武
アメリカ人と京都旅行 ~日本人とキリスト教徒の宗教観の違い~ 1~11
> 「聖書に恐竜なんて出てこないじゃない。バイブルに無いものは存在しないのよ」と真顔で言われ、二度とコイツと関わらないようにしたと話していた。
> 信心深いアメリカ人の中には、この投稿をガチで信じてしまう人が一定数いるのだろうけど、日本人にとってはネタでしかない。
アメリカ人ですから、プロテスタントのうちで聖書至上主義を唱えるエヴァンゲリスト(福音派)ですかね。あるいはアメリカが本家のキリスト教系新興宗教「エホバの証人」かもしれないですね。あるいはまた、私の知る限りでは、やはりアメリカが本家のモルモン教の保守強硬派もそんなことを言いそうな感じです。
そういう人は、一般的な日本人からすると「かなりイタイ人」(=頭の〇〇しい人?)の扱いとなってしまいます。でも普通のアメリカ人はそんな風にはとらえておらず、「変わった考え方の宗教信者ではあるが、そういう人達が世の中にいても不思議ではない。むしろ宗教心が強いことは人間として尊敬できる点の一つだ」とでも考えているかのように、私には見えました。
一人一人の信仰心の程度には大小あるのでしょうが、一神教が主流のアメリカなどでは「全知全能の神がこの世には存在してしかるべきだ」という考え方が、社会の共通認識として存在しているように思います。これ、日本人には感覚的に理解できません。
知人は神を信じるけれど、キリスト教は信じないという考え方の人です。
面倒くさいので他人の信仰にはノータッチで、この時も刺激するようなことは言わず、すぐ話題を変えたそうです。
ダーウィンの進化説を教えない州があったりアメリカ社会で宗教が与える影響はいまでも大きいようですね。