日本と海外の”英雄”②李舜臣&ネルソンと東郷平八郎の違い。

 

さ、前回の続きですよ。

でもその前に文字数をかせぐため、いやいや、初めてこの記事を見てくれた人のために、前回の内容を簡単にふり返っておきたい。

海外旅行で感じる日本と外国の違い。
それは、外国では歴史上の人物をめっちゃ英雄にしている、ということ。

具体的には、空港名がある。
外国の空港には、その国の有名人の名前がつけられていることがよくある。
「ジョン・F・ケネディ国際空港」、「リバプール・ジョン・レノン空港」、「チンギスハーン国際空港」などなど。
韓国やエジプトのように、地下鉄の駅名に歴史上の人物の名前がつけられている場合もある。

*このへんのことに興味がある人は人名空港を見てください。

 

このように、海外では「歴史上の人物を英雄視する」という傾向が強くある。
でも、日本ではこうした国民的英雄が見当たらない。

 

イギリスの英雄ネルソン。

 

ある人物がその国でナショナルヒーローになるためには、いろいろな条件がある。

でも、「敵と戦い、勝利して国を守った」というのは鉄板中の鉄板。
これをしたら、その国が続く限り国民から尊敬し愛される。
その人物は英雄となって、公共の施設にその名がつけられたり、像や肖像画がつくられたりする。

そんな救国の英雄として、前回は韓国の李舜臣とイギリスのネルソンを紹介した。

2人とも軍人で「海戦で敵(日本とフランス)を打ち破って国を救った」という理由から、国民的英雄になっている。
李舜臣は「露梁海戦(ろりょうかいせん)」で日本軍に勝って、朝鮮を守った」と、韓国では信じられている。
イギリスのネルソンは、トラファルガーの海戦でフランス・スペインの連合艦隊と戦い、これを撃破してイギリスを守った。

 

ここまでが前回の内容でした。

*李舜臣の露梁海戦については、いろいろな見方がある。

「韓国では露梁大捷と呼ばれ、朝鮮・明連合水軍が日本軍に大勝した戦いとされるが、日本側の文献では成功した作戦として記述されている(ウィキペディア)」

 

様々な考え方はあるのだけど、韓国で李舜臣は第一級の英雄になっている。
後ろにあるのは、景福宮という朝鮮時代の王宮。
それを守るようにして立ち、南(日本)を向いている。

 

「敵と戦い、国を守った」

世界中のどこの国でも、そんな救国の英雄はそのまま国民的英雄になる。
その意味では、究極の英雄でもある。
(まずい、すべった予感がする)

でも、この李舜臣やネルソンと同じように、海戦で敵を撃破して国を守ったわりには、あまり知られていない人物が日本にいる。

それは東郷平八郎という人。

日露戦争中におこなわれた日本海海戦で、東郷平八郎はロシア軍を破って日本を救った。

日本海海戦

1905年5月27日~28日。
ヨーロッパから回航してきたロシアのバルチック艦隊(ロシア最大の艦隊、38隻)を迎え撃った日本連合艦隊(司令官東郷平八郎、作戦参謀秋山真之、旗艦三笠以下41隻)が、対馬海峡で壊滅的な打撃を与え、戦局を決定した。

「日本史用語集 (山川出版)」

もし、この戦いで連合艦隊が負けていたら?
歴史作家の司馬遼太郎氏は「日本はロシアの植民地になっていた」と書いている。

 

司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」で、ウィルソンというイギリスの海軍研究家が日本海海戦についてこう言っている。

なんと偉大な勝利であろう。自分は陸戦においても海戦においても歴史上このような完全な勝利というものをみたことがない

「坂の上の雲 (司馬遼太郎)」

Tōgō_Heihachirō

東郷平八郎(ウィキペディア)

 

この時代の日本に、エセル・ハワードというイギリス人女性がいた。
彼女は東郷平八郎をこう書いている。

日本のネルソンといわれ、また日本海軍の父といわれた

「(明治日本見聞録 講談社学術文庫)」

ネルソンはもちろん、トラファルガー海戦の英雄。

日本海海戦は、韓国にとっての露梁海戦(ろりょうかいせん)、イギリスにとってのトラファルガーの海戦のようなもの。
そんなに大事なことのわりには、学校で深く習わないし日本での知名度も低い。
この点は、李舜臣を国の誇りとする韓国に学んでもいい。

 

でも、東郷平八郎は自分を英雄視されることを嫌うかもしれない。

先ほどのエセル・ハワードによると、世界史に残る勝利の後でも、東郷平八郎は静かに暮らしていたから。

東郷提督は大勝利を得た後も、東京の小さな人目につかない家に住み、一般の市民と同じく、外に彼の名を記した小さな木製の表札を掛けていた

「明治日本見聞録 (講談社学術文庫)」

日露戦争でロシア軍との激戦の末にうばった203高地

 

この戦いで、乃木希典(のぎ まれすけ)は東郷平八郎にならぶほどの英雄になった。
乃木はこの戦いの前、妻にこんなことを言っていた。
*些しは「すこし」

自分は、生命も時間も考えも、すべて、陛下と国家に捧げているのだから、些しの私情もこの間にはいってはならないと申しました

「乃木大将と日本人 講談社学術文庫(S・ウォッシュバーン)」

東郷平八郎も日本海海戦の勝利を、「自分とは関係ない」と考えていたかもしれしない。

 

東郷平八郎がどう思っていたのかは分からないけど、韓国やイギリスのように、国のために戦って勝利した人物が国民的英雄になるのは世界のあたりまえ。

真珠湾攻撃を「すばらしい!」と言ったら、「戦争を賛美するな」と怒られても仕方がない。
でも、「日本海海戦で日本はがんばった」と言っても、戦争を美化することにはならない。

これから外国人と接する日本人は増えるだろうから、国際社会の常識的な感覚は身につけておいたほうがいい。

 

中国、大連の博物館で見たイギリスの国旗。
日露戦争のときのものらしい。

 

おまけ

ネルソンがトラファルガーの海戦の直前に言った言葉はとても有名。
だから、知っておく価値はありますよ。

「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」

 

日本海海戦でもバルチック艦隊を迎え撃つために、連合艦隊が出撃するときに秋山真之(あきやま さねゆき)が打電した言葉が有名だ。

「敵艦見ゆとの警報に接し、連合艦隊はただちに出動これを撃滅せんとす。本日天気晴朗なれども波高し」

漢字を含めて13文字、ひらがなのみでも僅か20文字という驚異的な短さで説明しているため、今でも短い文章で多くのことを的確に伝えた名文として高く評価されている

「ウィキペディア」

「ただちに出動これを撃滅せんとす」という覚悟は、「自分たちが負けたら日本は滅ぶ」という危機感の裏返しだろう。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。