バックパッカーの沈没への「批判」と出会ってきた旅行者

 

はじめの一言

*傍らは、「かたわら」
「馬で郊外の小ぢんまりした住居や農家や小屋の傍らを通り過ぎると、家の前に日本人好みの草花を少しばかり植え込んだ小庭をつくっている。日本人の国民性のいちじるしい特色は、下層階級でもみな生来の花好きだということだ。
(ロバート・フォーチュン 幕末)」

「日本絶賛語録 小学館」

 

 

前回の記事で、バックパッカーがよく使う「沈没」という言葉について書きました。
旅をストップして、気に入ったところでのんびり過ごすことを沈没という。

今回は、今までボクが出会った沈没していた旅行者(沈没者)について書いていきます。

 

その前に、「旅」という漢字の雑学を一つ。
「旅」という漢字は、もともとは「戦いに行くこと」をあらわしていました。

戦車を連ねて軍団が進み、他の国へ遠征をする。
このことを「旅」といいました。
旅という字の古い形は(4)のように字の中に「車」が入っています。旗と人と軍がひとつになっている形です。
旗をひるがえし、物を車に積んで人々は進む、これが「旅」なのです。
「図説 漢字の成り立ち事典 教育出版」

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画像は、「図説 漢字の成り立ち事典 教育出版」から

 

今回の内容

・こんな沈没者に会いました
・沈没者への批判

 

・こんな沈没者に会いました

タイのバンコクやインドのバラナシといった街で、「沈没している」旅行者と会ったことがある。
1カ月や2か月、さらにはそれ以上という長期でその街に滞在している人たち。

 

こんな「沈没組」の人たちは、「ビザを取るためにいる」といった目的があってその街にいるわけでもない。
だから,

とくに何をするでもなくダラダラしている人が多い。
好きな時間に起きて、一日中マンガを読んでいたり同じ宿の旅行者と話をしたりして時間を過ごす。

そして、好きなときにご飯を食べてシャワーを浴びて寝る。

悠悠自適というか、定年退職した人のセカンドライフとあまり変らない。

 

でも、ボクが出会った沈没組の人たちで一番多かったのは、変わった人ではなくてごくふつうの人たち。
目が合ったらあいさつをするし、宿代もしっかり払っている。

その人たちとの会話も、特別変わったものではない。

「どこから来ましたか?」
「これからどこに行くんですか?」

そんな、ごくありふれたバックパッカーの会話をしていた。
どこにでもいるふつうのバックパッカーだけど、ただ理由もなくその街にとどまっているという人たち。

ボクが出会った沈没組は、そんな人が一番多かった。

 

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数多くの沈没スポットがあるインド

 

あたり前といえばあたり前だけど、沈没者は事情通。
その街のことをよ~く知っているから、ボクが疑問に思ったことはほとんど答えてくれる。

タイのバンコクでは、「~に行きたいんですけど」と沈没者に言えば、そこに行くバスのナンバーやバス停の場所を教えてくれたり、ガイドブックにない隠れた見どころを紹介してもくれたりもした。

 

まあバス停と言っても、バンコクの場合、「その通りで人がたくさん立っているところ」という漠然(ばくぜん)としたものだったり、「大きな木の下」だったりしたけど。

 

あと、お土産を買うときも、彼らはとてもありがたい存在。

どんなお土産が日本人に人気があって、その適正価格も教えてくれる。

宿のインド人やタイ人より信用できる。

 

長期滞在している旅行者は切りつめた生活をしているから、安いレストランも知っている。
彼らに紹介されたレストランで、「外れ」はほとんどなかった。

沈没者と一緒に宿のまわりを歩くと、現地の街の人からあいさつをされることもある。
もちろん、ボクじゃなくて沈没者に。

「すげえ!この人すっかり街の顔だ」

なんてことを思ったもんだ。

そして、つれて行ってもらったレストランでは彼はもう常連さん。
メニュー表はいらない。
頭に入っているから。
ぼられる心配もなくて心強い。

 

・沈没者への批判

でも、こうした沈没者に対して批判はある。

なんせ自堕落といえば、これ以上ないほど自堕落な生活をしているから。

本人は好き勝手に過ごしている。
日本だったら親から怒られるだろうけど、海外にいるからまわりの人間から責められることがない。
だから、余計にやりたいことができる。

そうなると、無限ループでさらにだらしない生活になってしまうことがある。

 

こうした沈没者を見て、悪いイメージをもつ人もいる。

自分が被害を受けているわけではないから、直接本人には言わないけど、批判する人は批判する。

「あの人たち、何しに海外に来たんだろうね?」

「『今良ければ、それでいい』って、言っている年じゃないでしょ」

そんなことを別の旅行者から聞いたことがあるし、正直ボクもそう思ったことがあるけどね。

まあ沈没している本人は、そんなことは百も承知で「カエルの面に水」「馬の耳に念仏」なんだろうけど。

 

あと面白かったものに、こんな批判があった。

「でも、あの人たちって国民の3大義務のうち2やってないよね」

国民の三大義務(こくみんのさんだいぎむ)とは、日本国憲法に定められた「教育の義務(26条2項)」「勤労の義務(27条1項)」「納税の義務(30条)」の日本国民の三つの義務を指す。

(ウィキペディア)

 

確かに、やってはいない。
というか、できないしね。
日本で日々、働いて税金を納めている人たちがいるおかげで、そうしたことができるんだから。
「沈没する」といっても、正確には、沈没させてもらっているんだろう。

 

でも、いつまでも沈没していられるわけもない。
日本に帰ったら、沈没してたぶんがんばってくれるでしょ。
人生まで、そのまま沈没してしまうことはないろうし。

 

この前、若いバックパッカーに会って話をきいたら、今でも沈没という言葉は旅行者の間で使われていて、今でも世界の各地に沈没者がいるという。

時代は変わっても人は変わらない、と変に感心したもんだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。