韓国の進歩派と保守派の争い。“親日派”のレッテル貼りに激怒

韓国社会の考え方は一つではなくて、大きく「保守派」と「進歩派」に分けられる。

この前の選挙で大勝して、いま大きな影響力を持っている文政権や与党は進歩派で、パク・クネ前大統領や下の記事を載せた朝鮮日報などは保守派の人たちだ。

朝鮮日報の記事（2020/07/13）

「国が英雄ペク・ソンヨプ将軍を冷遇」市民たちが立ち上がった

ペク・ソンヨプ（白善燁）氏は、1950年の朝鮮戦争で韓国を守った英雄とされている。
でもそれは保守派からの見方で、進歩派の人たちはペク氏が日本統治時代に軍人になったことを問題視して、「親日派」と批判することが多い。
韓国社会でいう親日派とは、民族の裏切り者や売国奴といったネガティブな意味がある。

こんなことは台湾では考えられないけど、韓国ではノ・ムヒョン政権時代（2003年 – 2008年）に政府が「親日派」を作成して、ペク氏がそこに入れられた。

盧武鉉政権時代にすすめられたチンイルパ弾劾運動では、反民族特別法によって発表された親日人名辞典に日本の韓国植民地統治に協力した親日派としてリストアップされた。

白善ヨプ

韓国では国家元首や愛国者、国のために命を捧げた将兵などの英雄は死後、国立ソウル顕忠院へ埋葬されることになっている。

ペク氏が亡くなったら当然、そこに埋葬されるはずだったけど、「親日派」を嫌ったいまの文政権は、首都ではなくて国立大田顕忠院に埋葬することを提案したことで、保守派がこう激怒した。

「やむなく日本軍に入隊したという理由だけで『親日派』『反民族主義者』とレッテルを貼るのは行き過ぎた評価であり、事実の歪曲（わいきょく）だ」

「解放後、韓国軍設立に参加し、金日成（キム・イルソン）の違法な南侵から始まった6・25戦争では命をささげ、国を守り抜き共産化を防いだ戦争英雄の名誉を踏みにじる反民族的行為だ」

くわしいことは朝鮮日報の記事（2020/05/28）をどうぞ。

韓国在郷軍人会「ペク・ソンヨプを親日派に追いやるのは国軍の否定」

でもペク氏に日本軍の軍人だった経験がなかったら、「戦争英雄」にはなれなかったはずで、この二つのキャリアは矛盾していないし、切り離して考えることもできない。

それにしても、これはことし五月のことで、このときペク氏はまだ生きていた。
生前から、遺体をどこに埋めるかでもめるが韓流政治らしい。

この約１か月後の７月はじめ、この救国の英雄は息を引き取った。
文政権によってペク氏はソウルではなく、「ワンランク下」の国立大田顕忠院に埋葬されることが決められて、保守派の朝鮮日報は「冷遇」と怒る。

「国が英雄ペク・ソンヨプ将軍を冷遇」市民たちが立ち上がった

市民が立ち上がったというのは、焼香所にたくさんの市民が訪れたことを指す。
その中の１人は、「6・25戦争の時、国を守った方がお亡くなりになったと聞いてやって来た。国の英雄に対してどのような待遇をするかを見れば、その国のレベルが分かる」と言う。
つまり、「文政権の韓国はレベルが低い」と言いたいのだろう。
保守派の思いもきっとこれと同じだ。

でもこの中央日報の記事（2020.07.15）によると、進歩派の中には国立大田顕忠院に埋葬することさえ「厚遇」と考える人がいてこう話している。

「私は現実的に親日派であることのほうが悪いと考える。大田（テジョン）顕忠院にも埋葬されるべきではないと思う」と主張した。

「わが民族である北朝鮮に銃撃った白善ヨプ、なぜ顕忠院に埋葬されるのか」　韓国弁護士の発言が波紋

親日派はそれだけで重罪なのだ。

現代の価値観から、100年ほど前の行為を一方的に裁かれたらたまらない。
でも韓国与党など進歩派には正義を自称する人が多くて、自分の考え方で親日派を決めつける。
そしてその「悪」を非難し、韓国社会から排除する「親日清算」を気持ち良さそうにやっている。

亡くなった人間は言い返せないから、安心して断罪することが可能だ。
日本軍の軍人だった韓国人は親日派の代表格で、いまでは「裏切り者」や「売国奴」といった扱いをされるけど、そんな人たちの生前の声に耳を傾けると、とても非難する気にはなれない。まあ日本人の感覚としてだけど。

戦争末期、米軍艦船への自爆攻撃をおこなった特攻隊員には韓国人（朝鮮人）もいた。
例えば「金尚弼」という隊員が兄と話をしているとき、日本のために死ぬ必要はないから逃げろと言われると、金はこう言い返す。

自分は、朝鮮を代表している。逃げたりしたら、祖国が嘲われる。多くの同胞が、一層、屈辱に耐えなければならなくなる

「洪思翊中将の処刑　（山本七平）」

別の韓国人特攻隊員は、「俺は、朝鮮人の、肝っ玉を見せてやる」と言って、それを聞いた弟はこう語る。

無口な兄貴は、だから、卑怯な振舞いはせんで、朝鮮の同胞のため、ぼくたち家族の誇りのために、突っこんだのですよ

「洪思翊中将の処刑　（山本七平）」

いまになって、こういう人たちを親日派と呼んで侮辱するのが進歩派。

特攻隊の攻撃を受けて炎上する米軍空母

そんな進歩派の人たちがつくった韓国はというと、これがなかなかムゴイ。
「国が英雄ペク・ソンヨプ将軍を冷遇」という記事と同じ日の朝鮮日報の紙面はこんな感じだ。

保守派の朝鮮日報は韓国与党には批判的だから厳しい記事が並んでいるけど、それを考えても、与党政治家のやることや言うこと、さらに「セクハラ観」は異常。
与党議員のセクハラ行為（というか性犯罪）を訴えた女性を「必ず探し出して報復する」と言っているのは与党支持者で、これが「最低限の尊厳・マナーも守られない社会」につながる。
性犯罪の発生件数を見ても、保守派の朴槿恵（パク・クネ）前政権の韓国のほうがキレイだった。

「自分は、朝鮮を代表している。逃げたりしたら、祖国が嘲われる」
「卑怯な振舞いはせんで、朝鮮の同胞のため、ぼくたち家族の誇りのために、突っこんだのですよ」

こんな人たちが命をかけた国は、文政権ら進歩派によってとんでもない国になってしまった。