【心臓を捧げよ】日本と海外で違う“ボランティア”の意味

 

ロシア軍の侵攻を受けて、いまウクライナが大ピンチ。
ということで在日ウクライナ大使館がツイッターで「ボランティア」を募集して、そのあとツイートが削除された。
その理由には、日本政府から「目的を問わず渡航は控えるように」とウクライナ全土への退避勧告が出されたことがあるし、その「ボランティア」は多くの日本人にとって望ましいものではないからだ。

日本でボランティアというと自発的に地震や洪水などの被災地へ行って、困っている人たちに食料を提供したり、必要な物資を届けるような奉仕活動を意味する。
知人の外国人が日曜日にしている海岸のゴミ拾いも、立派なボランティア活動だ。

英語の「Volunteer」にも、自分の時間や労働力を公共の利益のために提供するという意味があるのだが、この由来は「志願兵」だったということをご存知だろうか。
英語版ウィキペデアによると、この言葉は1600年ごろのフランス語「voluntaire(軍役に身を捧げる者)」に由来し、1755年に初めて文書か何かに記録された。

The verb was first recorded in 1755. It was derived from the noun volunteer, in c. 1600, “one who offers himself for military service,” from the Middle French voluntaire.

Volunteering

 

「military service」とは兵役のことだから、「Volunteer」はもともとは自分から進んで軍隊へ入る人、つまり志願兵を指していたのだ。

日本語版ウィキペデアの ボランティア では「英語の volunteer の語の原義は十字軍の際に「神の意思」(voluntas)に従うひとを意味した志願兵である」と説明されている。
いまでも外国ではこの意味で“ボランティア”が使われていて、たとえばウクライナ侵攻についての海外メディアを見るとこんな文がある。

「thousands of volunteers from the U.S. as well as others from Great Britain, France, Italy, Germany and Poland are ready to join the fight.」

アメリカはもちろん、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、ポーランドから何千人ものボランティア(志願兵、義勇兵)が戦いに参加する準備ができているという。
「American Veterans Volunteer to Fight in Ukraine」のベテラン・ボランティアとは、退役軍人でこの戦いに志願した人のこと。
日本人がそう聞いたら、80歳を超えたスーパーボランティアの尾畠春夫さんを連想するかも。

この意味から派生していって、いまではいろんな奉仕活動をボランティアと言うから、それと区別して志願兵を指すときは「army volunteer」と表記することもあり。
いまたまたま見た韓国メディアの中央日報も、「外国人ボランティアメンバー」と書いていた。
日本のメディアで志願兵をこう表現したものを見たことがない。

 

個人的に、ボランティアに「兵士」の意味があるとはまったく知らなかった。
だもんでむかしイラク戦争が起きたとき、CNNテレビで「たくさんのボランティアがイラクへ向かっています」という言葉と一緒に銃を持った人たちが映っていたから、違和感を感じて調べてみたら、実は彼らこそ本来のボランティアだったと知る。

 

ウクラナイナ政府の呼びかけに応えて、いまたくさんの「ボランティア」が戦地へ向かっている。

 

 

でも、海外の志願者で外国人部隊をつくるというゼレンスキー大統領のアイデアは、一般的な日本人の考え方には合わない。
日本でも元自衛隊員を中心に約70人が志願したという報道もあったけど、あれも結局は立ち消えになったはずだ。

海外メディアの報道では、「ウクライナの人には自由に、幸せになってほしいので共に戦う」というスイス人など、2万人のボランティア兵士がウクラナイナに集結しているという。
でも日本では、「最も大事なものは命。祖国ではなくて、外国のために命をかけるなんて…」と考える人が多いから、ネットの反応を見てもしょせんは他人ごとらしい。

・がんばってください
・竹槍寄附いたしますぞ
・ハリウッド映画化決定!
・カミカゼいっけえ
・酔わされた勢いでサインさせられた人が参加してるのか
・だが我々は愛のため 戦い忘れた人のため
・イスラム国にもいろいろな国から義勇兵が集まったが
末路は悲惨だったな

 

「命は最も重要なもの」ということは世界中の人が知っている。
だからネットで志願兵を英語で批判した日本人が外国人から、「命の価値はおまえに言われなくても、みんな分かっている。それでも、それを犠牲にしても守りたいものがある。おまえはその価値を分かっていない」とツッコまれた。

バングラデシュ人やベトナム人、リトアニア人など、他国に支配されていて、戦って独立を達成した国の人たちと話すと、日本の歴史にはそんな経験がないから、彼らと日本人では愛国心が違うとよく思う。
『進撃の巨人』の「心臓を捧げよ」というセリフは、自国の歴史のどこかに当てはまるリアルだから共感できるという外国人は多い。

きょう3月10日は10万人以上の人が亡くなった東京大空襲の日で、日本ではそういう戦争被害者に最も深い気持ちを示すけど、戦った人にはそれほどでもない。
でも独立戦争の経験のある国では、その被害者には最も深い同情や哀悼の気持ちが捧げられて、戦いで命を失った兵士には同じレベルでの敬意や名誉がおくられている。
日本の場合、兵士に神風特攻隊のような自殺攻撃をさせるほど命を粗末に扱った負の歴史があって、その反省から、逆にいまでは命が最上の価値になっている。
「命がなにより大事」ということは誰でも知ってる。
でも海外では母国のために戦うとか、その常識を超えるもののために自分の命を捧げる人がいて、そうした行為は一般的に「がんばってください」ではなくて、とても高く称賛されている。

もちろん、これは命の軽視につながる可能性があるし、個人的にはウクラナイナの志願兵になることには反対。

災害などで困っている人に必要な物資を運んだり、食べ物を作って提供するといった日本のボランティア活動は素晴らしいことだ。
それと同時に、命をかけて戦うボランティアも海外では高く評価されていることを、地球市民の一人として日本人も知っておいていい。

 

 

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4 件のコメント

  • 多岐に渡る興味深い記事。更新を普段よりとても楽しみにしている者です。

    今回の事(ロシアのウクライナ侵攻)について、胸が潰されそうな苦しい気持ちと悲しさと虚しさと怒り(プーチンに対して)でいっぱいです。

    結局、、”どこかの誰か”が
    “こんな非道な選択をした”ばっかりに、苦しみと悲しみに暮れるのは両国共に善良で愛に溢れた一般市民だけ。

    遠く離れた日本で、私の様な一般市民が出来る事は何だろう?

    募金をする事(少しずつでも出来る範囲で欠かさず)・小さな声であろうとちゃんと声に出す(snsで発信・身の周りの友達との会話の中で触れる)事(先日(3/5)の青山〜渋谷のパレードに参加)等を続けているところです。

  • ありがとうございまーす。
    個人がSNSや街頭で声を上げて、それがウクラナイナにとって具体的にどんな役に立つのか?
    と否定的にみる人もいますが、ウクラナイナ人の反応をみると、自分たちに共感や同情を寄せていることを行動で示してくれると、やっぱりうれしいらしいです。
    見ている人は見ています。

  • > 日本でボランティアというと自発的に地震や洪水などの被災地へ行って、困っている人たちに食料を提供したり、必要な物資を届けるような奉仕活動を意味する。
    > 個人的に、ボランティアに「兵士」の意味があるとはまったく知らなかった。

    そうですね。平和な(平和ボケした?)日本であるからこそでしょうね。
    ほとんどの外国人だったら「志願兵」という意味はすぐにピンと来るだろうと思います。戦争映画などを見ているとよく出てくる単語であり、たとえば部隊長が戦線で突破口を開くため、兵士達に危険な任務を割り当てる場合など「We need two volunteers!」と志願者を募ったりします。
    ほとんどの日本人は知りませんが、volunteer の他にも、serviceとか、privateとか、officerとか、軍隊・軍務に由来する単語はたくさんありますよ。これらの中では、「沈黙の艦隊(サイレント・サービス、即ち"潜水艦戦力")」という漫画のタイトルで、serviceにそのような意味があることを知った人もいるのではないかな。

  • 日本では多分、ボランティアに志願兵の意味があるコトを言うのはタブーという雰囲気があるように思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。