英国でリヴィングストンが、最も人気のある英雄だったワケ

 

世界最大の滝といえば南米にあるイグアスの滝か、アフリカのヴィクトリアの滝のどっちかだ。
きょう11月17日は、1855年にアフリカを探検していたリヴィングストンが、ヨーロッパ人として初めて巨大な滝に到達し、それを「Victoria Falls」(ヴィクトリアの滝)と命名した日らしい。
ヴィクトリアは当時のイギリス女王の名前だから、リヴィングストンはこの滝を女王に“捧げた”つもりだったと思われる。
100年以上前のアフリカに対するヨーロッパ人の認識なんてそんなもの、現代から考えると、超上から目線が当たり前だった。

さて、探検家&宣教師だったリヴィングストンについて、英語版ウィキペディアでは、19世紀末のヴィクトリア朝時代のイギリスにおいて、最も人気のあった英雄の一人とべた褒めしている。

Livingstone became one of the most popular British heroes of the late 19th-century Victorian era.

David Livingstone

 

その理由は彼が「ほぼパーフェクト」だったから。

 

デイヴィッド・リヴィングストン(1813年 – 1873)

 

リヴィングストンは初めてアフリカ大陸を横断したヨーロッパ人で、彼が正確な地図を作ったことで、「暗黒大陸」と言われていたアフリカの実態が見えてきた。
その功績から、彼はアフリカ大陸を“開いた(opened up)”と称賛される。
リヴィングストンの探検から得られた情報に基づいて、ヨーロッパの各地でアフリカの地図が作られるようになり、交易ルートが生まれ、ヨーロッパの進出が容易になった。

ヨーロッパで英雄視された探検家には、15世紀にアメリカ大陸を“発見”したコロンブスがいる。
しかし、彼は多くの先住民を虐殺し、奴隷にしたことから、欧米の価値観が変化して人権が尊重される世の中になると、コロンブスの評価はダダ下がりになった。
リヴィングストンはその点が違う。

 

赤い線がリヴィングストンの通ったルート

 

19世紀の中ごろには、ヨーロッパで奴隷制度が廃止されていたが、アフリカでは、アラブ人が現地の人間を奴隷として売り買いの対象にしていた。
熱い正義の血が流れるリヴィングストンは探検中、奴隷貿易やアフリカ人に対する虐待・虐殺の実態を知り、それを著書によってヨーロッパ人に伝え、大きな反響を呼びおこす。
「え? それって、あんたらがやってたことじゃん」というツッコミはしてはいけない。

リヴィングストンは奴隷貿易の廃止を大きな目標とし、アフリカに「キリスト教、商業、文明」をもたらすことをモットーとした。
そしてこれによって、ヨーロッパ人がアフリカ人の尊厳(dignity)に気づくことを望んだ。
彼の熱心な活動の結果、ザンジバルの奴隷市場は閉鎖される。
ここがコロンブスとは決定的に違う。

しかし、残念なお知らせがある。
皮肉なことに、リヴィングストンの探検によってアフリカ大陸が「開かれた」ことで、奴隷商人たちが中央アフリカへ進出しやくなり、奴隷狩りや奴隷貿易が活発化したという一面もあったのだ。

 

アラブ商人にムチを打たれる黒人奴隷

 

 

リヴィングストンはアフリカ大陸を探検し、多くの価値ある新発見をヨーロッパにもたらした。
そして奴隷貿易を憎み、これを廃止しようと取り組む。
同時に、アフリカ人を「下等人種」と考えていた当時のヨーロッパ人に、アフリカ人の尊厳を認めさせようとした。
さらに、彼は宣教師として、現地住民にキリスト教を伝えた。

100年ほど前と現代の価値観からみても、「素晴らしい」と評価される人物はなかなかいない。
2002年にリヴィングストンがイギリス国民から、「最も偉大なイギリス人 100人」に選ばれたのも納得。

 

アフリカ人にキリスト教を伝えるリヴィングストン

 

おまけ

あるとき、リヴィングストンの消息が分からなくなり、イギリス人の探検家スタンリーが彼を見つけることに成功した。
その瞬間、スタンリーはこうたずねた。

「Dr. Livingstone, I presume?」
(リヴィングストン博士でいらっしゃいますか?)

この言葉が後にイギリスで慣用句となった。
当時のイギリスにとって、リヴィングストンはそれほど重要な人物だったのだ。

 

 

 

 

アフリカ 「目次」 ①

アフリカ 「目次」 ②

アフリカ人と日本人の宗教観 神社で「恐怖」を感じたわけ

【白人の責務】アフリカ・中東で直線の国境が多い悲しい理由

アフリカから貧困がなくない理由 「国に貧しさが必要だから」

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。