日本人には複雑怪奇 ヨーロッパ諸国の「同盟の歴史」

 

3日で首都キーウを落として、ウクラナイを制圧するーー。

ロシアは当初そんな計画を立てていたという話もあるが、実際にウクライナへ侵攻してみると想像を超える激しい抵抗があって、半年以上たったいまでも戦争は継続中だ。
思わぬ苦戦に、プーチン大統領の側近は苦しそうにこう言う。

NHKニュース(2022年10月6日)

ロシア「実質的にNATOとの戦い」欧米側の軍事支援を非難

ドイツやフランス、イギリスなどのNATO(北大西洋条約機構)加盟国が武器や弾薬をどんどんバンバン供給し、ウクライナ軍の攻勢を支援している。
それでこれは実質的に、「ロシア vs NATO」の構図になっているとロシアが激怒。
でも日本のネット民には、この未来は見えていたらしい。

・今頃気付いたの?
・ロシアは第二次世界大戦ではアメリカに武器貰って戦ったのを誇ってただろ
・日本もなんとかNATOに加盟して今からでも勝ち組になれないのか
・文句あるならプーチンとゼレンスキーの漫才対決で決めてもいいんだぞ
・のび太に手を出しておいてドラえもんの道具がずるいとか馬鹿じゃね

 

歴史を見るとロシアが共通の脅威になって、ヨーロッパの国が同盟を結ぶことは以前もあった。
1879年には、ドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー帝国がタッグを組んで独墺同盟(どくおうどうめい)が成立し、ロシアがどちらかの国に攻撃をしかけた場合、もう一つの国は全力で支援する体制が整った。
ヨーロッパ諸国の関係はかなり複雑だ。
ドイツ・ロシア帝国・オーストリア=ハンガリー帝国の3カ国の利害が一致して、1873年に「三帝同盟」を結ぶ。
でも事情が変わり、これは自国の利益にならないと判断したロシアが78年に脱退。
するとその翌年、6年前の仲間を仮想敵国として、ドイツとオーストリア=ハンガリー帝国が同盟関係になった。

大陸にあるヨーロッパの国は陸続きで、他国の情勢が自国にチョクで影響を与えるから、同盟を組んだり破棄したりといった動きが昔からよくある。
フランス革命後にナポレオンが現れたときは、1793年の第一次から1815年の第七次まで、ヨーロッパ諸国は7回もフランスを相手に軍事同盟を結成した(対仏大同盟)。
でも、7回すべてに参加したのはイギリスだけ。
あとのスペイン、オランダ、ポルトガル、スウェーデン、ドイツ・イタリアの諸国などは、その時々の利益によって参加したから、全体的に入れ替わりが激しすぎ。
だから、世界史を選択した日本の高校生が悲鳴をあげることになる。

ヨーロッパの国は自国の利益を最優先し、そのとき一番オイシイと思った方向へ進路変更する。
200年以上前から対立し戦い合っていて、互いに最大の敵と思われていたオーストリア(ハプスブルク家)とフランス(ブルボン家)が、1756年に同盟を結んでヨーロッパの国際外交を一変させた。
はじめは最悪の敵同士でも時代が変わると、オーストリアにはプロイセン(ドイツ)、フランスにはイギリスと倒すべき敵がそれぞれ変わったから、マリア・テレジアとフランスのルイ15世がタッグを組む。
それで「外交革命」というほどの衝撃をヨーロッパ世界に与えた。

 

第二次世界大戦が始まる直前の1939年、「欧州の天地は複雑怪奇」と首相の平沼騏一郎(きいちろう)首相がうめいて総辞職した。
共産主義には反対するという利益が一致して、日本とドイツは同盟関係になったにもかかわらず、ドイツは日本の立場をガン無視して1939年にソ連と「独ソ不可侵条約」を結んでしまう。
平沼首相はドイツとの関係を深めて、一緒に反ソ勢力を結集しようと考えていたのに、突然ドイツとソ連が握手をしたのを知って、ヨーロッパで起こることはまったく理解できない(欧州の天地は複雑怪奇なる新情勢を生じた)とぼう然となる。
そして、国際情勢の見通しを誤った責任をとって辞職した。
こんな事態を想像できた日本人はいなくて、「複雑怪奇…」とみんな絶句状態だったと思われる。

全体主義のナチス=ドイツと共産主義のソ連が握手をしたことは、たしかに世界中を驚かせた。でも、内閣が吹き飛ぶほどのショックを受けた国は日本以外に知らない。
島国の日本では明治時代になるまで、自国の利益を優先して外国と同盟を組んだり、破棄したりする経験がなかった。
日本にとって初めての軍事同盟は1902年の日英同盟だ。

昨日の敵は今日の友。
でも明日、どうなるかは分からない。
ヨーロッパのそんな複雑な同盟の歴史に対して、戦前の日本はウブすぎた。
「ドイツがソ連と組んだ? 何故だ!? 理解できない」という日本を独ソが見たら、「坊やだからさ」と冷笑するレベル。
今回のウクライナ戦争をめぐる国際情勢では、「欧米の天地は複雑怪奇」と日本が言葉を失うことの無いことを願うばかり。

 

 

ヨーロッパ 目次 ①

ヨーロッパ 目次 ②

ヨーロッパ 目次 ③

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

【島国 vs 大陸国】日本人とヨーロッパ人の違いは“国境の感覚”

女性蔑視①欧米人から見た神道とキリスト教、日本とヨーロッパの違い。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。