ナチスと歴史の責任|3人のドイツ人に聞いた「過去との向き合い方」

4月21日は、第一次世界大戦中の1918年に、ドイツ軍で「撃墜王」と呼ばれたリヒトホーフェンが撃墜され戦死した日。
ということで、哀悼の気持ちを込めて、今回は現代のドイツ人の「歴史認識」について書いていく。

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ドイツで軍人の名前を店名にすることはできる?

日本に300店舗以上あるオートバイショップの「レッドバロン」。
この社名はドイツの撃墜王、リヒトホーフェンに由来している。

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日本に住んでいたドイツ人(30代・男性)とドライブをしていて、たまたま「レッドバロン」の前を通り過ぎた。
そのときふと疑問がわいたので、彼にこんな質問をしてみた。

「今のドイツではこんなふうに、軍人の名前を店の名前にすることはできる?」

それに対する答えは「イエスとノー」。
彼の感覚では、リヒトホーフェンのような第一次世界大戦時の軍人なら大丈夫だろうけど、第二次大戦の軍人を店の名前にすることはできない。

 

第一次も第二次大戦もドイツが主導してはじめた戦争で、ヨーロッパに壊滅的なダメージを与えたという点では同じだ。
しかし、第二次世界大戦では「ホロコースト」があったという決定的な違いがある。

ヒトラー率いるナチスは人種差別思想にもとづき、約600万人のユダヤ人を虐殺し、一つの民族を絶滅しようとした。
第一次大戦と違って、国家が人道に反する重大な罪をおこなったため、それに関わる人の名前を店名に採用することはできないという。

ドイツの若者が語る「ナチスの歴史」への思い

ドイツ人にとって、ホロコーストは単なる「過去の出来事」ではなく、今も社会全体で向き合い続けている「現在進行形の問題」なのだ。

ドイツ国民は自国の暗い過去と、どのように向き合っているのか。

これまで何人かのドイツ人から、ナチスの歴史についてどう理解し、受け止めているのか聞いたので、これから彼らの意見を紹介しよう。

ちなみに、彼ら全員は日本の大学で学んでいた留学生で、20代と30代の若者だ。
自分が生まれる前に起きた悲劇について、3人とも少なからず責任を感じていた。

1. 「民主主義が生んだ独裁」

ドイツ人Aが、自分たちにも責任があると考えた理由は、当時の「民意」によってヒトラーが選ばれたから。

第一次世界大戦の反省から、ドイツはワイマール憲法を制定した。
これは、国民主権や男女普通選挙、労働者の権利などが明記され、世界で最も民主的で先進的と評価された。

そのワイマール憲法の下に、国民は自分たちの意思でヒトラーを選んだ。
だから彼は、ヒトラーの罪は国民全体の罪でもあり、現代のドイツ国民も少なからず、その「原罪」を背負っていると考えていた。

一人の独裁者がいきなり登場し、武力で国を乗っ取ったわけではない。
ヒトラー率いるナチ党は民主主義のルールにもとづき、国民の熱狂的な支持を得て選挙という合法的な手段で第一党になった。
ヒトラーに大きな権力を与えたのは国民自身だった。

ドイツ人Aはホロコーストという巨悪の責任を、ヒトラーやナチスの幹部だけにあるとは思わず、暴走を止められなかった社会全体の責任(連帯責任)としてとらえていた。
そのため、民主主義を過信しないで、「もう二度と間違った選択をしない」ことを過去の反省と考えていた。

2.日常の風景に刻まれる記憶「つまずきの石」

ドイツの路上には、小さな真鍮(しんちゅう)のプレートが埋め込まれていることがある。
「つまずきの石(Stolpersteine)」と呼ばれるものだ。

 

 

この石は、ナチスの犠牲となった人々が、強制収容所に送られる前に生活していた場所に埋め込まれていて、表面には犠牲者の氏名や生年月日、連行された日など、「生きた証」が刻まれている。

ドイツ人Bは、この『つまずきの石』が国民にとってとても重要なものだと語った。

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彼女が大切に考えていたのは、ホロコーストの犠牲者を「約600万人」という数字だけで理解しないで、できるだけ多くの人生に触れること。

アイスクリームを食べながら道を歩いていて、ふとこの石を見ることで、「彼らもかつて、今の自分と同じようにこの町で暮らし、この道を歩いていたのだ」という事実をリアルに感じることができる。

博物館に行ったり教科書を開いたりしなくても、毎日の通勤や通学で歩く日常生活の中に、「負の歴史」の記憶が溶け込んでいる。
ドイツ国民が記憶を風化させないために、彼女は『つまずきの石』をとても重要なアイテムとみていた。

3.歴史の責任|移民社会との新たな摩擦

最近のドイツではおもに中東から人が流入していて、人口の20%を超えた。
移民の多くはイスラム教徒だ。

2022年には首都ベルリンで生まれた男の子の名前で、もっとも多かったのは典型的なイスラム教徒の名前である「モハンマド(Mohammed)」だった。

社会ではイスラム教徒とのトラブルも発生していて、「難民をドイツから追い出せ!」と主張する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が国民の支持を集めている。

ドイツ人Cは「AfD」には共感しないが、移民など海外にルーツを持つ人たちに対して、こんな不満を口にした。

「ドイツ人であれば、過去にナチスがしたことに対して責任を負う必要がある。しかし、彼らはそれをしようとしない」

 

外国で生まれ育った人間には、ナチスとのつながりを実感するのはむずかしい。
たとえば、シリアで生まれ育ってドイツ国籍を取った人間からしたら、祖父母やその上の世代がヒトラーを選んだわけではないから、ホロコーストを「自分たちの責任」とは感じないだろう。

しかし、ドイツ人Cは難民や移民であっても、ドイツの歴史を背負い、「ナチスの罪とホロコーストへの反省」を共有するべきだと考えていたから、ジレンマを感じていた。

 

しかも中東出身のイスラム教徒には、パレスチナ問題などを背景に、強い反ユダヤ感情を持っている人も少なくない。

自分たちの祖先がやったことではなく、イスラエルを敵視する気持ちもあれば、「なんで自分がドイツの加害責任を受け継がないといけないのか?」と反発したくなるだろう。

しかし、『つまずきの石』をドイツ国民のアイデンティティの一つと考えている人にとっては、「自分とは関係ない」と素通りする人の存在は見過ごせない。

自国の歴史教育を徹底したいと思っても、海外に民族的なアイデンティティを持つ人にはそれがむずかしいことがある。

移民や難民とは文化の違いだけではなく、ドイツ人が大切にしてきた「歴史の継承」という面でも社会に分断や摩擦が生じている。

 

ちなみに、第二次大戦時、日本はドイツと同盟を結んでいたが、「ホロコースト」のようなことはしていない。むしろ逆に、ドイツから逃げてきたユダヤ人を保護した。

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しかし、「過去の継承」という点では、ドイツと同じように外国にルーツを持つ人たちと“断絶”があるかもしれない。
日韓のハーフの人の中には、加害責任と被害意識を同時に感じ、苦しい思いをする人もいた。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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