シャンパンとワインはどちらもブドウから造られている。
しかし、ワインは庶民的であるのに対して、シャンパンには「富と成功の象徴」というイメージがある。
シャンパンとワイン、どうしてそんな差がついたのか…慢心や環境の違い。
そんな要素もあるかもしれないが、最大の要因は「歴史」だ。
はじめに:ワインとシャンパンの「印象」の違い
昨年末、日本に住むアメリカ人男性とイギリス人女性のカップルから、「クリスマスの準備でコストコに行くんだけど、おまえも来ないか?」と誘われ、いっしょに買い物をすることになった。
その際、ワインを手にとって選んでいる彼らに、「クリスマスにという特別なイベントには、どんな飲み物を飲むんだ?」と聞くと、イギリス人がこう答えた。
「今回、私たちは肉料理を作る予定だから、それに合ったワインを買うつもり。順番としては、『クリスマス→それに合った料理→それに合った飲み物』って感じね。
それを聞いて、アメリカ人が冗談交じりにこう言った。
「俺たちみたいな貧乏人はクリスマスでもワインを飲む。でも、金持ちならシャンパンだな!」
個人的に、お酒をあまり飲まないから知らなかったのだけど、欧米では、ワインは「庶民向け」で、シャンパンは「富裕層向け」というイメージがあるらしい。
シャンパンは富や成功の象徴で、ワインに比べると社会的な「ステータス」が高い。
2人の話を聞いて感じた印象は、シャンパンが「王者」でワインは「その他大勢」だ。
本質的には、どっちもブドウを使って作る同じワインなのに、なんでそんな残酷な格差が生まれたのか?
ワインとシャンパンの違い
基礎的な知識として、シャンパンはワインとは全く別のお酒というわけではない。数あるワインの中でも、炭酸ガスを含む「スパークリングワイン(発泡性ワイン)」の一種になる。
しかし、シャンパンはスペシャルな存在だ。

ドン・ペリニヨン(1638年 – 1715年)
まず、シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方で造られなければならない。
シャンパーニュはフランス語で、英語読みが「シャンパン」になる。
ちなみに、今の日本では「ドンペリ」というと、ホストクラブを連想する人が多いと思われる。しかし、この名前はシャンパーニュ地方で生まれた修道士、ドン・ピエール・ペリニョンに由来する。
シャンパンの発展に大きく貢献し、「シャンパンの父」とも呼ばれる人物だ。
そして、ブドウの品種や製造方法、アルコール度数など、フランスの法律で定められたすべての条件をクリアしたものだけが「シャンパン」になる。
時間やお金をかけて丁寧に造られるから値段も高い。
それに対し、シャンパーニュ地方以外の場所で、フランスの法律を無視して造られるのがスパークリングワイン。基準がユルいから、その分、消費者に安くお届けすることができる。
発泡性ワインという点では同じでも、シャンパンは「称号」と考えていい。
両者の違いをざっくり表すとこんな感じになる。
| 項目 | 一般的なワイン | シャンパン |
|---|---|---|
| 分類 | 醸造酒(赤・白・ロゼなど) | スパークリングワインの一種 |
| 産地 | 世界中どこでもOK | フランスのシャンパーニュ地方のみ |
| 製法 | 多種多様 | 瓶内二次発酵(とても手間がかかる) |
| イメージ | 日常の食卓から高級品まで幅広い | お祝い、成功、富の象徴、ハレの日 |
シャンパンは、そこらの有象無象の炭酸入りワインではない。
いわば「選ばれたエリートワイン」だから、あのアメリカ人のジョークのように別格の扱いを受けているのだ。
昔、日本の会社が、シャンパンに似せてつくった「ソフトシャンパン」を売り出したところ、フランス政府から抗議を受けて、商品名を「シャンメリー」に変えた。
フランスはシャンパンに誇りを持っているから、そんな「改変」は絶対に認めないらしい。
シャンパンはなぜ「富の象徴」になったのか?
【歴史】フランス王室の「戴冠式」がブランドの原点
日本には、これが加わるだけで、品物の格式がはね上がる「魔法の一言」がある。
それが「皇室御用達」。
皇室の方々が生活や儀式で使うものを納入している業者には、この“称号”が与えられる。
(「皇室御用達」制度そのものは戦後に廃止された。)
「皇室御用達」の品々が最高レベルにあることは、日本に住む人なら誰でもわかるはずだ。
君主の権威が加わることで、その業者や商品の「格」が上がる現象はどこの国でも変わらない。
シャンパンのステータスの高さは、中世フランスの王室にまでさかのぼる。
かつてフランス国王が即位する「戴冠式」は、シャンパーニュ地方にあるランス大聖堂で行われていて、その祝宴でシャンパンが振る舞われていた。
もうこの時点で、「その他大勢」のワインとは扱いが違う。
そうして、シャンパンは17世紀、18世紀、そして19世紀にかけて、王侯貴族の象徴として定着していったという。
Champagne became associated with royalty in the 17th, 18th, and 19th centuries.
【希少性】“悪魔のワイン”と呼ばれたわけ
世の中には、まったく意図していなくて、「たまたま偶然」で生まれた発見がある。
それを「セレンディピティ」という。

シャンパンもそんなセレンディピティのひとつ。
昔はワインの発酵メカニズムが完全に解明されていなかった。
そのため、地下のワインセラーで発酵が進みすぎた瓶が爆発したり、コルクが飛び出したりする「事故」が起きることがあった。
当時、フランスの生産者は「泡」を欠陥だと考え、そうしたワインを「悪魔のワイン」と呼んでいた。
しかし、やがて意図的にスパークリング・ワインとして生産されるようになり、シャンパンが生まれた。
だから、もともとの始まりは「偶然」だ。
こうした扱いのむずかしさが希少性につながり、シャンパンは高級品となった。

『牡蠣の昼食』(1735年)
シャンパンが初めて描かれた絵画として知られている。
【戦略編】たくみなシャンパン・キャンペーン
歴史的に、王侯貴族に愛されてきたシャンパン。
時代とともにその生産性が向上し、ある程度の金を持つ中産階級が台頭してくると、生産者側は彼らに向けてシャンパンを売り出すようになった。
(貧しい人たちは、安物のワインを飲んでいたと思われる。)
メーカーはパッケージや広告に王室のモチーフを採用し、自社の商品を「貴族」や「王室」と結びつけるために努力した。
こうしたアピールが人びとの心をつかみ、シャンパンは「成功者のシンボル」として認知されるようになる。
メーカーによる「したたかなブランディング戦略」によって、庶民派ワインと差をつけたのだ。
冒頭のアメリカ人が言うには、コルクを開けるときに「ポンっ」と音がすると、ハッピーな気分になって場が盛り上がる。
それもワインとの大きな違いらしい。
そういえば以前、「私の体はワインでできている」と言った日本の女優がいた。「高嶺の花」のイメージがあったが、意外と庶民派だったのかもしれない。
シャンパンの「社会的な地位」
シャンパンの「特別感」は現代にも受け継がれていて、F1レースの表彰台で「シャンパンファイト」が行われるのは世界的に有名だ。
ナポレオンが戦勝記念にシャンパンかけをして、それがこのイベントの始まりになったといわれる。
日本にもその祝い方が伝わり、野球やサッカーの優勝祝賀会などで、シャンパンファイトをすることも多い。
欧米で新しい船が海に出る際、「進水式」でシャンパンを船体にぶつけることが「お約束」になっている。
また、映画『007』では監督や俳優が交代しても、ジェームズ・ボンドがタキシード姿でシャンパンを飲むシーンは変わらない。
日本のホストクラブで「シャンパンタワー」をするのも、このスパークリングワインが特別で、富と成功のシンボルと見なされているからだ。
シャンパンタワーが「成功のアイコン」となっていても、それをする人が「ホンモノ」かは知らない。
しかし、例外はある
さて、ここまで「シャンパン=金持ち」と強調してきたが、それを上回るワインもある。
価格だけで見れば、「ロマネ・コンティ」のような世界トップクラスのワインだと、1本数百万円もするから、高級シャンパンよりも高い。
こうした例外をのぞけば、一般的にはシャンパンのほうが高級だ。
まとめ:ワインとシャンパンの違いは「歴史とステータス」
思わぬ偶然、セレンディピティとしてスパークリングが生まれ、当初は「悪魔のワイン」と憎まれた。
しかし、それを“手なづけ”て、シャンパンを開発し、それがフランスの王室の御用達となった。
それでブランドイメージが確立し、メーカーが生産努力とたくみな広告戦略によって、中産階級にも浸透していった。
つまり、シャンパンのボトルには、数百年かけて積み上げられた「歴史とステータス」が詰まっているのだ。
今度、シャンパンを飲む機会があったら、「貴族の気分」を味わうだけでなく、歴史をさかのぼって、フランス国王の戴冠式を思い浮かべてほしい。

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