クリスマスの翌日である12月26日、日本ではハンター(またはハイエナ)たちが格安ケーキを求めてコンビニやケーキ屋をさまよい、SNSで成果を発表している。
いっぽう、イギリスを中心にオーストラリアやカナダなど英連邦の国では、12月26日は「ボクシング・デー(Boxing Day)」として祝日になっていることもある。
今回はボクシング・デーと藪入りという、日英の習慣について書いていこう。この2つに共通することは「主人の愛情」と「家族のきずな」だ。
ボクシング・デー
ボクシング・デーとは、クリスマス・プレゼントに不満をもった人と渡した人が殴り合いをする日、ではもちろんない。
英語の「box」の動詞には「〜を殴る」のほかに「〜を箱に入れる」という意味があるから、「お菓子を箱に入れる」なら「Box the sweets」と言うことができる。
ボクシング・デーはイギリスの古い伝統と結びついている。
昔、お金持ちの家に住み込みで働く使用人たちは、クリスマス当日も主人とその家族の世話をしなければならなかった。
主人はそんなブラックな状況に後ろめたさを感じ(たぶん)、その翌日は、使用人たちに実家へ戻ることを認めていた。
the servants of the wealthy were allowed the next day to visit their families since they would have had to serve their masters on Christmas Day.
その際、主人は使用人にプレゼントやお金などが入った箱を渡し、家に持ち帰らせた。
久しぶりに家族と会う使用人にとって、主人からもらった「宝箱」は最高のお土産になったはずだ。
そんなイギリスの習慣がボクシング・デーになったという。
クリスマスの翌日に、貧しい人などにプレゼントを渡す習慣はそれ以前のヨーロッパにあったが、ボクシング・デーはイギリス起源といわれる。
時代が流れて厳しい階級社会が解体されると、ボクシング・デーの習慣も社会から姿を消していった。
現代のイギリスやカナダなどでは、ボクシング・デーに商品が値引きされるため、「ショッピングデー」になっている。
ショッピングモールは買い物客でにぎわい、一年を通じて最高の売上を記録する店もある。

ボクシング・デーのお買い物(イメージ画像)
江戸時代の藪入り
江戸時代の日本にもボクシング・デーと似た習慣があり、それは「藪(やぶ)入り」と言われていた。
故郷から離れ、商家で住み込みで働いていた奉公人は、正月(旧暦1月16日)とお盆(旧暦7月16日)にあわせて休暇をもらい、実家に帰って家族と過ごすことができた。
その藪入りの際、商家の主人は奉公人に新しい着物(仕着せ)やおこづかい、家族へのお土産を持たせる習慣があった。
「都会から藪(草)の深い田舎に帰る」ということから、「藪入り」と言われるようになったという説がある。
イギリスと同じくこれは封建時代の慣習だから、世の中に平等がいき渡るにつれて消えていった。21世紀の今では、正月と盆休みに帰省することに「藪入り」の名残(影響)をみることができる。
現代の日英では、消費者が割引商品を求めて店へ行くという点でも一致している。

ボクシング・デーと藪入りの共通点
イギリスのボクシング・デーはクリスマスに関係するイベントで、日本の藪入りとは1ミリも接点が無いけれど、主人が使用人(奉公人)に休暇とプレゼントをあげ、日々の労働へ感謝やいたわりの気持ちを示すという点では同じだ。
使用人たちは主人からの贈り物を持ち帰り、日々の仕事っぷりを知らせ、家族のきずなを深めることができる。
主人の側には愛情や配慮と引き換えに、使用人たちのモチベ(労働意欲)を上げ、生産性を高めるねらいがあったことも、日英で共通していたと思われる。
従業員に「投資」をして、それ以上の利益を回収することは世界中の経営者がやっていることだ。
日本とイギリスの関係 19世紀の日英同盟と重なる21世紀のいま

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