私刑はいけないが… 明治の敵討禁止令と令和のデスドル

「やられたらやり返す、倍返しだ!!」というのはドラマだけでいい。
近代から現代にかけて、日本では「個人的な復讐(リベンジ)」を禁止して、法律で決着をつける仕組みを作ってきた。しかし最近、そのルールを破壊するような「ネット私刑」が注目と支持を集めている。
その背景にあるものとは?

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「敵討」を禁止した明治政府

1868年に江戸時代は終わったが、まだ日本の社会には武士の気風や考え方が強く残っていた。なかには近代国家にふさわしくないものもあったため、それが明治政府を悩ませる。
その代表的なものが「敵(かたき)討ち」。

武士の世界では、子供が親を殺された場合、その下手人を殺害することは法律で認められていた。有名な赤穂事件では家来が主君の恨みを晴らしたため、世間では敵討ちとして称賛する人もいたが、当時の幕府の法的には認められず、大石内蔵助らは切腹を命じられた。
こうした「敵討ち」は、当時の日本人にとって一種の「正義」だった。

しかし、近代国家で私的制裁は認められない。
武士が耐えられないような侮辱を受けた場合、相手を斬り殺す「無礼討ち(斬捨御免)」も大きな問題視され、1873年(明治6年)、明治政府は「敵討禁止令」を出した。
「たとえ身内を殺されても、自分で復讐してはいけない。これからは国が法律で裁くから、私たちを信頼してまかせなさい」ということだ。

法の正義によって「目には目を」の暴力の連鎖を止め、国が社会を“管理”し、社会を平和にしようとする。近代国家としてのルールとしてはそれが正しい。
1880年、臼井六郎がそれに反して「日本最後の仇討ち」をしたため、彼はこの法律で裁かれ、懲役刑を言い渡された。

【父のカタキ、思い知れ!】臼井六郎による日本最後の仇討ち

「デスドル」と現代のネット私刑

ところが今、そのルールを揺るがす存在が現れた。「DEATHDOL NOTE」(デスドル)という暴露アカウントが「いじめ撲滅」を宣言し、いじめの証拠動画をネットにさらして、世間を騒がせている。

これには大きな問題がある。加害者のプライバシーや人権を無視しているから、加害者本人だけでなくその家族までもが社会的なリンチを受け、普通の生活が困難になってしまう。
それに、もしネットに流れた情報が間違っていたら、全く無関係な人を死に追い詰めてしまうことにもなる。
そんな背景から、知識人や専門家と言われる人たちは、このやり方を「法治国家の否定だ」として批判している。

「悪」が支持される理由

それでも、デスドルを支持する人は多い。それは、彼らの行動が完全な「悪」ではなく、その中にも被害者視点の「正義(復讐)」が含まれているからだ。
その背景には、今の学校や警察が「被害者を守りきれていない」と感じる人が多いという悲しい現実がある。

デスドルが動画を投稿して炎上したことで、教育委員会がいじめを認定し、学校が本格的に動き出したり、警察が加害者を逮捕したというケースがある。間接的に、デスドルが加害者に法の裁きを受けさせたことになる。

もしデスドルがいなかったら、被害者側は心に傷を負ったまま泣き寝入りを強いられ、加害者側は楽しく学校生活を送り、事件は最初から「存在しなかった」ことにされていたケースもあっただろう。
法律を厳格に守ろうとすると、結果的に被害者よりも加害者の人権ばかりが守られることになる……。そんな違和感を、今の日本に住む多くの人が経験的に感じている。

被害者の視点からしたら、加害者が社会的な制裁を受けることで、ようやく救われるという思いがある。そんな強い思いに共感する人が多いから、デスドルには「ダークヒーロー」の一面があり、一定の支持を得ている。
もちろん、このアカウントや私刑を正当化するつもりはないけれど。

「ネット私刑」を無くすには?

結論として、「ネット私刑」がこれほどの人気を集めてしまうのは、今の学校や警察が国民から信頼されていないことの裏返しだ。

約150年前、明治政府は復讐を禁止し、被害者に代わって国が厳正な法の裁きを受けさせると国民に約束した。
しかし、今の「いじめ問題」を見ていると、その約束がしっかり機能していないから、昔の「敵討ち」のような過激なやり方に期待し、拍手を送る人がいる。

学校や警察が被害者の側に立ち、加害者には必ず相応の痛みを与えることができたら、信頼を回復し、デスドルのような存在や「ネット社会の復讐」は自然と無くなる。が、今のところ未来は見えない。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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