韓国社会に一石:「反日種族主義」は歴史の虚構を打破できるか

 

先日、佐賀新聞にこんな記事(2019/9/22)があった。

日韓「歴史的事実共有したい」 両国の若者、都内で討論集会

日韓関係を改善したいと思う若者たちが話し合って、日本人の側が「過去の植民地支配についてもっと知り、歴史的事実を共有したい」と言ったという。
それはいいけど、「したい」と「できる」は違う。
この記事で韓国の若者が慰安婦問題を取り上げているから、韓国のいう「歴史的事実」ってやつを見てみよう。

彼らと同年代の高校生が動画を制作して、それをバス停に設置したというニュースを韓国KBSが報じている。その動画の内容から、「歴史的事実」がわかる。

 

 

一言でいえば、これは歴史の事実ではなくて高校生による創作だ。
日本人が旭日旗をかかげて若い女性の手を縄でしばって、無理やり連れて行って慰安婦にした。たくさんの手が女性に襲いかかる描写は性奴隷を意味しているはず。
これは反日感情にもとづくフィクションなのだけど、この動画は高校や市から賞賛されてバス停への設置も認められた。
それをKBS(韓国放送公社:日本でいえばNHK)が全国に伝える。
韓国の人たちが考える歴史的事実のひとつがこれだ。
「わい曲」された歴史なら、こんなことは絶対に許されない。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

韓国の日常からわかる、日本に求める「正しい歴史認識」

慰安婦の強制連行説には根拠がまったくないのだけど、韓国では真実と思わているのが現状だ。
証拠がなくても強い気持ちがあるからそれが成立するのだけど、でもそれは歴史ではない。

 

でも韓国社会は反日一色ではなくて、いろいろな見方や考え方があるのも見逃せない事実だ。
例えば、さいきん韓国で出版された「反日種族主義」がいま日韓で大きな話題になっている。
慰安婦の強制連行や性奴隷、徴用工の強制連行といった定説を資料をもとにひっくり返す。

読売新聞も、「反日批判本、韓国でヒット…日本を悪とみなす通説覆す」(2019年9月11日)という記事でこの本を紹介している。
「反日種族主義」は闇を照らす光で、「反日愛国」を正義とする韓国社会に一石を投じた。
この本は複数の韓国人による共著で、主著者であるソウル大学の元教授イ・ヨンフン氏は「慰安婦20万人説は全く根拠が無い」と言い切る。
日本人も共有できる歴史的事実はここにあったのだ。

本のタイトルである「反日種族主義」というのは、無条件で絶対不変の日本への敵対感情を指す。韓国人は日本との関係を「韓国=被害者で善、日本=加害者で悪」という中世的な善悪で把握しているという。
この認識が「反日種族主義」を生み出している。

くわしいことはFNNプライムニュースの報道(2019年9月11日)をどうぞ。

『反日種族主義』主著者が初めて語る…韓国の「絶対不変の敵対感情」 韓国が直面する「アイデンティティの混乱」とは?

 

日本軍が縄でしばって朝鮮人女性を連行するという動画も「反日種族主義」の表れだ。
韓日を単純な善悪でとらえている。

当時の慰安婦に対するイ元教授の考え方はこうだ。

FNNプライムニュースの報道(2019年9月11日)

「私はこの本で慰安婦に関する韓国人の偏見、つまり奴隷、拉致、監禁、暴力、無給、奴隷的に性を搾取されたという、初等教育からなされる教育内容が誤った事だと批判するのに重点を置いている」
「両親が娘を斡旋業者に売るのは今日の基準では有り得ないことだが、公娼制度は当時の基準では合法だった。このような時代的状況を理解する必要がある」

『反日種族主義』主著者が語る慰安婦問題…韓国の「シャーマニズム的非科学性」 異例のベストセラーの背景に韓国社会の変化はあるのか

 

「今日の基準」と「当時の基準」を分けて考えることが歴史ではとても重要。
先ほどの動画を見ると、いまの韓国の常識で70年以上前のことをとらえていることがわかる。
これは現在の価値観による歴史の再構成だから、事実や歴史が逆に遠ざかってしまう。

イ氏らは歴史史料などから、いまの韓国にはこびる「反日」を迷信や神話と切り捨てる。
こんな本が韓国でベストセラーになるほど売れているだ。
いま何かと話題のチョ・グク氏はこの本について「吐き気がする」と非難したけど、イ氏は「そのような言葉を使うべきでない」と冷静にたしなめる。
「吐き気がする」と言うのは、本の内容を具体的に批判できないからだ。
こんな感情的な反応とちがって、真っ向から「反日種族主義」を否定する人もいる。でもその反論を読むと、逆にこの本の内容が正しいということがわかってくる。これはまた別の記事で書こうと思う。

 

「反日批判本、韓国でヒット…日本を悪とみなす通説覆す」と言う動きは韓国ではじまったばかり。
これが新しい通説になるかもしれないし、絶対不変の日本への敵対感情をもつ人たちによってたたきつぶされるかもしれない。
でも少なくとも、この本を手に取る韓国人が多いというところに期待はできる。
韓国社会に現れた小さな芽を日本人も協力して育てるべきだ。
佐賀新聞も、「日韓「歴史的事実共有したい」 両国の若者、都内で討論集会」というのなら、偏見を否定して事実を伝える「反日種族主義」を紹介してほしい。
まさか、「吐き気がする」というわけではないだろうし。
日韓の若者が「歴史的事実を共有したい」というのは賛成だけど、それは歴史の事実に限る。
そのためには根拠はもちろん、当時の時代的状況を理解しないといけないのだ。
「したい」と思えばきっとできる。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。