文化財の落書き 原因は日本人と米国人の歴史感覚の違い?

 

きょねんの春ごろ、東京の明治神宮へ行ったアメリカ人が、SNSで深く失望した(Deeply disappointed)と訴えた。
それは、こんな光景を目にしたからだ。

「Found this at the main Torii gate of Meiji Jingu. Deeply disappointed with tourists who cannot even show respect in sacred places of worship.」

何者かが明治神宮の入口にある鳥居を傷つけたため、近づけないように柵が設置されていた。このアメリカ人はそれを見て、神聖な場所に敬意を払うこともできない観光客に深く失望したという。

この投稿には、さまざまな外国人から怒りや共感のコメントが続出。

・It’s like that here when tourists come to CA they are rude they act like they own the place they like to cut in front of people this is in Little Tokyo in LA,Downtown Disney and Disneyland 😡
カルフォルニアへ来る観光客もそう。彼らは自分の所有地のように振る舞う。
LAのリトル東京でも、ダウンタウンディズニー(ショッピングモール)でも、ディズニーランドでも、列に割り込んだりする観光客がいて、とにかく無礼だ😡

(以下、日本語訳のみ。)

・ローマのコロッセオのレンガに、自分の名前を落書きした観光客と同じだ。
無礼でごう慢な態度には腹が立つ。
・こういう観光客は日本への入国を禁止すべき。
・人は外国に行くと悪い習慣を持ち込む。
・とても悲しい。どうして人々は自分たちが旅行する場所に敬意を払えないのだろう…。

犯人は誰かわかっていないのに、コメントを見ると、外国人を前提にしている人がほとんどだ。外国人は外国人に対して、遠慮や忖度をしないで率直に意見を言う。

 

明治神宮の件とは違って、きょねんの夏に奈良で起きた出来事は外国人によるものだ。
国宝でユネスコの世界遺産にも登録されている唐招提寺で、10代のカナダ人少年が柱を爪で引っかいて「Julian(ジュリアン)」という文字を彫った。
国宝に傷をつけたことで、文化財保護法違反の疑いで書類送検されたが、すでに彼はカナダに帰国していたから特に意味はない。

相手が子どもであっても、外国人のコメントは厳しかった。

・彼の額に「Julian 」と刻んでやれ。
・私はカナダ人で、日本で10年近く働いていました。カナダ人として、このような行動を受け入れることはできません。あの少年は永久に日本から追放されるべきです。
・彼には罰を与えるべき。
100時間の社会奉仕と 2000ドル(約 320000円)の罰金が妥当。
・歴史的、文化的に重要な場所を破壊してはいけないと、伝える必要があること自体がそもそもおかしい。
・私はアメリカ人として、外国が空港でアメリカ人を入国禁止にしたり、身元調査をしたりするのは理解できる。私もそれに賛成だ。このような事件が多すぎる。

 

日本の学校で英語を教えていたことがあって、日本語がペラペラのアメリカ人(30代の女性)と話をしていた時、この一件が話題に出てきたから、彼女に意見を聞いてみた。
彼女の感覚では、同じ落書きでも、描かれる内容によって意味がまったく変わってくる。
この場合は「ジュリアン」というニックネームを彫っているから、アホな子どもが遊び気分で傷つけただけと思われる。これは個人の問題だから、大人が彼にしっかり説教すればいい。
でも、もしこれがナチスのハーケンクロイツだったら、それには人種差別の意図があるから大きな問題になる。「個人のイタズラ」では済まされない。
彼女は自分の経験から、日本人とアメリカ人の考え方の違いについて次のような話をした。

 

「歴史的な建築物はとても大切です。絶対に傷をつけてはいけません」という常識は世界中の国や地域で共通しているけど、その認識の強さは国によって違う。
日本人に比べたら、アメリカ人やカナダ人は古いものを大事にする感覚が鈍い。
アメリカやカナダは新しい国で、古い建物が自分たちの身近に無く、歴史を感じる機会がそもそも少ない。
日本にいたころ、「アメリカにも日本の京都みたいな都市はある?」と聞かれると、「あるよ、フィラデルフィア」と答えていた。
1682年に、ヨーロッパからウィリアム・ペンらやって来たことから、フィラデルフィアの歴史がはじまった。
アメリカが誕生したのは 1776年の7月4日で、フィラデルフィアにはその時代の「自由の鐘」や「独立記念館」など、歴史的に重要な建築物(アメリカ合衆国国定歴史建造物)がたくさんある。
ここは首都だったこともあるし、古都と呼ぶにはふさわしい場所だと思う。

日本人にそんな話をすると、「古都」と呼ぶには歴史が浅いから、違和感を感じるという人もいた。
でも、アメリカは約 250年の歴史しかない若い国だから、自分にとっては、フィラデルフィアは立派な古都になる。
そもそも日本の歴史はとても長いから、アメリカと比べることには無理がある。
自分のアパートの近くあったお堂が、じつはアメリカ最古の建築物より古いと知った時は驚いた。合衆国建国より古い建物や仏像なんて、日本ではそこら中にある。
こんなワケだから、アメリカ人が相手なら、「物を大切にしましょう」と訴えるよりも、「公共物を傷つけたら、罰金◯◯ドルを払わないといけない」と警告したほうがきっと効果的。

 

このアメリカ人の見方では、アメリカ人は全体的に日本人よりも「歴史の重み」に鈍感で、伝統文化を大切に保存しようとする意識も薄い。
直接的な原因ではないが、彼女から見ると、文化財への落書きにもそんな価値観の違いが表れている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。