韓国大統領選:「文政権を捜査する! vs 反日頼み」の低劣さ

 

2022年3月9日。
韓国国民にとって運命のトキ、第20代大統領が決まる日まであと1か月もない。

いまの様子を見ると、この選挙は与党の李在明(イ・ジェミョン)候補と野党の尹錫悦(ユン・ソギョル)の一騎打ちの状態だ。
お互い支持率も近くて接戦、熱戦、激戦になっている。
そのせいで両陣営とも少しでも相手より上へ立つために、これまでの選挙ではなかったような手段や戦略をとっているらしい。

まず前検事総長で野党のユン候補は、自分が大統領に選ばれたらムン・ジェイン政権の「積弊」を捜査すると国民に約束した。
ムン政権で行われた数々の不正行為(積弊)をしっかりと調べて、違法行為をした人間には相応の処罰を与えるという。
この発言にムン大統領が大激怒。

聯合ニュース(2022/02/10)

文大統領は10日、「現政権を根拠もなく積弊捜査の対象、違法に追いやったことに強い怒りを表す」と批判し、謝罪を求めた。

最大野党候補発言に「選挙戦略なら低劣」 謝罪求める=韓国大統領府

 

これはムン大統領の”逮捕”もにおわせているから、反ムン政権の有権者へのアピールになる。
いまのムン政権も前政権に対して、弊害を正すといって捜査を行ったからまさに歴史はくり返す。
実際、ムン大統領にはいくつかアブナイ話があって、追求する側は元検事総長だからその可能性は十分あると思う。
政権交代が起きると、前政権の大統領が「断罪」されて逮捕されるのは韓国政治のお約束。
いま生きている大統領経験者の中で、実刑判決を受けていないのはムン大統領だけというのがすごい。
日本人よ、これが韓国大統領だ。

でも選挙戦で、ここまで踏み込んで発言することはフツウならない。
これは一線を越えたとみなした与党・政権側は、「選挙戦略なら低劣」と強く批判する。
さらに政治的中立の立場から、選挙戦には口をはさまないというルールを破って、ムン大統領は「強い憤怒」という表現を使い、野党候補を直接批判して謝罪まで要求した。
こんな事態は、これまでの大統領選をみると本当に異例らしい。

 

現政権を捜査対象にするという野党候補の戦略は「低劣」であると非難して、謝罪を要求する与党サイド。
では、2年前の選挙戦で与党がとった戦略は「優良」だったのか?
このとき与党側は「反日」を政治利用し、支持を集めるために日本を敵視して国民感情をあおっていた。
与党が候補者に配布した「総選挙戦略広報遊説マニュアル」の内容は、日本の選挙だったら考えられない。
これは韓国の国内選挙なのに、国民の目に野党候補を日本と重ねさせて、彼らを支援することは日本に利益を与え、韓国の国益を害するというような印象操作を行っていた。

朝鮮日報の記事(2020/04/06)

「国民たちは今回の選挙を『韓日戦』と呼んでいる。日本政府には屈従的だが、韓国政府を非難することにばかりきゅうきゅうとしている未来統合党に審判を下してほしい」という内容を盛り込んだ。

4・15韓国総選挙、とにもかくにも韓日戦

 

国内の総選挙が「韓日戦」になってしまうところが大韓民国。
野党に「土着倭寇」や「親日勢力」とレッテルを貼って国民感情を刺激する戦略は成功して、与党はこの選挙で大勝利をおさめた。

とはいえ選挙で勝つために、ここまで露骨に日本を利用することは日本人の目から見ると異常だ。
長年にわたって韓国政治を見てきた、産経新聞ソウル支局長の名村隆寛氏が文春オンラインの記事でこう書く。(2020/04/11)

ウイルス感染問題を日本に無理やり結び付けてまで、政敵を攻撃する。こうした背景には、日本批判の「手軽さ」がある。歴史を絡めて日本を利用することは、長年何のためらいもなく行われてきたことだからだ。

韓国3大紙が暴いた文在寅・与党の「総選挙『反日』遊説マニュアル」の赤裸々な中身

 

与党側の選挙対策委員長はこの総選挙を「国内政治であるかのように偽装された韓日戦だ」とよくワカランことを言い、自分を日本に抵抗した19世紀の「抗日義兵」に位置づけたという。
でもこれで勝ってしまったから、選挙戦略としては有効だった。

 

いま行われている大統領選挙では産経新聞の日本人記者が、取材先から「ウチを悪く書いてください」と頼まれてビックリしている。
取材先が良く見えるような記事を求められたことは何度もあるけど、悪く書くよう頼まれたことは14年の記者生活の中で初めてだという。
「依頼主」である大統領選のある陣営幹部がそのワケをこう話す。

産経新聞のコラム「 ソウルからヨボセヨ」(2022/2/9)

「産経がわれわれの対日強硬姿勢を報じれば、日本の右翼勢力の間で反感が広がる。結果として韓国国内で『日本と戦う候補』という印象付けができ、支持率が上向く」

「悪く書いてください」

 

韓国社会ではよく「極右」といわれる産経新聞が悪く書くと、回り回って自分たちに支持が集まるという理論。
こんな依頼をする「ある陣営」なんて、“対日強硬派”で知られていて、日本を「後進国」と表現して支持を集めたイ・ジェミョン陣営しか考えられない。

中央日報(2021.03.31)

李在明京畿道知事「日本、過去を否定して歴史歪曲すれば後進国に転落する」

 

「ウチを悪く書いてくれ」と言われても、産経新聞の記者にそんな気はないから、「なんでもっと悪く書かないのか」と陣営から抗議がきそうで「やや憂鬱だ」とのこと。

韓国大統領を決める選挙で『日本と戦う候補』という印象付けを、”極右”と非難してきた日本メディアにお願いする。
そうやって自身へ有利な風を吹かせるのは、「反日」頼りの選挙戦略でしかない。
「文政権を捜査します!積弊を精算します!」よりも、こっちの方が低劣では?
両陣営とも相手の足を力いっぱい引っぱり合っていて、国民をより豊かに幸せにする未来を見せてくれないから、知人の韓国人はどの候補にも魅力や期待を感じていない。
こんな殴り合いや泥仕合を知れば、そりゃそうなるわ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。