スポー中継での「伝説的な実況」はたぶんどこの国にもある。
日本なら、1936年のベルリンオリンピックで、水泳の前畑秀子選手が大健闘し、NHKのアナウンサーが大興奮して、途中からわれを忘れて「前畑がんばれ! 前畑がんばれ!」と20回以上も叫び、後にこの実況がレジェンドになった。
ちなみに、前畑選手は日本初のオリンピック女子金メダリストとなった。
一方、朝鮮日報の報道によると、韓国民を熱狂させたのはこんな実況だ。(2025/03/19)
韓日戦逆転ゴールで絶叫「富士山が崩れています!」 元アナウンサーのソン・ジェイクさん(82)死去
ソンさんは中継でたくさんの比喩を使って臨場感を高め、国民を夢中にさせたことで有名なアナウンサーだった。そんな彼が1997年に東京で行われたサッカー日韓戦で、後半41分に韓国選手が逆転ゴールを決めた瞬間、「富士山が崩れています!」と絶叫し、それが後々まで話題になったとう。
*お亡くなりになったので、ここで「R.I.P.」(ご冥福をお祈りします)と言わせてもらう。
こうした中継が「ウイットに富んだ話術で人気を集めた」という話を知ると、つくづく韓国人と日本人の違いを感じてしまう。
日本人の記憶に残るスポーツ中継といえば、昔は「前畑がんばれ!」で、最近では「栄光の架橋だ!」がある。
2004年のアテネ五輪で、体操男子団体決勝に進んだ日本チームが金メダルを獲得した瞬間、NHKのアナウンサーが、「伸身の新月面が描く放物線は栄光の架橋だ!」と叫んで、日本のスポーツ実況の歴史に残る名言になった。
「前畑がんばれ!」もそうだけど、日本人なら、純粋に選手を応援したり称賛したりするだけで、他国のシンボルを破壊するようなことは言わない。だから、スポーツの日韓戦で日本のアナウンサーがいくら熱くなっても、「白頭山(韓民族の聖地)が崩れています!」と叫ぶことは考えられない。
そう聞いて喜ぶ人は社会の右側にいるごく一部で、ほとんどの人は意味を知っても、他国の自尊心を貶(おとし)めるような表現にはたぶん引く。
2011年に東日本大震災が発生した直後、韓国の全国紙・中央日報が紙面に大きく「日本沈没」と書いた。すぐに批判が殺到し、中央日報が表現を取り消して謝罪したのを見ると、この辺が韓国人から見ても超えてはいけない一線なのだろう。
韓国のスポーツ中継でこういう言葉が使われる背景には、国民の共通認識があるはずだ。
韓国人は「ウリ(私たち)」という言葉が好きで、家族を超えて国民のキズナを大切にする文化がある。韓国の人たちがよく使う「ウリナラ(私たちの国)」や「ウリハッキョ(私たちの学校)」という言葉を聞いたことのある日本人もいるのでは?
そんな共通の認識に加え、韓国では相手が日本だとスポーツと歴史問題が結びついて、「反日感情」が刺激されるため、韓日戦になると国民はどうしても熱くなる。そんなことは誰でも知っているから、伝える側もそれを刺激するようなことを言う。。
2014年に仁川(インチョン)でアジア大会が開催されたときには、開会式で日本選手団が入場すると、韓国のテレビ局はそれに合わせてこんなテロップを入れた。(2014年アジア競技大会)
「周辺国と深刻な問題がある国」
日本のテレビ局が同じことをすれば大問題に発展して、ただの謝罪だけでは済まなくなる。
さらに、アジア大会で行われたサッカー日韓戦の会場には、伊藤博文を嫌った安重根(アン・ジュングン)の肖像画が掲げられた。
日韓の歴史認識は反対だから、テロリストが国民的ヒーローに変わる。
日本人からすると、ホスト国でこの振る舞いはひどいと思ってしまうのだけど、韓国人にとっては常識の範囲内にある。こういう日韓の感覚や意識の違いは昔からあって、埋めようがない。
「ウリ」の文化と日本への強烈なライバル心から、全国民が一丸となって「日本を倒す」という気持ちが強くなったから、国民は「富士山が崩れています!」という言葉に熱狂したのだろう。
そういう認識とは縁のない日本人には、「ニッポンがんばれ!」が受ける。韓国人の言語感覚からすると、韓日戦で「韓国がんばれ!」だけでは刺激が弱いから、心がスカッとする「サイダー効果」を得られない。
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