日本のたい焼き:形の理由や海外での進化、韓国での究極進化「う◯ちパン」

10年ほど前、アメリカ人を助手席に乗せて市内を車で走っていたとき、彼女がたい焼きの大ファンだと言って、ちょうど「たい焼き研究所」があったから、そこに寄って専門店の味を試してみることにした。そこで食べたたい焼きは期待通りの味で、彼女は大満足。店名を英語で教えてほしいと言うから、アプリで直訳した「Taiyaki Research Institute」や「Taiyaki Lab」を見せると、「なんでそんな名前になるのか、さっぱり分からない」と不思議そうな顔をする。
「おいしさを本格的に追求する」という意味が込められていると思うが、外国人にこのネーミングセンスは理解できないかもしれない。
ということで、今回のテーマは「たい焼きと感覚」だ。

 

以前、韓国人の友達だち2人とソウルの繁華街「仁寺洞(インサドン)」を歩いていたとき、韓国人男が指をさして「アレを見てください! 日本には絶対にないお菓子です!」と言った。彼の指の先にはこんなものがあった。

 

 

国籍や宗教に関係なく、誰でも見ればすぐに分かる。うん、あの形は間違いなく「う◯こ」だ。衝撃的なビジュアルをした食べ物は「똥빵(トンパン)」という。「똥」はうんち、「빵」はパンのことだから、文字通り「うんちパン」だ。中にはあんこが入っていて、味や食感はたい焼きとよく似ていて、韓国では人気のあるお菓子らしい。(今はどうか知らない)

 

 

たい焼きは、第一次世界大戦が始まるちょっと前、1909年(明治42年)に創業した「浪花家総本店」から始まったと言われている。この店では、最初は今川焼きを作って売っていたけど、売れ行きはイマイチだったため、形を変えて亀の姿をした「かめ焼き」を売り出したが、これも不発に終わる。
しかし、店主はあきらめなかったから、試合もそこで終わらなかった。日本で鯛(たい)は「めでたい」に通じて縁起のいい魚で、当時は庶民にはなかなか手が届かない高級品でもあった。そこで店主がひらめいて鯛の形にして売り出したところ、これが大ヒットして庶民の心をつかむ。
たい焼きの起源については他にも説もあるから、くわしいことは「たい焼き」を見てくれ。

発想としては「鈴カステラ」も同じだ。神社にある鈴の音には邪気を払って場を清める力があるとされていて、人が集まることを「鈴なり」と言う。その縁起の良さを取り入れて「鈴カステラ」が生まれたという。

単なる語呂合わせでも、日本は「言霊の国」だから、言い換えることでラッキーアイテムになる。
この考え方は古くからあって、戦国時代には、武士が戦いに出る前に縁起物としてアワビや栗、昆布を食べて、「打ち・勝ち・喜ぶ(よろコンブ)」ことを願うことがあった。織田信長も「鰹節」を「勝男武士」として、家臣に振る舞ったという記録がある。

日本人の戦勝祈願:勝男武士、アワビ・かちぐり・昆布とイナウ

ちなみに、ベビーカステラを略して「ベビカス」と言うこともある。ボクの言霊感覚では、食べ物の名前に「カス」はNG。

 

最近は、アニメが世界的に人気になって、キャラクターがたい焼きを食べる場面が登場することもある。そんなことから、たい焼きの認知度は上がり、海外にも進出している。ただ、日本で人気のあんこではなく、ベーコンやクリーム、チーズ、チョコレートなどを入れて現地風にアレンジされていることも多い。
数年前、ニューヨークでは、たい焼きの口が大きく開いていて、ソフトクリームをのせた斬新な「TAIYAKI」が登場して人気を集めた。でも、ニューヨークは特別な場所だから、アメリカ全体でたい焼きが手に入るわけではない。ジョージア州に住んでいるアメリカ人の知人は、そこではたい焼きなんて見たことがなく、韓国系アメリカ人が経営している食料品店ならあるかもしれないと言っていた。

いっぽう、たい焼きの激戦国・日本では、「その他大勢」から抜け出すために、全国のたい焼き屋がいろいろと試行錯誤して、中身を洋風にクリーム系にしたり、イカスミを使って「黒いたい焼き」を作ったりして、新しい一品を常に開発している。

 

 

韓国の街を歩いていると、よく屋台でたい焼きを売っているのを見かけた。でも、それは実は「鮒(ふな)パン」と呼ばれるお菓子で、韓国語では「プンオパン」と言う。
日本統治時代(1910〜45年)に、日本からたい焼きが伝わり、朝鮮半島でも作られるようになった。第二次世界大戦後には屋台の定番メニューとして庶民に親しまれるようになり、1970年代の経済成長のときに消えかけたが、1990年代にまた復活した。
プンオパンはたい焼きから生まれたから、形がよく似ているし、ボクがいくつか食べた感じでは味や食感もほとんど変わらない。違いを感じたのは、プンオパンはあんこが中心部分だけに入っていて、シッポはただの生地だったことぐらい。
プンオパンの中身もあんこが多いけど、差別化のためにチョコレートやカレー、キムチなどが使われることもある。

友達の意見では、「うんちパン」もその進化のひとつ。思い切って排せつ物をお菓子の形にしたところ、韓国の若者にウケて、大人気になったという。「原点」はたい焼きにあるから、これはその究極進化とも言える。しかし、そのノリについていけない(いきたくない)人もいて、このとき一緒にいた女性は、

「目をつぶって食べれば同じですし、別にいいんですけど、仁寺洞で売るのはやめてほしいですね。ここはソウルの中心部で、世界中の外国人が集まる場所だから、韓国について変な誤解が広がりそうで不安です。」

と言っていた。
日本でも韓流ブームに乗っかって「トンパン」が販売されたけど、流行ることなくすぐに消えてしまった。やっぱり、韓国とは感覚が違うらしい。アメリカ人にとっては、「うんちパン」と「Taiyaki Lab」ではどっちが理解しやすいのか。

 

 

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