トラ狩りという“日本の蛮行”が世界に広まり、韓国では歓喜と批判

韓国の政治家や商売人にとって、「反(抗)日愛国」はローリスクでハイリターンが期待できる魅力的な題材。だから、それに手を出す人は多いが、必ずしも世間で歓迎されるわけではない、というのが今回の話。

目次

韓国の「クッポン」

流行りすたりが激しい韓国で、「反日愛国」には安定した需要があり、一定の注目と人気を集めることが可能だ。この国民感情をゆさぶるものなら、喜んでお金を出す人が多いから、提供する側としてはラクして儲けることができる。一方で、そんな愛国心主義を「クッポン」と批判する人もいる。

※韓国語の「国家(クッカ)」と「ヒロポン(覚せい剤)」を組み合わせた言葉で、「クッポン」は行き過ぎた愛国心を皮肉る時に使われる。

“優秀な遺伝子”? 韓国人で好き嫌いが分かれる「クッポン」

日本が朝鮮半島でおこなった「蛮行」を暴露し、世界に伝える行為は韓国では「正義」として称賛されるが、日本では対照的に「反日」として嫌われることが一般的だ。日本を批判すれば自然に愛国心が刺激されるため、韓国では反日と愛国は一体化している。

トラ狩りという日本の蛮行が全世界に

最近も全国紙の朝鮮日報にそんな報道があった(2025/09/27)。

ソニーが制作した大ヒットKPOPアニメ、日帝の蛮行を全世界に知らしめる結果に

ソニーが手がけてNetflixで配信され、世界的に大ヒットしている『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』で、日本にブーメランが飛んできた(らしい)。
あるティックトッカーが、このアニメに登場するトラのキャラクター「ダーピー」に興味を持ち、韓国のトラについて調べたところ、“衝撃的な事実”を知った。

日帝強占期(日本の統治時代)、日本はトラを「害獣」と見なし、徹底的な狩りをおこなって絶滅させた――。

ティックトッカーがそんなことを紹介した動画は、120万回以上再生され、おもに海外のネットユーザーから2000件以上のコメントが書き込まれた。そのほとんどが日本を批判したものだったという。

「日本はあまりに多くの戦争犯罪を犯した」
「日本は韓国の伝統的な建築物をほぼ全て破壊した」
「日本は戦争犯罪を歴史の本に書いていない。ほとんどの日本人は自国の残酷な行為を知らない」

朝鮮日報がこの現象を取り上げ、次のように揶揄(やゆ)した。

日本が同作品の制作に参加したにもかかわらず、日帝強占期の日本の蛮行が海外に知れ渡るという皮肉な結果が起きている。

別の全国紙、中央日報もこの話題を取り上げた(9/26)。

徐坰徳教授「OTTで世界の視聴者に日本の蛮行が広く知られた」

※「OTT(Over-The-Top)」 は韓国の動画配信サービスのこと。

記事の中で、韓国広報の専門家で造園学者のソ・ギョンドクさんは、

「韓国コンテンツのヒットにより、世界中の視聴者に日帝の蛮行を広くめることができた」

と喜び、これからもK-コンテンツで、世界の人たちが「正しいアジアの歴史」を知ることを願っていると語った。
それ以前に、120万回再生で「全世界に知らしめる」「世界に広く知られた」と言うのは盛りすぎ感。韓国メディアにはこんな誇張表現が多い。

韓国と日本の真逆の反応

「反日愛国」の感情を刺激され、しかも日本の「オウンゴール」も加点されたから、韓国のネットユーザーは歓喜した。

※以下のコメントは原文は韓国語。

・韓国人もしていない愛国行動を外国人がしてくれる。
・これが、キム・グ先生が言った「文化の力」か。すごい力だ。私たちの歴史は外国にもっと広がりそうだ。
・日本が可哀想に見えたのは初めてですね..
・問題は、日本がまだきちんと謝罪していないことだ。
・日本はこれまで日帝強占期や戦争を美化してきた。今は天罰を受ける時間になった。

一方、日本の『ヤフコメ』で多くの「いいね」を集めたのは、次のようなコメントだった。

・人に害を与える獣を狩るのを蛮行とは言わないだろう。ましてや絶滅危惧種を保護しようという発想すらなかった20世紀の前半において。
・竹島に住まうアシカを絶滅させたのは誰でしたっけ!?
・逆に日本が虎狩しなかったらしなかったで「日本は地元の住民を見殺しにした。人間よりも虎の方が大事なのか。日帝は酷い」と言われていただろうけれど。
・植民地支配への批判なら(そういう視点が主眼の作品ではないと思います)もっと別の観点を取り上げた方が説得力があるのではないでしょうか。

韓国の「反日愛国」報道に対しては、日韓ではいつも正反対の反応が起こる。しかし、今回はちょっと違う。

 

朝鮮の民衆とトラ

統治時代、日本は山にいるトラを害獣として駆除対象にし、組織的に討伐して絶滅させたと言われている。
(2001年に韓国で野生のトラが見つかったという報告もあり、トラが完全にいなくなったかはハッキリわからない。)
現在の韓国ではそれを「蛮行」と非難しているが、当時の朝鮮人の見方はきっと違う。

19世紀後半に朝鮮半島を旅したイギリス人女性、イザベラ・バードが記した『朝鮮紀行』(講談社学術文庫)によると、「朝鮮の半年は人間がトラを狩り、残りの半年はトラが人間を狩る」という言葉があり、人びとはトラと鬼神を恐れて夜間の移動を避けたという。もし夜に移動しなければならない場合、集団で松明(たいまつ)を振り、鉦を鳴らし、大声を出しながら歩いた。
実際、トラは恐ろしい動物で、バードは女性がトラにさらわれたり、犬や豚が食べられたりした話を聞いた。そのため、トラ狩りもおこなわれていた。たとえば、犬や豚をおとりにして罠を仕掛け、捕まえたトラは毒殺するか餓死させた。傷をつけないようにしたのは、トラの毛皮が高値で取引されていたからだ。また、トラの骨は漢方薬に使われ、高い値が付けられた。
しかし、トラ狩りはとても危険だったため、男たちは、トラ狩りをする勇気がないことを恥じなかったという。

バードの記録を読むと、朝鮮の民衆も日本と同じく、トラを「害獣」と見なしていたことがわかる。当時の朝鮮で、日本のトラ狩りに反対する運動が起きたという話は聞かない。

韓国内の批判的な反応

知人の韓国人20代の男性)に、この記事の感想を聞いたところ、彼は「日帝の蛮行を全世界に知らしめる結果になった」とか「日本が天罰を受ける時間だ」とは思わなかった。
むしろ、朝鮮では多くの人がトラに殺され、家畜も食い殺されていたため、日本の行為は人々の安全を守り、経済活動にも良い影響を与えたと好意的に評価していた。そして、「反日」を扇動する韓国メディアの報道を批判した。
そもそもトラを捕まえると儲かるから、時代が進んで武器が普及したら、朝鮮人の手によってトラは絶滅しただろう、とも考えていた。

韓国人のコメントの中には、少数ではあるが、同じような意見を持つ人もいる。

・トラはいない方が良いです..
・韓国人も皮を得るためにトラを狩ったじゃないか。朝鮮時代のドラマを見れば、山賊たちがその服を着ているwww
・ソニーが作ったアニメを見て、そんな精神勝利をするなんて…。
・トラが南山を歩き回るのを想像してみて。朝鮮も虎を減らそうと常に努力していた。
・トラが絶滅したおかげで、今わたしたちは気軽に登山をすることができる…。これは日本にお礼をすべきなのかどうなのか…。

個人的にはこの指摘に一番共感した。

・ここで両極端な憎悪発言をして、過去の日本帝国の蛮行と現在の普通の日本人を結びつけるのは危険なようです。それに、コメントを簡単に外国語に翻訳できる時代に、こうしたヘイトスピーチは我が国の威信と開放性を傷つけるだけです。韓流の品格を全世界に知らせるためには、私たちがコメントの品格を示すべきだと思います。

 

世界に「日本の蛮行」が広がるのではなく、後半に出てきたような冷静で、現在の日本に友好的な韓国人が増えてくれることを願う。

 

 

国 「目次」 ①

韓国 「目次」 ②

韓国 「目次」 ③

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ①

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ②

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ③

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

コメント

コメントする

目次