【韓国文化のトラ】恐怖や崇拝の対象が、今では“愛されキャラ”に

昔、朝鮮半島にはトラがいて、人間や家畜を食べて、人びとにトラウマレベルの恐怖を与えていた。
昨日、それを日本が駆逐したことについて、現在の韓国では賛否が分かれているという記事を書いた(「否」が圧倒的に多いけど。)

トラ狩りという“日本の蛮行”が世界に広まり、韓国では歓喜と批判

今回はこのスピンオフで、「韓国文化のトラ」について書いていこう。

 

朝鮮の絵に画かれたトラ

目次

韓国にとってのトラ

かつて朝鮮半島にすんでいたトラはアムールトラで、これはいま世界にいる8種類のトラの中でも大型に属し、全長3 m、体重350kgを超える巨大なものもいたという記録がある。
朝鮮半島でトラは最大&最強の生き物だ。
以上が客観的なデータで、ヒトの主観的には「大きい、強い、激しい」という印象があり、世界各地でトラはそんな生き物として見られている。

「韓国にとってのトラ」について、世界的にはどう考えられているのか?

グローバルな見方を知るには、英語版ウィキペディアの説明が参考になる。
韓国の神話と文化において、トラは悪霊を追い払う守護者であり、幸運をもたらす神聖な生き物として崇拝されてきたという。トラは勇気と絶対的な力の象徴とされている。

In Korean mythology and culture, the tiger is regarded as a guardian that drives away evil spirits and a sacred creature that brings good luck – the symbol of courage and absolute power.

Cultural depictions of tigers

韓国でのトラの呼び方

「クマ」を意味する英語「Bear」の由来は、ゲルマン民族で「茶」を意味する言葉とされている。古代ヨーロッパのゲルマン民族の人たちは、ヒトを簡単に殺せるクマをとても恐れていたため、直接その名前を言うとクマが現れるかもしれないと考えた。それで、間接的に「茶色のもの」と呼んでいたという(Bear Etymology)。

韓国語でトラは「호랑이(ホランイ)」と言い、鬼のように激しい性格を持つ人を「ホランイ」と呼ぶこともある。また、強さや勇気を象徴することから、韓国軍には「青龍部隊」がある。
昔、朝鮮の人たちはトラを神格化し、「山の神(산신)」や「山の王(산군)」と呼び、信仰の対象にしていた。これもゲルマン民族と同じように、トラを心の底から恐れていたため、直接その名を言うことを避けたのだろう。恐れ多い存在に対しては、婉曲的に表現する発想は世界中にある。

日本にはトラが生息していなかったので、そんな信仰もなかった。16世紀の朝鮮出兵の際、加藤清正が「虎退治」をして武勇を誇ったという話がある。

 

朝鮮(李氏朝鮮)の首都・漢城は風水の考え方にもとづいて設計された。四神によって守られていて、西の守りは白虎が担当した。

トラが使われた韓国のことわざ

朝鮮の人々にとって、強くどう猛で巨大なトラは特別な存在で、山にすむ鬼や神と見なされた。
19世紀末に朝鮮半島を旅したイギリス人女性、イザベラ・バードの記録によると、トラはわりと身近な存在だったらしい。

「虎は朝鮮八道( 全土)、いずれの地も選ばず、全域に棲むものと見え、ほとんど、わが国における狼のようである。」

冬になって食べ物がなくなったり、子どもが生まれたりしたトラはとくに危険だ。そうした事情からか、王城(今のソウル?)や元山(ウォンサン)の市場にトラが現れたこともあったという。

トラは全国各地に生息してうて、知らない人はいないほど有名な存在だった。そのため、韓国のことわざにもトラにまつわるものがいくつかある。

 

「호랑이에게 물려 가도 정신만 차리면 산다」
トラに連れて去られても、確かな気持ちを持っていれば生き残れる。困難な状況になっても、精神をしっかり保っていれば克服できるという意味。

「하룻강아지 범 무서운 줄 모른다」
生まれたばかりの子犬はトラの恐ろしさを知らない。無知ゆえの怖い物知らずで、日本語で言うなら「まだオマエは世間を知らない」といった意味になる。

「사람은 죽어 이름을 남기고 호랑이는 죽어 가죽을 남긴다」
「人は死んで名を残し、トラは死んで皮を残す」ということわざは、死後も名声や功績が残るような立派な生き方をしろ、という意味で日本でも使われる。

「호랑이도 제 말 하면 온다」
「虎の話をすれば虎が来る」の意味。うかつに人を批判したり悪口を言ってはいけない、という意味で使われる。日本の「噂をすれば影が差す」と同じような言葉だ。

ちなみに、中国には「説曹操 曹操到」(曹操の話をすれば、曹操がやってくる)という言葉がある。強くて残忍な曹操は、言ってみれば「人間界の百獣の王」でトラのような恐ろしい存在だった。

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韓国文化に登場するトラ

「キャラ設定」としてトラは最高の素材だから、韓国文化にもよく登場する。

日本の昔話は「昔々、あるところに〜」というフレーズで始まるのが鉄板。韓国の昔話にも同じようなフレーズがあり、「トラがタバコを吸っていたころ〜」という形で物語がはじまる。
これを知って、「タバコは大航海時代にスペイン人が南米で発見し、世界に伝えたものだから、朝鮮半島にタバコの習慣が伝わる前の物語にこの表現を使うのはおかしいのでは?」と細かいツッコミを入れた日本人もいる。

くわしいことは在韓日本大使館のコラム「城北洞の書斎から」を読んでほしい。

また、獲物に飛びかかるトラの姿で、朝鮮半島を描くこともある。

 

韓国でトラとカササギの絵は、邪気を払う縁起物とされ、正月に飾る習慣があった(今でもあるかも)。
朝鮮時代、この絵を使って封建社会の階層構造を風刺することがあった。トラがバカっぽく描かれている場合、トラは権威を振りかざす両班(貴族)を象徴し、威厳のあるカササギは庶民を象徴したという(Cultural depictions of tigers)。

 

近年では、2018年に開催された平昌冬季五輪で、白虎をモデルにした公式マスコットキャラクター「スホラン」がつくられ、世界中のゲストを歓迎した。

※韓国語で守護を意味する「수호(スホ)」と、虎の「호랑이(ホランイ)」を合わせてスホラン。

韓国の大会関係者は、スホラン(白虎)の守護を受けて、五輪の成功を願ったのかもしれない。
ちなみに、1988年のソウルオリンピックでも、公式マスコットキャラクターとして「ホドリ」という虎が採用された。「ホ」は韓国語で「トラ」、「ドリ」は男の子を意味する。

韓国文化において、はるか昔はトラは「山の神や王」として恐れられ、崇拝の対象だったが、今では「愛されキャラ」になっている。

今も韓国社会にいる“トラ”

現在の韓国では、2001年にトラが見つかったという報告もあるが、一般的にトラは絶滅したと考えられている。しかし、実際はそうでもない。
イザベラ・バードは朝鮮で、役人が容赦なく税を取り立て、人びとを苦しめる様子を見て、旅行記にこう書いている。

「民衆への暴斂( 苛斂誅求)をほしいままにする、虎や狼のような残虐な連中というだけだ。」

悪政は民衆にトラよりも大きな被害をもたらす、という意味で「苛政(かせい)は虎よりも猛(たけ)し」ということわざがある。
現在の韓国民に聞けば、「韓国の政治は虎のようにムゴイ」という意見には、おそらく8割以上が同意する。このトラはまったく愛されていない。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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