1980年代に大人気になったマンガ『キン肉マン』は、一度連載が終了したが、その後カレイに復活し、今も連載が続いている。しかし、時代は変わった。インド出身の超人「カレクック」は昭和なら許されたが、人種差別に敏感な今ではNGになる予感しかない。
この超人は褐色の肌をしていて裸足で、ヒンドゥー僧の袈裟(のような服)を着て、頭にカレーライスをのせている。日本人が想像する「インド要素」がぎゅっと詰まっている「カレクック」は、たぶん令和のポリコレ基準を満たしていない。
さて、今回は静岡の大学で学んでいる20代のインド人男性、ダルシム(仮名)が関西で感じたことを紹介しよう。ちなみに、ダルシムという名前の由来は「ダルシーマ」という実在した格闘家だ。

インドで見かけた「サドゥー」と呼ばれるヒンドゥー教の修行者。ダルシムの元ネタがサドゥーと思われる。インド社会では、サドゥーは法的には「死者」とされているという。
ーー最近、ダルシムは大阪の会社で働いた(インターンシップ)と聞いた。大阪にいて、「静岡とは違うな」と思ったことはあり?
大坂に行ったのは今回が初めてです。1ヶ月ぐらい暮らしてみて、何度かそんなことを感じましたね。関西弁は独特ですし、エスカレーターで立つ位置が静岡とは反対でした。でも、同じ日本人ですから、急ぐ人のために片側を空ける配慮は変わりません。インド人なら、みんな少しでも先に行こうとするから、エスカレーターで空いている空間なんてありませんよ。
ーー大阪の「左空けルール」か。あれは1970年の大阪万博がきっかけではじまった。でも最近は、安全面を考えたら2列に並んで乗ったほうがいいってことで、それが推奨されている。じつはインド流が正解だったらしい。
インド人は後ろから押すから、安全とは言えませんけどね。
ーー静岡人と大阪人の性格や行動で、ダルシムが感じた違いはあった?
ありました。たとえば、会社へ行く途中に赤信号があったので、止まって待っていたら、何人かがわたしの横を通り過ぎて道を渡ったんです。赤信号を無視する人なんて、静岡ではほとんどいなかったので意外でした。それに、歩行者優先じゃなくて、カーブで通行人の前を通る車を何度か見ましたし、路上にはタバコの吸殻が落ちていました。
ーーたたみかけるね。
全体的にルールやマナーを守らない人が多くて、ちょっとインド人みたいでしたねw
ーー「初めてなのに懐かしい」。大阪でそんなデジャヴ(既視感)を感じたんだ。

AIに「インド人が京都で、外国人観光客の多さに驚いている絵を描いてください」と頼んで描いてもらった絵。ターバンを巻いたインド人はシク教徒で、数としてはすごく少ない。しかし、日本ではこの姿が典型的なインド人として定着している。
ーーダルシムが関西にいて印象的なことはあった?
電車で簡単に京都へ行けたので、2回ぐらい旅行しました。外国人観光客がたくさんいるんだろうなって思っていたんだけど、想像の10倍はいてビックリしました。京都は良くも悪くもすごく観光化されていますね。日本のラーメン屋は、千円を超えないようにがんばっていると聞いていたんですけど、京都にはインバウンドの外国人向けに、1杯で3000円もするラーメンを出す店があって、それも衝撃でした。
ーーそういう古都を見たくないから、今いま日本人の「京都離れ」が進んでいるし、ネットで京都人が不満を言っている。
路上にゴミが落ちていて、外国の都市みたいなところもあったから、わたしはウンザリしました。日本人が怒るのも当然ですよ。
ーーまあね。だからと言って何ができるかわからないけど。それにしても、ダルシムの「日本人化」は着実に進んでいるね。ラーメン業界の「千円の壁」を知ってるインド人なんてまずいない。
で、ほかに何かあった?
京都で食べた抹茶ソフトクリームが人生最高の味でした! そこは清水寺の近くにあった店で、店の外で食べていたら、おばちゃんに「中で入って食べなさい」って注意されました。周りに観光客はいなかったし、そんな看板も無くて、自分の経験的には良さそうな感じだったんですけどね。
ーーダルシムでも分からなかったら、外国人の9割は同じだろうね。日本の伝統的な建築物では、竹の棒を置いて「立入禁止」を表すことがある。でも、日本に住んでいた外国人に聞いても、誰も意味が分からなかった。そういう分かりにくさは全国的にあるかもしれない。
前にその店で、迷惑な外国人観光客がいたせいかもしれませんね。
ーー自分を怒った人に配慮するとか、ダルシムは中国で話題になった「精神日本人」かな。

外国人がこれを見ても意味がわからず、またいで中に入ってもおかしくない。

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