国王の「暗殺未遂」をなぜ祝う? 日本と英国の文化の違い

11月の中ごろ、ケンブリッジ市に住んでいるイギリス人と話をしていて、「秋の楽しみ」を聞くと、彼女は“花火大会”をあげた。イギリスでは11月5日に、各地で花火が打ち上げられ、国民を楽しませている。

 

 

カウントダウンが終わり、「サンキューベリーマッチ、レッツゴー!」と勢いよく打ち上げられたこの花火は、17世紀に起きた、国王の暗殺未遂事件をお祝いするものだ。
日本とイギリスでは文化が違うから、こんなイベントが成立する。

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暗殺未遂事件を「祝う」英国

王や皇帝の命を狙う事件は日本語で「大逆事件」と呼ばれ、世界中で起きていた。
イギリスでは17世紀に、ガイ・フォークスらがジェームズ1世を殺害しようとした「火薬陰謀事件」があり、日本では明治時代に天皇の暗殺を狙った明科(あかしな)事件が起きた。
どちらも方法は爆殺で、未遂で終わったという点では同じが、その後の英国での展開は日本人の斜め上をいっている。

企みが失敗に終わったとしても、日本人にとって「天皇暗殺」という事態は非常に不吉で、その事件を口にするのもためらわれるだろう。
しかし、イギリス人はこの事件をポジティブに受け止め、盛大に祝うことにした。現在、11月5日は実行犯の名前にちなんで「ガイ・フォークス・ナイト」や「ボンファイア・ナイト」と呼ばれ、イギリス国民は夜空をいろどる花火を楽しんでいる。

日本人の感覚からすると、「明治天皇が爆殺されなかった。みんなでお祝いをしよう!」とはならない。天皇の誕生日に国民が祝うことは理解できるが、「暗殺未遂」を記念日にして「レッツゴー!」と花火を打ち上げることはありえない。
しかし、違う文化圏にいるイギリス人は解釈が違うから、そんなこともアリエール。

「すべては神の意思」という英国の発想

今も昔も、日本人なら、明治天皇の暗殺が未遂に終わった原因は、犯人側の行動と警察の捜査、そして残りは「運」と考えるだろう。
17世紀の英国人はそうではなく、「これは神の意思だ」と考えた。キリスト教の考え方では、この世で起こることはすべて神の意思によるものとされる。
ジェームズ1世が助かったのは、神が国王を守ったからだと信じられた。そのため、政府は神に感謝しなければならないと考え、議会で「1605年11月5日遵守法」を制定した。それには以下の目的があった。

「And to the End this unfeigned Thankfulness may never be forgotten, but be had in a perpetual Remembrance, that all Ages to come may yield Praises to his Divine Majesty for the same, and have in Memory this joyful Day of Deliverance」
Observance of 5th November Act 1605

個人的な解釈だと「神への真の感謝の気持ちが英国から忘れ去られることなく、永遠に記憶され続け、すべての時代のおいて神の威光に賛美を捧げ、この救いの喜びの日を心に留める」といった意味。

この法によって、聖職者は毎年11月5日、教会で神に感謝することが義務づけられた。また、街では教会の鐘が鳴り響き、国民は焚き火をしてこの日を祝った。やがてそれに花火が加わって英国の伝統になり、今では秋の風物詩となっている。

日本にはいない「全知全能の神」

神の意思によって暗殺が未遂に終わり、国王は救われた——。

そんなイギリス人の考え方は、『God Save the King(神よ国王を守り給え)』という国歌のにも表れている。
※ガイ・フォークスの事件によって、この歌ができたわけではない。
ちなみに、イギリスの国歌はそのときの国王が男性なら『God Save the King』、女性なら『God Save the Queen』になる。王の性別によって、国歌のタイトルや歌詞が変わるのだ。

日本の神道には、さまざまな神様がいるけれど、キリスト教のゴッドのような、全知全能で未来まで創造する神はいない。だから、暗殺未遂事件が起きても、日本人なら「神が天皇をお守りになった!」という考え方は、出てきたとしても一瞬だろう。
「神への真の感謝の気持ち」が日本で永遠に記憶されるため、政府が法律を制定し、その日になると神に感謝を捧げることを法律で義務づけることは考えられない。
日本と英国(キリスト教文化圏)の発想や価値観は大きく異なる。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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