いま、世界を大きく動かしているのがアメリカと中国だ。
その意味で、両国を指して「G2(主要2カ国)」と呼ぶこともある。
きのう、トランプ大統領が中国を訪問した際、習近平国家主席は北京にある天壇へトランプ氏を案内した。
たしかにここは、世界でもっともパワフルな2人にふさわしい場所だ。
今回はその流れに乗っかって、天壇の役割や構造、皇帝と天帝の関係について説明していこう。
皇帝と天帝の関係
中国の歴史において、皇帝は絶対的な支配者とされ、中国を超えて全世界の頂点に立つと考えられていた。
しかし、皇帝の力にも限度があり、その支配はあくまで地球レベルに限られていた。
全宇宙の支配者は「天帝」で、中国皇帝は天帝から地上の支配を認められた「天子」にすぎない。
とはいえ、地上においては比類ない至高の存在だ。
そんな中国における皇帝や天帝の神聖性がもっとも色濃く、巨大なスケールで表現されている場所が、北京にある「天壇」だ。
現在、天壇は中国を象徴するアイコンになっていて、世界的にはユネスコの文化遺産、日本では「焼肉の名門」として知られている。
中国史において、天壇の重要性は計り知れない。
天壇は天帝を祭るための施設で、1420年に明の永楽帝によって建てられたとされている。
皇帝はふだんの生活の場である紫禁城を出て天壇にまで足を運び、ここに立って天帝に祈りをささげていたのだ。
1. 中国皇帝のもっとも重要な仕事は「祈り」
天壇は、皇帝が天帝と「交信」をする場所として機能していた。
毎年、冬至になると皇帝はここで豊作を祈り、雨が少ないと雨乞いの儀式をおこなった。
また、天壇のシンボルとして有名な祈年殿では、正月に皇帝が五穀豊穣を祈っていた。
この祈年殿は直径32m、高さ38mで、現存する祭壇としては中国で最大を誇っている。
皇帝は自分を「天子(天の子)」と考えていたから、天帝に直接祈りをささげることはこれ以上なく重要な仕事だった。
中国の歴史をみると、民衆が「ハングリー」になると、やがて「アングリー」に変わり、革命が起きて王朝が交替することが多い。
つまり、皇帝にとっては食べ物の安定供給が至上命題になる。
明と清の皇帝は天壇を通じてそれを祈願していたから、この施設は地上でもっとも神聖で大切になる。
天壇の大きさは、皇帝が住んでいた紫禁城の約4倍もある。
皇帝の生活の場より、祈りの場のほうが大きいことからも、中国の歴史においてこの施設がどれほど重要だったかがうかがえる。

日本では神社や寺へ参拝するとき、手水で心身を清めることになっている。
中国皇帝も天壇で祈るときは自身をもっとも清らかな状態にするため、「斎宮(さいぐう)」という特別な場所にこもり、肉食や飲酒を断ち、沐浴をして感情を静かに保っていた(皇帝による天の祭祀)。

天円地方
2. 「天円地方」:建築そのものが宇宙の縮図
天壇の大きな特徴はその「形」にある。
古代中国には、「天は丸く(円)、地は四角い(方)」という考え方にもとづく「天円地方」という宇宙観があった。
この思想を具体的な形にしたのが天壇で、そこには「全宇宙」が表されている。
天壇の施設を上から見ると、北側が丸く、南側は角ばっていて、天(円)と地(方)がくっついていることがわかる。
個人的には、左右の出っぱりのない「しょくぱんマン」のように見えて仕方がない。
天壇の中にある祈年殿や圜丘壇(えんきゅうだん)は円形をしているが、それらが立つ土台は四角く作られている。
これも「天円地方」思想の表れだ。
天壇でもっとも重要な建物である圜丘壇には、中央に「天心石」と呼ばれる丸い石が設置されている。
歴代の皇帝が祈りをささげた場所だ。
皇帝はそこに立って、「いま自分は宇宙の中心にいて、天帝と交信している」と緊張感を感じていたのでは?

この形の硬貨も「天円地方」をイメージしている。
3. 「九五の至尊」:数字で表す皇帝の権威
中国において「九と五」は特別な数字で、「九五の至尊」という言葉は皇帝を象徴している。
皇帝の着る龍袍(りゅうほう)はこの思想にもとづいてデザインされ、九匹の龍が描かれており、表と裏からは五匹の龍が見えるようになっている。
胸と背中に一匹ずつ、左右の肩に一匹ずつ、前後の下の部分に二匹ずつ、そしてもう一匹は龍袍の内側に刺繍され、外側からは見えないようになっているのだ。

明の万暦帝が着ている袞服(こんぷく)には五匹の龍が見える。
龍袍は袞服より格下の服だが、見た目は似ている。
天壇の建築にも「九五の至尊」の意思が込められている。
とくに強調されているのが「九」だ。
天壇でもっとも大切な建物「圜丘壇」を見てみると、階段の数は9で、欄干(手すり)の数は9の倍数になっている。
圜丘壇は三層構造になっていて、各壇の直径を合計すると、9に5をかけた45丈になる。
先ほど、皇帝がその上に立つ「天心石」について書いた。
この天心石の外側には9枚の石板が設置され、その外側には18枚、さらにその外側には27枚と、「9」を起点にして石板の数が増えている。
そして、圜丘壇の全体では、実数で3291枚の石板がある。
これを9で割ると365.66となり、ほぼ1年の日数と等しくなる。
地球が太陽のまわりを一周するには「365日と約6時間」かかるため、そのズレを修正するためにうるう年が設けられた。
くわしいことは「圜丘壇」を見てほしい。

AIに描いてもらった、天心石を中心とする圜丘壇のイメージ
4. 回音壁|皇帝の声を天へ届けるしかけ
天壇の中にある皇穹宇(こうきゅうう)は、「回音壁(エコーウォール)」と呼ばれる円形の壁に囲まれている。
壁に向かってささやくと、その声が壁の曲線に沿って伝わり、約60メートル離れた反対側にいる人に聞こえるという。
中国人のガイドと天壇に行ったとき、皇帝の祈りを確実に天に届かせるためにこの回音壁をつくったのだと聞いた。
まとめ:天壇は中国思想のかたまり
中国の皇帝にとってもっとも重要な仕事は、天帝に豊作や国家の安寧を祈ること。
明と清の時代、その儀式をおこなう神聖な場所が天壇だった。
九五の至尊、天円地方、回音壁――
こうした要素が組み込まれた天壇は、中国思想の集合体と言うことができる。

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