「日本に行きたいと思うけど、日本は怖いデス」
このまえ日本語を学んでいるメキシコ人と話をしていた時、そんなことを聞いて「いやいやいや」とツッコまざるを得なかった。
よりによってメキシコ人が日本を怖がるというのは、一体どういうことなのか?
人口10万人あたりの殺人事件の件数による「世界の殺人発生率 国別ランキング・推移」(globalnote)で、29.07件のメキシコは156か国中、12位になっている。
それに対して日本は0.26件(154位)だから、「世界で最も安全な国」と言って問題ない。
それにメキシコで起こる殺人事件は内容が残酷。
こんなAFPの報道(2016年10月18日)のような、日本ならアニメやマンガの世界での出来事が現実に起こる。
両手切断された男女6人、生きた状態で見つかる メキシコ
この6人は麻薬密売に関連する犯罪グループ(いわゆるギャング)によって両手を切断され、額には「私は泥棒」と書かれた状態で路上に放置されていた。
メキシコでは麻薬密売をめぐる殺人事件はよく起きていて、ギャングによって切断された遺体が路上に転がっていることは多いが、「体の一部を切断された人が生存したまま発見されるのは珍しい」と記事にある。
もう警察や軍でも手に負えないような状態だから、自分たちの身は自分たちで守ろうと武装した市民による自警団がメキシコ各地で現れている。
ことし1月にはそんな自警団が12人の誘拐犯を殺害し、死体を街中に遺棄したという。
AFPの記事(2021年1月19日)
メキシコで12人の遺体発見、自警団が殺害した誘拐犯か
しかもその12人の肉体には拷問された痕があった。
”市民”によるこんな事件が起こるとか、日本人にとってメキシコは想像を超えた魔界か。
先月4月にも頭部が切断された8人の遺体が発見されているし、『北斗の拳』の世紀末世界だってここまでひどくはないのでは?
殺人事件の発生件数は日本の約111倍、しかもその内容も、日本では放送できるかどうかギリギリの”グロアニメ”のレベル。
メキシコについてはそんなニュースをよく見る。
ギャングの抗争では「見せしめ」の意味であえて残酷さをアピールするとはいえ、男女9人を殺したあとに遺体を橋につるすとか、生きている人間の首をチェーンソーで切断する様子をネットで公開するとか、日本からすると異国ではなく異世界での話。
一般人の間でも2020年に夫が妻を刃物で殺害したあと、証拠隠滅のために遺体の皮膚をはいだというショッキングな事件が起きた。
外務省が公開しているメキシコの「危険情報」では丁寧な言葉づかいをしているものの、言ってる内容はゴルゴ13の世界と変わらない。
「都市間の陸路での移動は危険が伴いますので,可能な限り航空機を利用するようにしてください。陸路で移動する際は,昼間に有料高速道路を利用し,州境の山岳部・農村部等人家の少ない地域を通行する場合は,不用意な停車は避けてください。」
うかつに車を停めると襲われて、下手したらその場で命を奪われる。
日本でこれに近い状況が起きたのは戦国時代では?
スリや暴力事件の発生件数でもメキシコは、テーブルにノートパソコンを置いたままトイレに行ける日本に比べてケタ違いに多いはずだ。
そんな国に住む人間が「日本は怖いデス」と言うのは、ラスボスを倒せる勇者が野原のスライムにおびえるようなもの。
一体なぜ?
ワケをたずねたら、日本では地震がよく起きてそのたびに多くの人が死ぬからと言う。
もちろんメキシコにも地震はあるし、1985年の地震(メキシコ地震)では約9500人が犠牲となった。
でも日本では6000人の死者を出した阪神淡路大震災から20年もしないうちに、東日本大震災が発生して1万5000人以上が亡くなった。
日本とメキシコでは巨大地震の頻度が違うし津波も恐ろしい。
そのメキシコ人は日本で働きたいと考えているが、「またこの規模の地震が起こるのでは?」と思うと不安でたまらなくなるし、「日本は危険だ」と親にも反対されている。
メキシコで起こる殺人事件なら地域や時間帯によってある程度の予想ができるから、それに注意して行動すれば問題はない。
でも地震はそうじゃない。
いきなり地面が揺れることを考えると、そのメキシコ人にとっては日本のほうがはるかに恐ろしい。
それはそうかもだけど、この人は日本について断片的な情報しか知らないから、全体像としてはかなり偏っている。ということはきっとボクも同じだ。
メキシコに行ってみればそこは魔界じゃなくて、タコスとテキーラと陽気な人たちが住む楽しい世界と出会うはず。
世界で最も安全な国に対して、その反対側の国にいる人が怖がるというのも変な話だ。
でも、一部の情報で全体を判断することは、きっと世界中の人がしている。
勝手な思い込みなどで、正しい判断ができなくなることを認知バイアスという。
日本ではインドについてそんなことが多い気がする。
「危険なところには近づかない」というのは合理的な判断で、「大地震(殺人事件)が多いから、日本(メキシコ)に行くのはやめよう」という選択は認知バイアスと言っていい。
いろんな情報に接して、特定の国や人に対してステレオタイプのイメージをもつのは仕方がないとしても、同時に「これって認知バイアスかも」とときには自分を疑ってみるのは大切だ。
> メキシコに行ってみればそこは魔界じゃなくて、タコスとテキーラと陽気な人たちが住む楽しい世界と出会うはず。
うーん、♪ South of the border へ行けば、そのような「楽しい世界」に出会うことは間違いないですが・・・。
問題は、そのすぐそばに本当に魔界が「口を開けている」ということです。絶対に油断しちゃだめですよ。
(これは、ある程度の実体験に基づくアドバイスです。)
> 日本ではインドについてそんなことが多い気がする。
インドに行ったことはありません。でも、インド人やインド系の人と話をしたことは何度かあります。
その話を聞いた限りでは、ブログ主さんほど私は楽天的にはなれないですね。