【勧善懲悪省】日本とアフガニスタン社会の同じと違い

まずはあの千葉県松戸市のご当地ＶＴｕｂｅｒ・戸定梨香（とじょうりんか）による交通安全ＰＲ動画を見てもらう。

千葉県警の松戸警察・松戸東警察がこれを公開したところ、若い女性のへそ出し・ミニスカートの格好に「全国フェミニスト議員連盟」が激怒し千葉県警に、

「公共機関である警察署が、女児を性的対象とするアニメキャラクターを採用することは絶対にあってはならない」
「本動画は女児を性的な対象として描いており、女性の定型化された役割に基づく偏見及び慣習を助長している」
「性犯罪誘発の懸念すら感じさせる」

という内容の質問状を送って猛抗議した。さらに動画の削除や謝罪を要求し、戸定梨香を起用した理由を説明するよう求めた。
この波状攻撃を受けた千葉県警は動画を削除。
すると今度はＶＴｕｂｅｒの所属事務所代表・板倉節子さんがこう怒った。

「アイドルが好きな子だからアイドルが着ているような衣装を着ている」

もともと戸定梨香は以前から松戸の魅力を発信していて、住民と交流するイベントを開くなど地域で親しまれているキャラらしい。
そして同じ女性の視点からこうも言う。

「性的対象物を描写したつもりは一切ないし、強調したつもりもない。法に触れているわけでもない。」

要はこの動画を見て、「性的対象物を描写し、かつ、強調している」とするフェミニスト議員連盟の主張に賛成するかどうかってこと。
今回のケースでは反対派が多かったから批判が殺到し、議員連盟側は「公的機関としての認識を問うたものです。当該動画の掲載も削除も、ともに千葉県警によるものです」と説明するも、これが燃料となってさらに炎上した。
動画の削除や謝罪を要求しておいてこれは通じない。

特定の人たちの主観がポリコレ棒になってバンバン叩かれ、この程度で社会的NGにされたら、クリエイターや関係者はたまらない。
これでは日本の表現活動は委縮してしまう。
抗議がくると高速削除した千葉県警の対応もマズかった。
警察から「あのヘソはちょっと～」とか連絡があれば、会社としても修正には応じられたらしい。バンされた戸定梨香のイメージダウンは大きい。
同時にこの騒動でフェミニスト全体に対する印象も悪化したし、全国のフェミニストさんはこの連盟に抗議するべき。

話は三次元へ変わる。
国も宗教も民族もガラリと変わって、最近、イスラム主義のタリバンが支配権を握ったアフガニスタンについてだ。

イスラム教では女性は身内以外の男性に、手のひらなどの一部をのぞいて肌や髪を見せてはいけないという教えがある。
それで外出するときは、こんな格好をしないといけない女性もいる。

ただ同じイスラム教徒でも、服装規定は国や地域によって大きく違っていて、大ざっぱにみて東南アジアではけっこうゆるくて、サウジアラビアなど中東の国は厳しい。

世界でもっとも厳格なのは、タリバン政権下のアフガニスタンだろう。
政府は国民に、自分たちが考えるイスラム教のルールにしたがって生活することを求めるから、タリバンはそれをチェックするための「勧善懲悪省」を設立した。
＊正式名称は「徳の奨励と悪徳の禁止の省」

といっても２００１年までの旧タリバン政権時代にも勧善懲悪省はあったから、復活させたと言ったほうが正しい。
そのころの勧善懲悪省は、男性の同伴者なしで街を歩く女性がいたら捕まえて、ムチ打ち刑を行うなどムゴイことをしていた。
いまのタリバン政権は以前とは違うと言っているけど、今のところは女性の職場復帰を許可していないし、女子大学生には厳しい服装規定を導入して、女性の権利や自由を奪う雰囲気に満ちている。

これはタリバンの考えるイスラム教に基づくもので、女性に教育を受けさせないのはイスラム教の教えに反していると、正反対の意見を持つイスラム教徒は世界にはたくさんいる。

「勧善懲悪省」と同じような組織のあるエジプトにいる人は、

「if a woman’s clothes are scandalous, they punish her」

とミニスカートのように肌を大きく露出するような、スキャンダラスな女性がいたら罰せられると言う。

ということで、日本といまのアフガニスタン社会の同じと違いが見えてきただろうか。
世界的にみて無宗教国家の日本に「勧善懲悪省」なんて組織があるわけないし、こんなモノは日本人の価値観の対極にある。
でも自分たちの価値観から相手をジャッジして、正義と悪とに分け、悪は排除したり正そうとするグループはたくさんある。
これが個人レベルになると、正しい着方をするよう注意する「着物警察」などの〇〇警察になる。
こういう自前のポリコレ棒で相手をたたくような、私的「勧善懲悪省」みたいな人たちはどこの国にもいる。

アフガニスタンの場合はそれが国家公認で、国民を罰する強大な権力が与えられているところが違う。
このへんが基本的に価値観が1つしかないイスラム国家と、いろんな見方のある民主主義国家の決定的な違いだ。
それに日本では、私的「勧善懲悪省」に抗議する自由や権利が認められている。
日本とアフガニスタンでは社会体制が違うからまったく別の国のように見えるだけで、自分の正義や価値観を他人にも当てはめようとする勢力がある点では同じ。
自分との違いを間違いと認識して、黙っていられない人はどこの国にもいる。