友人のアメリカ人女性、エマは静岡の小中学校で英語を教えていて、数年前に帰国して、今はジョージア州に住んでいる。
日本にいたころ、彼女はさまざまなことを経験した。
たとえば授業中、ある女子中学生が英語で「わたしはネコが好きです。なぜなら、ミートボールが大好きだからです」と発表したのを聞いて、エマは「ネコの肉??」と大きなショックをうけた。
でも、本人は「肉球」のつもりだったと分かって安心したのも、今は良い思い出だという。
最近、そんな彼女と話をしたので、これからその模様を書いていこう。
お米じゃない「ワイルドライス」
ーー今こっちは午前10時だから、そっちは午後9時か。エマは晩ごはんは何を食べたんだ?
エマ:わたしが食べたものが気になるの?
ーーただの会話のきっかけだ。自意識過剰もはなはだしいわ。
鶏の胸肉とワイルドライスとスイスチャード、おいしそうでしょ。
ーー「でしょ」って言われても、味を想像できるのは鶏の胸肉しかない。
「野生の米」ってどんなお米なんだ?
お米大国の日本で生まれ育ったけど、そんな米は初めて聞いたぞ。
エ:ワイルドライスはちょっと硬くてプチプチしていて、日本の白米よりは玄米に近い感じ。
個人的には味や食感は白米のほうが好きだけど、栄養価が高いからワイルドライスのほうが体にはいい。
わたしは9月に出産を控えているから、最近はこのお米を食べる機会が増えたのよ。
ーーさっきから当然のように「ライス」って言ってるけど、いまネットで調べたら、それはお米じゃなくてイネ科の植物(アメリカマコモ)の種子のことだぞ。
え:え?あれはお米じゃないの?
わたしもそれは初耳だよ。
マコモと日本文化
ーーマコモ(真菰)って植物はじつは昔から日本にあって、古事記や万葉集にも出てきている。
「神の宿る植物」として神聖視されて、神社のしめ縄や茅の輪の材料に使われた。
今でも出雲大社にはマコモで作られたしめ縄がある。日本では茎(マコモダケ)を野菜として食べるんだって。
エ:「だって」ってあなた何人?
ーー生粋のジャパニーズだよ。
マコモと神道の関係なんて、たぶん日本人の8割は知らない。
アメリカ先住民もワイルドライスを神聖視していたから、昔の日本人と共通する見方があったんだね。
ーーかもな。
神道にもアメリカ先住民の信仰にも、自然物に霊魂や神聖な力が宿るっていうアニミズムの考え方があるし。

ワイルドライスがとれるアメリカマコモは北米原産で、先住民が昔から食べてきた。
これはAIに作ってもらった画像だから、参考として見てほしい。
米国のスイスチャードと日本の不断草
エ:スイスチャードはほうれん草みたいな野菜だけど、日本にもあるの?
ーーそれも調べたら日本にあって、「フダンソウ」っていうらしい。でも、スイスチャードは「セイヨウフダンソウ」というから、種類がすこし違うんじゃないか。
エ:それは「普段着」なんかで使われるフダン?
ーーそっちじゃなくて「不断」のほう。この野菜は暑さにも寒さにも強くて、一年を通じてほぼいつでも収穫できるから「不断草」と呼ばれているんだって。
※江戸時代の『農業全書』には「四季絶えずあるゆえに不断草と名付るなるべし」という記述があって、それが名前の由来とされている。
「フダンソウ」って日本の各地で名前が違って、岡山県ではアマナ、大阪ではウマイナって呼ばれているらしい。
写真で見ると、茎がカラフルを超えてなんか毒々しいけど本当に美味いのかな。
エ:サラダにあったら、彩りが良く見えて食欲がわくよ。スイスチャードは炒めても生でもいいし、スープに入れるのもよし。栄養もあるから、アメリカでは人気の野菜なの。大阪人が「ウマイ」って言うなら確かでしょ。
ーーそうかもな。
イタリア語でも「タベルナ(Taverna)」と言って、じつは「食堂」を意味するしな。
エ:その理論だと、大阪では「マズイナ」って名前になるよね。

代わりつつあるアメリカの土足文化
ーーさっき、もうすぐ出産予定だって言ってたじゃん?
それで聞きたいことがある。
またわたしの個人情報?
ーーそれは一度も聞いてない。
アメリカの生活様式って、家の中でも靴を履いたまま過ごすんだろ?
エ:「アメリカ人はみんな土足」という認識はもう時代遅れ。
最近はアメリカでも、靴を脱いで家に上がる人も増えてきたんだよ。
ーーえ、そうなの? 靴を履いたままソファーでくつろぐのが、「ザ・アメリカ人」ってイメージがあったんだけど、アメリカ人も日本人に近づいているのか。
エ:日本は関係ない。自意識過剰がはなはだしいのはどっちよ。
コロナ禍で大騒ぎになったころに衛生観念が高まって、アメリカ人の文化や習慣も変わってきているんだよ。
とはいえ、もちろん今でも家の中で、靴を履いたままの人もいる。
ハッキリとは分からないけど、割合は半々ぐらいじゃないかな。
ーー靴を脱がないと、外から泥を家の中に持ち込むことになるだろ? そうしたら、赤ちゃんがハイハイすると服が汚れたり、泥を口に入れたりしないのか?
エ:⋯そんなこと、考えたことなかった。とくに問題になったって話は聞かないから、大丈夫なんじゃない?
少しくらい泥を食べても、かえって免疫がつくって。
ーーそこが気にならないところが、日本人とアメリカ人の大きな違いだな。
トイレ用スリッパに見る日本の衛生観念
ーー大人が靴を履いて歩き回った床で、赤ん坊をハイハイさせるのは「児童虐待」って気がする。
アメリカって子どもに留守番をさせるのは法律で禁止しているから、そういうのには厳しいと思っていた。
※子どもの留守番については州によって状況がちがう。
14歳以下の留守番を禁止する州もあれば、親の判断にまかせている州もある。
10~12歳以上から留守番をOKとしている州が多いらしい。
エ:それは清潔じゃなくて、治安の問題。衛生観念については、世界の中で日本人が飛び抜けているんだよ。
日本人の家に招かれたとき、トイレ専用のスリッパがあったからビックリした。
アメリカだったら、ホテルでもそこまで気を使わないんじゃないかな。
ーー日本人にとっては常識で、トイレにスリッパが無いと戸惑うね。
エ:そんなキレイ好きの民族は世界的にも珍しいよ。
そんな文化の違いで日本にいたころ、知り合いのイギリス人が大失敗をした。その話を聞きたい?
ーー早く言え。
エ:彼が日本人の家でトイレを借りたとき、スリッパを履いたままリビング・ルームに現れたから、日本人がそれを見て悲鳴をあげたの。
日本人の衛生観念はやっぱり特別なんだな、って思ったよ。
ーーそれはキツイな。
イギリス人には「うっかりミス」だろうけど、日本人には「重過失」レベルの不注意だぞ。

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