日本人の“降伏論”に、ヨーロッパ人が「NO!」と言う理由

 

ロシアがウクライナへ侵攻してから1か月以上が過ぎた。
ウクライナの粘り強い抵抗でロシア軍の動きは止められて、一部では撤退する動きも出ている。
そしてこの間、日本では、もうウクライナはロシアに降伏すべきだ、政治的妥結をしたほうがいいといった意見が出てきて物議をかもす。

産経新聞(2022/3/28)

ウクライナ降伏論への疑問 元官房副長官・松井孝治

ウクライナ軍が奮闘は素晴らしいとしても、戦闘が長引けば、それだけ市民の犠牲が増えるのは避けられない。
短期決戦に失敗したあせりからか、ロシア軍は病院などの民間施設にも攻撃を加えた。

人間にとって最も大事なもの、一番守るべきものは命だ。それを救うために、ウクライナはロシアに即時降伏するべき。
そんな主張に対して松井氏は、

「同時に「命以上の価値」のために戦うウクライナの国民を否定できる人もいないだろう。」
「彼らが独立と民主主義に命以上の価値を置いて戦っている姿から我々は目を背けてはいけないと思う。」

と強調している。

日本で浮上する「ウクライナはロシアに降伏するべき」論について、個人的に興味をもったんでいろんな外国人に意見を聞いてみた。
きのうはバングラデシュ人の見方を書いたんで、今回はドイツ人から聞いた話を紹介しよう。

日本人の「降伏論」に、バングラデシュ人がNOと言うワケ

 

まず日本にチラホラある「降伏のすすめ」論はドイツ国内では聞いたことがないし、彼もそれには反対だという。
そう考える理由は、プーチン大統領は1ミリも信用できないから。
2014年にクリミア半島を武力で奪っても、それでも満足しないで、今度はウクライナに全面戦争をしかけてくるような人物だ。
だからもし降伏したとしても、「それで終わり」にはならない。
あとから約束を破られて、ウクライナはきっとすべてを失ってしまう。

2008年にはロシアとグルジアが戦争をして(南オセチア紛争)、グルジアは領土を奪われた。
ロシアは停戦合意を結んで撤退すると約束したのに、何だかんだ理由を付けてそれを無視して、いまでもロシア軍はそこにとどまっている。
ロシアの占領下にある南オセチアの統治はとても不安定で、誘拐がよくあるような状況で市民は平和に暮らせていない。
だから市民の犠牲を抑えるために、いまウクライナが降伏したとしても、長い目でみれば市民の安全は守られない。人間としての尊厳も。

それにウクライナ人は祖国愛がとても強い。
だからロシアが占領できたとしても、それは一時的なものでしかないし、それにもう遅すぎる。
多くのウクライナ人が友人や家族を殺されたから、政府が政治的にロシアに妥協して平和をもたらしたとしても、国民は納得しないで戦う。
祖国の文化や伝統を守るため、知り合いや同じ国民を失った恨みから、ウクライナの人たちならきっとそうするから、ここでの降伏には意味や実効性がない。
もちろん対等な立場で和平協議はするべきだ。
いまドイツはウクライナへ兵器を渡して支援している。
それが使われたら、多くの人が死ぬことになるのはみんな分かっているけど、それに反対する人なんて聞いたことがない。
いまウクライナは、侵略者と戦うこと以外に選択肢がない。
そういう人たちに、「市民が犠牲になっても仕方ない」という言い方をするのは悪意がある。

それにウクライナが終われば、プーチン大統領の次のターゲットはモルドバだ。
ロシアの軍事侵攻はジョージアやクリミア半島で終わると思っていたけど、そんな予想は激アマで、いまはウクライナが攻められている。
この攻略に成功したらプーチン大統領は自信をつけて、ヨーロッパ全体が脅威にさらされる。
ドイツ人の自分だけじゃなくて、西ヨーロッパの人たちはきっとそう考えている。

 

ウクライナ戦争が長引いて、いろんなことが明らかになるにつれて、ロシア軍はまったく信用できないこともハッキリしてきた。
「ウクライナへ攻撃することはない」、「軍を撤収させる」と言ったけど、それは結局ウソだった。
1カ月にわたってロシア軍が占拠していて、最近ウクライナ軍が解放した都市、ブチャに入ってみると、そこには地獄が広がっていた。
路上にいくつもの遺体が放置されていて、数百人単位の集団虐殺の痕跡が確認されたとウクライナ側は発表する。
こういう事実を知ると、「降伏すれば助かる」というのは現実ではなくて幻想、カラッポな希望に見えてくる。

 

 

ドイツ人の知人は、ウクライナで起きていることは日本にとっても重要なはずだと言う。
最近、彼が見たメディアの記事によると、いまこの事態を中国が鋭意注目している。
もしプーチン大統領が武力で野望を実現するのを見たら、今度は中国が台湾に同じことをする。
それを阻止するためにも世界中が団結して、ロシアに圧力をかけてプーチン大統領に苦しい思いをさせないといけない。
いまは欧米が中心となって、自分たちもダメージを負いながらも経済制裁を行って、ロシアに大打撃を与えている。
これが中国にプレッシャーを与えているとそのドイツメディアは伝えたという。

そのことについては、韓国メディアの中央日報も記事で報じている。(2022.03.29)

台湾情報機関トップ「対ロシア制裁に驚いた中国、3年間は台湾攻撃しないだろう」

ロシアに対する国際社会の制裁の厳しさに驚いた中国は、同じ失敗をしてはいけないと慎重になり、あと3年間は軍事侵攻をしないだろうと台湾の情報機関が分析した。
これは確かに、日本の安全保障に直結する大問題。
いまロシアの侵攻がどんな結末を迎えるのか、じっと推移を見守って、今後の”参考”にする国は多いはず。
国際的な秩序や安全を守る観点からも、ウクライナの降伏は合理的とは言えない。

 

 

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3 件のコメント

  • > 個人的には最近、太平洋戦争で日本軍が回天や桜花などを使った自爆攻撃を行って、大切な若い命を散らせたことを記事に書いたから、人の命を犠牲にしないためには、早い段階で降伏を決断することも大事だと思う。
    > 歴史に「タラレバ定食」はないけど、もっと早く日本が降伏していたら、原爆投下もなかったかもしれない。
    > でもそれは、中学生が平和を祈りながら千羽鶴を作って近所の区役所に飾るみたいな、日本国内で完結する話。

    最後の一文、軽く書いてありますがとても重要だと思います。それが全てで、前の2文はほぼ意味なし。
    軽率で身勝手な個人平和主義者の勝手な主観ですね。自分の考えはどうあれ他国・他人を巻き込むな。聞いているだけで腹が立つ、不愉快な考え方です。
    なお、先の太平洋戦争では、周辺諸国に向かって先に攻撃を仕掛けたのは、我々日本国であったという事実を忘れるべきではありません。その日本国が「市民の犠牲を抑えるためにはもっと早く降伏すべきだった」と考えるのは、ある意味当然です。それは、「攻撃を仕掛けた側は、そうするべきではなかった、一刻も早く戦争を止めるべきだった」という考えと軌を一にするものであるからです。つまりは自業自得です。

    ですが、それは、ロシア側から一方的に攻撃を仕掛けられたウクライナに向かって言うべきことでは決してない。そんなことを主張すれば、世界中の人々から「日本人は、残虐な専制君主に弱者は従えと説く卑怯者だ」と誤解を広めるだけでしょう。実に愚かだ。

  • <<<祖国愛がとても強い。
    ウクライナ「日本が、我が国みたいに、1920年代から1950年代までソ連の領土になって、日本人の作った食糧が全て収奪され、さらに日本人全員がシベリアに強制移住させられた歴史を経験すれば、嫌でも我が国の愛国心を理解できるだろう」

    ビスマルク「しょせん人間は(本当にシんでしまうほどの悲惨な)自分の経験から学ぶのが常」

  • <<<最後の一文、軽く書いてありますがとても重要だと思います。それが全てで、前の2文はほぼ意味なし。
    <<< なお、先の太平洋戦争では、周辺諸国に向かって先に攻撃を仕掛けたのは、我々日本国であったという事実を忘れるべきではありません。

    三島由紀夫「日本人には威張り、外国人にはヘイコラするというのが、明治(建国)初年の通訳から、戦後占領時代の一部日本人にいたる伝統的な精神態度でありました。 これが一ぺん裏返しになると、外国人を敵視し、ヒステリックな症状を呈し、日本を世界の中心、絶対不敗の神の国と考える妄想に発展します。
     外国人と自然な態度で付き合うということが、日本人にはもっともむつかしいものらしい。 これが都市のインテリほどむつかしいので、農村や漁村では、かえって気楽にめづらしがって、外国人を迎え入れます。」

    出典:「不道徳教育講座」(1960年)

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。