アメリカと日本社会の大きな違いの一つに、「中絶」に対する見方がある。
伝統的に水子供養のある日本と違って、キリスト教の価値観が浸透しているアメリカ社会では、人が生まれてくるかどうかは神の意思によるもので、人間が手術を行ってその機会をなくすることには強烈な忌避感がある。
これは脱線なんだが、作家の武者小路実篤は人間という生物をこう表現した。
「神がつくったものとしては人間は無常すぎ、不完全すぎる。しかし自然が生んだとしたら、あまりに傑作すぎる」
「不完全な処(ところ)」を「だんだんとおぎなって完全なものにする」ところが人間のすばらしい能力だという実篤の見方は、日本人の価値観をよく表していると思うのですよ。
脱線終わり。
アメリカでは妊娠中の女性に中絶手術を行ったとして逮捕された医師が、原則的に妊娠中絶手術を禁止したテキサス州法こそ違憲であるとして1970年に提訴する。
最終的には1973年にアメリカ衆最高裁が、テキサス州の中絶法を違憲とする判決を下したことで、アメリカ社会で人工妊娠中絶が合法であることが確認された。
ただ「子供をおろす権利」をめぐっては、アメリカ社会ではいまでも激しい対立があるから、今後どうなるかは分からない。
2005年になりアメリカ合衆国最高裁判所判事の構成が変わったため、判例変更を目指す動きが再び活発化している。
アメリカでは人工中絶を「悪魔の所業」のように敵視する人たちがいる。
そしてそんな自分を正義の化身とカン違いして、中絶手術を行う医者を射殺するとか病院を爆発するといったテロ事件を起こしたから、爆発物専門スタッフを雇って郵便物の開封を行う病院も多いという。
7年前にはコロラド州で男が中絶を行う施設を襲撃し、建物に立てこもって警察官と銃撃戦になり、3人が死亡、約10人が負傷する事件が発生した。
産経新聞(2015/11/28)
「事態は決着した」3人射殺し投降の男の動機は…中絶医狙った事件は以前も
日本に長く住んでいて、永住許可の申請を考えているアメリカ人が知人にいる。
彼にとって、自国の大キライなところがまさにこんな事件だ。
キリスト教の価値観が強すぎて、他人の中絶を許さないというほど自分勝手な考え方をしている人間がいるし、銃が身近にあるから、衝動的に自殺や他人を射殺することが起こる。
日本に不満はあるとしても、
「日本だったら絶対にこんな事件は起きない。日本人は宗教に無関心だから、自分の信仰から他人のすることに口をはさまないし、社会に銃が出回っていないから、安心して生活することができる」
という理由で、ずっと住むならアメリカよりもこの島国のほうが魅力的だという。
たしかに宗教と銃の問題を嫌う人なら、神さまにも仏さまにも手を合わせちゃって、ボケられるほど平和な日本はパラダイスだ。
人口中絶は殺人行為に等しいといって、医者を殺害する事件は日本では考えられない。ないんだが、スケールの違いを抜きにすれば、最近こんな迷惑な正義マンが捕まった。
日テレニュース(2022年4月12日)
「反ワクチン団体」クリニックに侵入……「違法だ」「打つな」大声 接種妨害か 東京ドーム前でも「殺人だ」 公安部が捜査
新型コロナのワクチン接種に反対する集団がクリニックに突入して、接種を待つ人に向かって「ワクチンは違法だ」「ワクチンを打つな」と大声で叫んで男女4人が逮捕された。
この反ワクチン団体は都内の接種会場でも、「殺人だ!」と大声で叫んでワクチン接種を一時中断させたという。
自分がワクチン接種をするかどうか、それは好きに決めればいい。
でも、他人に自分の価値観を押し付けて、「違法だ!」「殺人だ!」と非難する自分たちが違法行為をするというのはどんな精神構造の持ち主なのか。
クリニックを襲撃する「反ワクチン」もひとつの信仰で、このテロリストは反ワク教の信者だ。
自分を自分を絶対正義と規定して、それを実現するために、テロ行為を犯すド迷惑な正義マンはどこの国にもいる。
ただその表れ方は、中絶手術を行う医者を射殺するとか国によって違いはある。
後日、共同通信がこんなニュースを配信しているのを発見。(2022/4/13)
米南部州で中絶「重罪」に
オクラホマ州では人工妊娠中絶を重罪として、最高で禁錮10年と約1250万円の罰金を科す州法が成立した。
これでほぼ全ての中絶が禁止されるとか。
でもこれに反対する団体は訴訟を起こすというから、どうなるかは分からない。
確実に言えることは、日本じゃこんな騒ぎはゼッタイ起こらないってこと。
「世界ベストツーリスト」の日本人が、外国でしてはいけないこと。
> アメリカでは人工中絶を「悪魔の所業」のように敵視する人たちがいる。
> そしてそんな自分を正義の化身とカン違いして、中絶手術を行う医者を射殺するとか病院を爆発するといったテロ事件を起こした
アメリカ社会の後進性はこれだけじゃないです。一部のキリスト教原理主義者は、中絶手術どころか、避妊行為でさえも悪の所業として忌み嫌います。そのような地域では、レイプ事件の被害者で運悪く妊娠してしまった女性に対してさえも中絶手術を受けることを非難します。
> キリスト教の価値観が強すぎて、他人の中絶を許さないというほど自分勝手な考え方をしている人間がいるし、銃が身近にあるから、衝動的に自殺や他人を射殺することが起こる。
その考えはキリスト教の価値観が主な原因ですかね? 私は違うと思う。キリスト教カトリックの中心地であるバチカン市国やイタリア・ローマでもそこまでひどくはないですよ。米国社会がそうなってしまったのは、ただ単に、現代米国人の利己主義・自己主張・競争主義によるものではないですか?
日本社会がそうでないのは、無宗教であることとはさほど関係ないと私は思います。宗教なんかよりもずっと重要な「価値観」によるものでしょう。その価値観を「宗教」基準でしか評価できないところが、欧米人キリスト教文明の「限界」でしょうね。
>そのような地域では
これはどの地域でしょう?
<<<反ワクチン団体
でも、中国とロシアのワクチン接種には大人しく従うんでしょ