「徴用工」をめぐる日韓戦 譲歩を求める韓国・認めない日本 

 

韓国外相が来日したのはおよそ3年ぶりで、日本の首相と直接会って話をしたのは4年7か月ぶりということで、その内容に注目が集まった。
「戦後最悪」と言われる日韓関係が、危篤状態から抜け出すきっかけは生まれたのか。
ひん死の両国関係に「死亡宣告」となる日本企業の資産現金化は、早ければ来月に行われるとも言われている。
そんななかで行われた日韓会談に日本のメディアも期待大だ。

毎日新聞の社説(2022/7/20)

韓国外相の来日 信頼関係結び直す契機に

朝日新聞の社説(2022年7月20日)

朴外相の来日 対話加速し事態打開を

両紙ともこれで「モメンタム」(勢い、気運)が高まったことを強調し、「日本政府にもやるべきことがある」(朝日)、「日本は協力を惜しむべきではない」(毎日)と日本政府に暗に韓国への譲歩を求めた。

一方、産経新聞は安定の厳しさ。(2022/7/20)

両国の賠償問題は「1965年の日韓請求権協定で個人補償を含め解決済み」とする日本の立場は変わらない。日本の助力を期待せず、韓国国内の問題として完結させるべきである。

韓国外相来日 問題解決の具体策みせよ

 

元徴用工をめぐる賠償問題は、韓国側が日本との約束を破ったことで生まれたものだ。
上の請求権協定で日韓両政府が「完全かつ最終的に解決」したと確認し、日本は約束どおり5億ドルの経済支援金を韓国に渡している。
そのお金を元徴用工の人たちに配らなかったのは韓国政府の責任で、いまになって日本企業に請求してはいけない。

 

とはいえ、日本も柔軟な姿勢を見せている。
問題解決の具体策もないのに韓国外相と会うことには批判もあったが、岸田首相は会談を受け入れた。
いま日本が警戒しているのはコレだろう。

ハンギョレ新聞(2022-07-18)

パク長官は、このような韓国政府の努力と解決策作りの難しさを日本側に説明するものと予想される。(中略)韓国が解決策作りに乗り出したからには、日本もそれに応えるべきだと指摘したのだ。

18日に韓日外相会談…「強制動員」めぐる日本の態度変化引き出せるか

 

実際、パク外相(長官)は「現金化の前に望ましい解決策が出るよう努力する」と日本に約束したし、日本の外相や首相との面談ではその難しさをアピールしたはず。
この目的は結局、日本から譲歩を引き出すこと。
パク外相が何度も強調した「誠意」とは、日本政府の謝罪や日本企業の資金拠出のことだろう。

でも、日本の態度は「ノー」に終始した。
首相官邸で会談した岸田首相は元徴用工問題について、「解決に引き続き尽力いただきたい」と韓国の責任で解決することを求める。
日本に受け入れ可能な回答を韓国政府が用意することを要求し、日韓の距離はまったく縮まらなかったという。

時事通信(2022年07月19日)

韓国側からは日本の譲歩を求める声が上がるなど、双方の溝が改めて浮き彫りとなった。 (中略)朴氏からは、日本側が軟化することに期待がにじんだ。首相との会談や日韓議員連盟幹部との会合で繰り返したのは日本側の「誠意」。

岸田首相、懸案解決求める 韓国外相と会談、溝も浮き彫り―元徴用工

 

会談に応じたといっても、日本は明確に一線を引いている。
安倍元首相へのユン大統領の弔意を伝えることが目的と言われたら、日本としても断るのはむずかしい。
でも岸田首相は会談終了後、記者団の質問を受け付けなかったし、松野官房長官も「弔意を伝えたいとの意向を受けて短時間実施されたものだ」と強調し、「仮に現金化に至ることになれば日韓関係にとって深刻な状況を招く」と釘を刺すのを忘れない。

 

下の時事通信の記事で、日韓関係に精通した元韓国政府高官が「元徴用工問題に関しては日本の主張が100%正しい」と明言している。(2022/07/20)

韓国、日本側の軟化期待=元徴用工、「早期解決」明言

ただそれでも実際問題として、日本が「誠意」を見せることは必要で、それなしでは韓国国民は納得しないという。
「日本の助力を期待せず、韓国国内の問題として完結させるべき」というのは、まったくそのとおりなんだが、こんな世論を考えると韓国政府の悩みは深くなる。

ハンギョレ新聞(2022-07-17)

韓日外相談会談、「加害者の謝罪」を入れた解決法を模索せよ

「誠意」の正体はこれに間違いない。
でもそれは「完全かつ最終的に解決(した)」という過去の韓国政府の立場と矛盾する。

 

いま日韓で大モメになっている「元徴用工問題」の原因をつくったのは前政権なのに、すべてを丸投げされて「もう時間はない!早く解決案を出してくれ!」と迫られるいまのユン政権はたしかに気の毒ではある。
ただ現時点では「努力する」と言うなど、韓国は決意表明しかしていない。
まだその”努力”の中身も分からず、韓国が解決策作りに乗り出したというだけで、日本に具体的な「誠意」や譲歩を求めるのはおかしい。
気運が高まったとしても、日本が韓国に譲る理由にはならない。
コトバはもうお腹いっぱいだから、韓国政府は早く具体的な行動を示さないと、このまま「死亡宣告」を受けるだけだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。