【汚職社会】タイ人が友人に、“心まで日本人”と言われたワケ

 

海外旅行はカルチャーショックを経験しに行くようなもの。
それは分かっていても、一度にいくつも重なるとなかなかの衝撃だ。

20年ほど前にタイのバンコクへ行って、一泊200円ぐらいのやっすい日本人宿に泊まった時、廊下を歩くと、いくつかの部屋に南京錠がかけられていたことに気づいた。
そのひとりと会ってワケを聞くと、自分がいない間にスタッフが部屋に侵入して、荷物を盗まれないようにするための防犯対策だと。
このへん(カオサンロード)の安宿を利用して、そんな被害をうけた日本人旅行者の話は何度か聞いたし、実際に被害者と会ったこともあるから、彼はフロントで渡されたカギを無視して日本から持ってきたカギを使っていた。
ちなみに、警察はまったく頼りにならないらしい。
宿のオーナーはそれを見越してこの地区を管轄する警察署にカネを渡しているから、外国人旅行者が被害を訴えたとしても門前払いされるか、警官は話を聞くだけで何もしてくれない。

宿のスタッフが泥棒で、警察もグルになっていたというのは強烈なカルチャーショックで、マイ南京錠を買いに走ったのは、今となってはなつかしい思い出だ。
もちろんこれは聞いただけの話だから、どこまで真実かは分からない。

国名のタイは「自由」という意味らしい。
いくら自由なタイでも警察が宿に買収されるような、そこまでデタラメなことが起こるだろうか?
この朝鮮日報の記事を読む限り、イエスだ。(2023/06/02)

タイを走る過積載トラック、「賄賂支払い済みステッカー」で検問を通過していた

「最大積載量つめるだけ」という日本のトラックのステッカーはあくまでパロディーで、ドライバーはちゃんと法律を守って荷物を積んでいる(ハズ)。
でも、タイでは運送業者が警察へワイロを渡し、その証拠となるステッカーをトラックに貼っておくことで、違法レベルの荷物を載せて走っていても、国道で警察による取り締まりをスルーすることができたという。
日本人からしたらマンガの世界。

市民のネット投稿からのこの闇ステッカーの存在が明らかになって、この件に関わった警察官79人がすでに免職処分となっていて、国道警察の司令官が停職処分を受けた。

ところでこのステッカーはどんな物なのか?
「料金は受け取り済み ありがとうございました」という文字と警察署のハンコでも押してあったのか?

記事によるとステッカーは文字ではなく、ウサギ、笑う太陽、カンフーパンダといったデザインで、これがフロントガラスにあると、”違法トラック”の運転者は警察のチェックをパスしてそのまま通過することができた。
ステッカーの値段は数千バーツ(千バーツ=約4000円)だから、毎月払う会員証みたいなものだったのだろう。
一度に半年分を払うと10%引きになります、というお得なシステムがあってももう驚かない。
この組織的な賄賂システムはかなり前から存在していたという。

 

日本にいる知り合いのタイ人女性はタイのこうした汚職が大嫌いで、これがタイ社会の最大級の問題と考えている。
ただ、それを強く意識したのは日本へ来てから。
日本に住むようになってから、警察官や市役所の役人からカネを要求されたことは一度もないし、そんな話も聞かない。
これがアタリマエになっている国は世界的にみればきっと少数だ。
警察に毎月カネを払って違法ステッカーを購入し、ワイロのサブスクみたいな行為がずっと続いていた国の基準からすると、日本社会は四万十川なみに透明度が高くてキレイに見える。
東京五輪では組織的な汚職があって完ぺきではないとしても、このタイ人にとって日本社会はとてもクリーンで居心地が良い。
役人の汚職や政治腐敗がタイの発展を邪魔しているから、彼女はこの社会のガンが早く消えてほしいと願っている。
でも、ワイロの悪習が無くならないことにはそれなりのワケがある。
その”便利さ”を実感して、黙認する市民も実は多いらしい。

久しぶりに帰国して高校・大学時代の友人と再会した時、このタイ人はそれを見せつけられてショックを受けた。
みんなで食事に行くという発想は分かるが、日本から来たということで、食事代は彼女持ちだったということには個人的にチョット違和感を感じる。
代わりに友人が車を出してくれた。
その祝いの席でドライバーの友人がお酒を注文して、おいしそうにグイグイ飲み始めたから彼女はビックリ。
飲酒運転はタイでも違法だから「ちょっとアンタ、何してんの?」と制止しようとすると、「大丈夫、何も問題ない」と友人が言うから、とりあえずそのワケを聞いてみた。
その友人が言うには、この店で食事をすれば名刺をくれるから、もし帰りに警察官にとめられたとしても、名刺を出せば見逃してくれる。だから問題ない。
「そうか、なら安心だ」と昔の彼女なら思ったかもしれない。
でも、日本の感覚が身についたいまの自分には、店が警察を買収済みという話には問題しか感じない。
それで強めに反対意見を言うと、その場にいたみんなから、

「あ~あ。この人は心まで日本人になっちゃったよ。ここはタイだから、アンタがタイのやり方を尊重しなさい」

と言われたから、黙るしかなかった。
(これじゃ警察が泥棒宿とグルになるのと変わらない)

大学時代の友人とバンコクのレストランで食事をしたら、こんな残念なことがあった。
そして実家のある地方都市へ移動して、高校時代の友人とご飯を食べに行ったら、そこのレストランでもまったく同じことが起きた。
高い教育をうけた人も多いのに、みんなこういう腐った名刺を”便利アイテム”のように考えていて、法律を破ることに何のためらいもない。
他の人もやってることから、自分だけ正直でいるとソンをする、という感覚を友人も店も警察も持っているようだ。
国民の感覚がマヒしていて、いまタイでは全国的にこんな腐敗がまん延していると思うと、彼女にはもう絶望感しかない。
知人は日本が大好きだけど、タイ人としてのアイデンティティーは絶対に捨てないし、国籍を変えるつもりもない。
でも、「心まで日本人になっちゃった」という言葉は誇らしく感じるらしい。

 

賄賂支払い済みステッカーの報道

 

 

日本 「目次」

韓国 「目次」

不敬罪と人間宣言:タイ人が驚く、日本の皇室とタイ王室の違い

日本人とタイ人の価値観の違い。死体はOK、タバコはNG

日本はどんな国? 在日外国人から見たいろんな日本 「目次」

【hentaiの国】「ラブライブ」のポスターが大炎上したワケ

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。