タイを旅して実感したのが、気候の暑さと信仰心の篤さだ。
たとえばタクシーに乗ると、ドライバーは「いまの信号違反だよね?」という危ない運転をするのに、渋滞につかまると、ドライバーはハンドルからパッと手を離して、窓の外のお寺に向かって合掌して頭を下げる。
時間に遅れるし、約束も気まぐれにキャンセルするけれど、仏教への敬意はガチ。
そんなタイの人々にとって、日本の宗教空間はどう映るのか。
先日、タイ北部のチェンマイ出身で、静岡の日本語学校に通う20代の女性を連れてお寺へ行って、そのあとカフェで話をした。
彼女の名前を「プー(タイ語でカニの意味)」にして、会話の内容をお届けしよう。

日本のお寺は「地味な古民家」!?
わい:「プー、お疲れさま! 日本のお寺は初めてって言ってたけど、実際に行ってみてどうだった?」
プー:「うーん、正直に言っていいですか? タイのお寺って白くて金色の飾りが多いから、すごくキレイで豪華なんです。日本のお寺はシンプルすぎて、何も知らなかったら、『古い家かな?』と思って通り過ぎちゃうレベルです。」
わい:「確かに。タイのお寺はキラキラ感がすどいから、一般の民家と見分けがつかない、なんてことは絶対にない。」
プー:「そうなんです。タイではお寺は神聖な空間なので、日常の生活空間とはっきり区別されています。でも、同じ仏教のお寺ですから、仏像に手を合わせると心が洗われる感じがして良かったです!」
わい:「タイ語で言うところの『タンブン(徳を積む)』だね。日本でもお寺や神社は聖域。だからさっき見た屋根にも、魔除けとして獅子の像や鬼瓦があった。」
プー:「タイにも同じ考え方があります! 『ヤック』っていう怖い顔の鬼が入り口でガードしてるんですよ。悪霊からお寺を守るために。」

タイの寺院や王宮の門番
鬼の顔をしたのがヤック、猿の顔をしているのがモック。2つを合わせると、日本の有名洋菓子ブランドみたいな名前になる。まぁ、ヨックモックだ。
ドレスコードに見る「聖域」の境界線
わい:「門を通ったあと、手水舎(てみずや・ちょうずや)で手を洗って清めたよね。タイのお寺でも、参拝前に心身を清める儀式はあり?」
プー:「う〜ん、水で洗うことはしませんね。その代わり、服装にはめちゃくちゃ厳しいです! 肌の露出は絶対NGだから、タンクトップや短パンは履きません。ちゃんとした服を着て、仏様に敬意を示します。」
わい:「なるほど。日本だと逆に、明確なドレスコードがないと思う。『清潔感のある格好で』という空気はあるけど、ジャージにサンダルでお参りする人もいる。前に、神社で肩を出してミニスカートを履いている日本人を見て、タイ人の友人が『あの格好は失礼です!』って怒ってた。」
プー:「それはダメですよ〜! タイなら入り口で止められて、中に入れません。日本は建物の見た目もそうですけど、『神聖な場所』と『日常』の境目があいまいじゃないですか?」
わい:「ほとんどの日本人は無宗教を自認しているし、お寺や神社は生活の中に溶け込みすぎていて、タイの人ほど特別感を感じていないのかも。バンコクのお寺の中で、日本人旅行客が足を伸ばして座っていて、足の裏を仏像に向けていたから、係員に叱られたのを見たことある。」
プー:「それは絶対ダメです! 日本人は普段はとても礼儀正しいのに、なんでそんな失礼なことに気がつかないんですかね。」
わい:「日本の感覚を持ち込んで、神聖な場所でも緊張感に欠けていたのでは?」

タイの仏塔(たぶん)
お寺で「悪口」を言うと不幸になる?
わい:「失礼のない格好でお寺に入ったあと、お寺の中で『これをしちゃダメ』っていうルールはある?」
プー:「あります! お寺の中にいるときは『悪いことを言ってはいけない』と言われています。他人の悪口はもちろん、『暑くてだるい〜』みたいな不満もNGです。
わい:「それは仏様に対して失礼だから?」
プー:「それもあると思います。お寺の中で悪いことばを吐くと、『タンブン(徳を積む)』の効果がゼロになっちゃうそうです。おばあちゃんからは『お寺の守護神が聞いていて、怒って不幸なことが起こるよ』って教えられました。感情的になって怒鳴ったりするのも厳禁です。」
わい:「そうなんだ。なんか韓国のカフェの反対だな。韓国人から、カフでは身近な人や政治家の悪口が飛び交っているって聞いた。」
プー:「あ〜、それはタイも同じかも。日本のお寺にも『してはいけないこと』ってありますか?」
わい:「マナーとして悪口を言うのはダメだけど、はっきりしたルールは知らない。ただ、伊勢神宮は別。あそこは神道の最高峰だから、仏教に関することを口にしてはいけないという『忌み言葉』のルールが古くからある。」
プー:「日本は仏教の国じゃなくて、神道も主流なんですよね。異なる宗教が両立しているところが、タイ人の信仰スタイルとは違います。いちばん大きな違いかもしれませんね。」
※伊勢神宮には「忌み言葉」があって、別のことばに言い換えないといけない。たとえば、
仏 → 中子(なかご)
お経 → 染紙(そめがみ)
寺 → 瓦葺(かわらふき)
と言わないといけないのだ。
それは延喜式で定められている。(斎宮の忌み詞)
バンコクの大理石寺院
日本のお寺にただよう「侘び寂び」がない。

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