どうしても見たい風景
「日本でどうしても見たい風景があるんだ! 私をそこへ連れて行ってほしい!」
数年前、あと数ヶ月で母国に帰るというバングラデシュ人から、そんなメールが届いた。
「そこ」とは、富士吉田市にある「新倉山浅間公園」のこと。
ここは、富士山・桜・五重塔という日本文化の「三種の神器」を同時に楽しめる有名スポットで、彼女はSNSでそこを発見し、日本を去る前にどうしても見たいという。
ボクもその公園には前々から興味があったので、これも「天の声」と思って、彼女をふくめ6人の外国人と行ってみたら、当日は天気に恵まれて絶景を見ることができ、みんな歓喜して大成功だった。
当時はコロナ禍のピークを過ぎて、国内旅行は解禁されていたが、海外からの観光客は受け入れていなかったと思う。
「それでも外国人観光客は多いんだろうな」と思ったら、想像の10倍以上もいて驚いた。展望デッキへ向かう列に並んでいたら、日本語より外国語の会話のほうが多く聞こえてきて、伏見稲荷大社を思い出した。

的中してしまった「悪寒」
外国人の数では予想を外したけれど、正しかったことがある。それは「キャパオーバー」だ。
ボクが行った時期は満開の少し前で、平日だったにもかかわらず、駐車場はいっぱいで20分ほど待たされた。展望デッキでの見学時間はたしか10分ほどで、ドンドン人を入れ替えていたのに、そこへ行くまで1時間以上かかった。
どう考えても、これは近いうちにパンクする予感しかなかった。それと、路上にゴミが落ちているのが目についたから、観光客の多さと住民のウンザリした気持ちが感じられた。
一緒にいた外国人もそれを指摘していた。
その予感というか悪寒は的中した。先日、春になるとそこで開かれていた「桜まつり」が今年は中止されると発表され、全国ニュースになった。
原因はもちろん「オーバーツーリズム(観光公害)」。観光客による迷惑行為の実態は、それはそれは酷いものだった。
・交通渋滞は年々悪化している。
・観光客が住民の家に侵入したり、庭で勝手に写真撮影をしたりする。
・トイレを使うため、突然家のドアを開ける。
・庭先をふくめ、町のそこら中でゴミや吸い殻を捨てる。注意すると逆ギレ。
・観光客がふくれ上がって道を歩くため、住民がそれを避けるために道路に入って迂回するように通る。
住民にとってはこれだけでも「激おこ」案件だが、特にひどいというか、信じられなかったのが、他人の庭で排泄行為をする観光客がいたこと。
なんで住民が観光客の糞尿の処理をしないといけないのか…。
こうした迷惑行為や違法行為が多発し、市民の苦情が殺到したことから、市は「さくら祭り」の中止を決めたという。
数年前の経験を考えると、コロナ禍が終わって日本観光が「フルオープン」したら、こんな結果を迎えても何の違和感はない。
海外でも注目を集めた「さくら祭り中止」への反応
観光公害は世界的な問題だ。このニュースはイギリスのBBCが記事にするなど、海外でも大きな注目を浴びた。
「Japanese city cancels cherry blossom festival over badly behaved tourists」(5 February 2026)
(マナーの悪い観光客の影響で、日本の都市が桜祭りを中止)
「さくら祭り中止」について、ネットで外国人の声を拾ったので、以下に紹介しよう。(原文は英語が中心で、こちらで日本語訳したもの)
・素晴らしいね。市は地元住民を大切にしている。フィリピンの役人は観光から得られる金のことしか考えていないからね。
・でも日本は、まだ観光客を増やす計画を立てている。
・この選択は正しい。しかし、せめて地元住民には開放し続けてほしい。なぜ観光客の不祥事のために、日本人が罰せられなきゃいけないんだ?
・「観光客」と言ってもほとんどが日本人…何でもかんでも「外国人」のせいにされるのはもううんざり。
・当局は、観光客が「トイレを使うために許可なく民家のドアを開けたり」、不法侵入したり、ゴミを捨てたり、「私有の庭で排便したり、住民が指摘すると大騒ぎしたり」していたと報告している。
賭けてもいい、彼らは日本人ではない。
・渋谷のカウントダウン中止を思い出す。大混雑で、警察が必死に人ごみを動かし続けていたよ。
・結局のところ、日本は観光客のためのテーマパークではない。日本人が暮らす国なのだ。
・祭りを中止したとしても、多くの海外メディアがこれを取り上げたから、これからさらに多くの観光客がここを「目的地リスト」に入れることにならないか?
・日本人の親切が裏目にでた。政府は、日本の文化や法律を尊重しない連中に対して厳しい罰則を定めるべきだ。
・日本を愛する外国人観光客として、無礼な観光客(あるいは無礼な人間全般)が大嫌い。
・オーバーツーリズムは大きな問題なのに、なぜ日本政府は訪日客を増やそうとしているのか理解できない。観光は経済を助けるが、代償が大きすぎる。
外国人のコメントを見たかぎり、観光客の楽しみより地元住民の生活を優先する市の決断を支持する人がほとんどだ。外国人のマナー違反に怒る外国人も多い。
市長は、さくら祭りを中止したが、「これは富士吉田市が真に持続可能な、質の高い観光都市へと生まれ変わるための転換」と訴えている。しかし、キャパオーバーにならないように大量の観光客をコントロールできるかどうか、そのハードルはエベレスト級だ。
日本に住むイギリス人女性が感じたこと
日本に5年以上住んでいるイギリス人女性と話をしていたとき、この一件について意見を聞いてみた。
彼女は、祭りのやり方や規模はわからないという前提を置いた上で、祭りの中止は「最後の選択肢」だと指摘。
日本に住んでいて、この国の人たちは外国人に比べてマナーが良く礼儀正しいことは事実であり、それが自分が日本に住む理由の1つになっている。だから、外国人観光客のマナー違反に怒る気持ちはよ〜く理解できるという。
でも、祭りの廃止は残念で、それまでに打てる手はなかったのか。入場者を制限したりトイレを増やしたりして、受け入れ環境を整えられなかったのか。
祭りを中止する代わりに、観光客から入場料を取ったり、ポイ捨てなどの迷惑行為には罰金を科し、その収入を地域に還元して住民に「おいしい思い」をさせられなかったか。
彼女は日本文化を愛していて、まだその「さくら祭り」に行ったことがなかったから、中止という選択はしないでほしかった。
個人的にも、こうした問題では観光客に厳しく対応し、住民を受益者にする発想がカギだと思う。
それと彼女は別の側面に不満を感じていた。
日本人は「自分たちと外国人」とよく2極化して考えるが、日本にいる外国人にはさまざまな立場の人がいる。さくら祭りで迷惑行為をしたのは特定の地域からの旅行者が多く、欧米人は少ないはずだ。まずはその正確な割合を出して、タイプ別に対応を考えるべきではないか。
乱暴に「外国人」とひとまとめにする、日本人にありがちな発想を彼女は嫌った。
彼女の思いには賛成だ。「外国人」という大きすぎる主語で語ると、善良な外国人を「敵」にまわしてしまう。こういう人を味方につけて、外国人の迷惑行為を無くすほうがいい。
「日本人 vs 外国人」という雑な構図は、日本に良い結果をもたらさない。

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