最近の日本で、だんだんと増えているのがイスラム教徒だ。
10年ほど前、ボクのまわりでは誰も「ラマダン」という言葉を聞いたことがなかったけれど、今ではそれを知っている人がチラホラいる。
*2026年のラマダン月は2月19日~3月19日。
でも、「イード」まで知っている人はいない。
最近、静岡の大学に通うパキスタン人留学生の「ムハンマド」と話をした。
これから、熱心なイスラム教徒である彼が日本で初めてラマダンとイードを経験した話を紹介しよう。
日本でのラマダンとパキスタンの違い
ーーおまえ、このまえ人生が、おっとラマダンが終わったんだろ?
ムハンマド:悪意に満ちた間違いだね。
去年9月に日本へ着いた時から、俺の人生の第二章がはじまったんだぜ。
ラマダンについてはそうだ。
このまえイスラム教徒にとって大切な1ヶ月が終わったよ。
よく知ってるね、君も断食をしていたのかい?
ーーそんなわけないだろ。
知り合いのバングラデシュ人やインドネシア人のイスラム教徒がSNSで、「ラマダンが終わった、おめでとう!」って歓喜の声をあげていたのを見たんだよ。
1ヶ月の断食を終えて、どんな気分なんだ?
ム:試合が終わった後のボクサーに聞く質問みたいだね。
でも、イスラム教徒にとってラマダン月の断食は大切な義務だからね。
それをやり遂げて「達成感」みたいな喜びは感じたよ。
ーー日本でする断食はパキスタンと違うのか?
ム:環境はまったく違うね。
パキスタンではラマダン月になると、みんな断食を始めて、昼間はレストランやカフェが閉まっている。
街全体でラマダンの雰囲気が高まるけど、日本ではそれがまったくなかったよ。
ーーそりゃそうだ。
日本はイスラム色が薄いからな。G7(主要7ヵ国)の中では最薄国だ。
正確な数字はわからないけど、いま日本にイスラム教徒は0.3%(42万人)しかいないという推計もある。
※ただし、国内のイスラム教徒は増加傾向にあり、ここ20年で約4倍になったという見方もある。
猛暑の断食とイスラム教のルール
ーー知り合いのインドネシア人は、日本で断食をするのはかなりハードだったと言ってたぞ。
その年のラマダン月はちょうど8月と重なったから、真夏に飲食ができなくなった。
そいつは実習生でエアコンの無い工場で働いていたから、汗が止まらなくて地獄にいる気分だったんだって。
ム:ラマダン月の断食はイスラム教徒の義務だからね。
「嫌だからやめる」なんてことはできないさ。
ーーそう、信者には「拒否権」がない。
前に、サッカーのエジプト代表がラマダンの期間中に来日して、札幌で日本代表と試合をして逆転負けをしたんだよ。
その敗因として、「断食が選手たちのパフォーマンスを低下させた」と言う人もいた。
ム:それも仕方ないね。

ーーさっきのインドネシア人の場合は、のどが乾いて死にそうだったから、水だけは飲むようにしたらしい。
ム:体調が悪かったらそうするべきだ。
断食はイスラム教徒の義務だからといって、それを守るために死ぬのはおかしい。
「守ったら死ぬルール」なんてのはイスラム教の考え方に反するよ。
ーー戦後の日本にはそんな現実を無視したルールがあって、律儀に守って餓死した人がいたけどな。


イードでバングラデシュ人のイスラム教徒が食べたもの
「イード」の過ごし方 in Japan
ーーラマダンが終わると、「イード」って祭りがあるんだろ?
イスラム教徒にとってはめでたい祝いの日で、気分がすごくアガるらしいじゃん。

ムハンマド、お前は初めての日本で、どんなふうにイードを過ごしたんだ?
ム:まずは、イスラム教徒のパキスタン人、バングラデシュ人、インド人が集まってパーティーを開いてみんなでお祝いをした。
それぞれが料理を作って持って行って、俺はスイーツを担当したんだ。
ーーポットラック(持ち寄り)形式のパーティーか。
楽しいよな、あれは。
ム:そしたらさ、残念なことがあったんだ。
俺が作ったスイーツはなかなか減らなかったんだよ。
ーーわかる!
俺も欧米人のポットラックパーティーに行った時、稲荷寿司を持って行ったけど、ほとんど誰も手を付けなかった。
結局自分で食べたけど、あの虚しさといったら⋯。
ポットラックパーティーってけっこう残酷だよな。
ム:まぁ仕方ないさ。
でも、その時、日本人の知り合いも招待してみんなで盛り上がった。全体的にはとても楽しかったよ。
ーーきっとその日本人は無宗教だけど、それはいいのか?
ム:関係ないさ。イードってのはね、イスラム教徒だけの祭りじゃない。
みんながハッピーになる日なんだ。
ーーカッコいいこと言うな、ぽんこつスイーツを作ったくせに。
おまえはモスクで祈ったからいいけど、ネットを見ると、ちゃんとした許可をとらないで、路上や公園で集団礼拝したイスラム教徒もいたらしい。
ム:それはモスクが小さくて、人を収容できなかったんだろうねぇ。
ーーだとしても、それは言いわけにはならないぞ。
日本では、誰もが日本のマナーや文化を守らないと、「みんなが幸せ」にはならないからな。

日本では何でもない景色が、パキスタン人には「絶景」になることもある。
パキスタン人が海に感動する理由
ム:パーティーの次の日、友人の車で浜松にあるモスクに行って、市内のイスラム教徒といっしょにお祈りをしたんだ。
ーーみんなで楽しく食事をして、真剣に礼拝する。
イスラム教徒のイードって世界中でそんな感じだよな。
ムーーそうだな。
で、ここまでの過ごし方はパキスタンと同じだ。
ーーなんだよ、そのフリは。
いいよ、釣られてやるよ、パキスタンと違って日本では何があったんだよ。
ム:せっかくのイードだから、海に行ったんだよ。
俺が住んでいたラホールは海から遠くて、海を見る機会なんてめったにないからね。
ーーいま調べてみたら、ラホールから一番近い海岸まで1000キロメートル以上もある!
東京から鹿児島よりも遠いから、海を見に行くだけで「冒険」だな。
ム:だからラホールには、一生に一度しか海を見たことがない人や、見ることなく人生を終える人もいる。
ーー江戸時代の「お伊勢参り」みたいだ。
多くのパキスタン人にとって、海は絶望的に遠いんだな。
ム:でも、日本はまったく違う。
ここなら車で30分走ればビーチに着くから、友人の運転で遠州灘に行ったんだ。
みんなあの雄大な水平線を見て感動してたよ。
ーーそうなんだ。
誰かが礼拝の後、「海を見に行こうよ!!」と言った。
ムーーそう。
ーー海に着いたら、1人が遠くを指さして「オレたち、自由になれるのか?」とつぶやいた。
ム:何の話だよ。

パキスタンの少年
イスラム教のチャリティ文化
ムーーあとひとつ、パキスタンのイードと違うことがあった。
イードはみんなのお祝いだから、貧しい人たちに食事を振る舞っていたんだ。
ーーいいよな、そうやって、知らない人と喜びをシェアするイスラムの考え方は。
日本ではチャリティの文化が薄いんだよ。
ムーー日本でもやりたかったけど、それはできなかった。
日本は発達した国だから、貧しい人に寄付する場所が見つからなかった。
それでね、よく考えたら気づいたんだよ。
ここでは俺が「貧乏人」だったってことにさ。
ーーそれはちょっと切ないな。
おまけ
世界で最も海から遠い国は中央アジアのカザフスタンといわれる。
日本で最も海から遠い地点は長野県の佐久市にあって、約115キロメートル離れている(到達不能極)。
つまり、島国の日本とパキスタンでは、地理的環境がまったく違う。

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