昨年12月に、日本で働いている20代のカンボジア人男性と話をした。
これから、そのときの様子を「日本人のタケシとカンボジア人のソックの会話」という設定で紹介しようと思う。
カンボジアとタイのあいだでは、去年の夏と12月に国境地帯で軍事衝突が起こり、100人以上が死亡し、100万人以上が避難を強いられた。
くわしいことは「タイとカンボジアの国境紛争」で確認してほしい。
話をしたのは、まだ戦闘が終わっていないときだったから、彼はタイに強い恨みや怒りをもっていた。以下の内容には、独断や偏見があり、一方的な見方になっている部分もあるが、きっとカンボジア国民の率直な気持ちを代弁している。

20年ほど前、カンボジアで見かけた日常
ソック:12月に入って、寒さが本格的になってきましたね。今日は本当に寒いです。
タケシ:日本の冬はまだ本気を出してないけど、南国から来た人にはキツイよね。
ソック:そうですね。カンボジアは基本的に一年中暑くて、季節は雨季と乾季の二つしかありませんから。それにしても、タケシさんは相変わらずおしゃれですね。
タケシ:今、最強寒波がきて、体の内側から寒くなった。
ところで、ホットな話題と言っていいか分からないけど、最近ニュースでカンボジアとタイがまたもめているって見た。その話を聞きたいんだけど、大丈夫?
ソック:もちろんです。確かにその話になると、カンボジア国民の心は熱くなります。日本人の知り合いは冷めているというか、関心がなさそうで残念に思っていましたから、外国の人が関心をもってくれるのは、カンボジア人としてうれしいです。
タケシ:日本のニュースでは、カンボジア軍が設置を禁止された地域に地雷を埋めて、それを今年7月にタイ軍の兵士が踏んで大けがをしたことが、戦闘のきっかけだと聞いた。それって合ってる?
ソック:違います。タイとカンボジアを比べると、経済力も軍事力もタイが圧倒的に上だということは、カンボジア人なら誰でも知っています。
そんな相手と戦えば、弱いカンボジアのほうが大きな被害を受けるのは分かりきっています。自分から軍事衝突を起こすはずがありません。
タイの主張は間違っています。

地雷の除去作業をしているカンボジア軍の兵士(たぶん)
タケシ:じゃあ、タイ軍が言っている地雷というのは?
ソック:それはウソか、タイ側の事実誤認です。カンボジアでは1970年代に内戦が起きてから、タイとの国境付近に大量の地雷が埋められました。
タケシ:そういえば、20年くらい前にカンボジアへ行ったとき、大雨が降ると、地雷が流されることがあると聞いたな。だから、安全が確認された場所に地雷が移動していて、知らずに踏んだ人が足を失うこともあるって。
ソック:そうなんです。タイの兵士が踏んだのは、ずっと昔に埋められた地雷です。最近、カンボジア軍が設置したものではありません。カンボジアは弱い国なので、自分から手を出すことはありません。
軍事衝突といっても、あれは「いじめ」です。わたしもカンボジアに戻って、国のためにタイと戦いたい気持ちがあります。
タケシ:その気持は熱すぎるかな。
たしかに、経済力や軍事力を考えたら、カンボジアのほうが大きな損害を受けることは間違いない。正しい例えか分からないけど、のび太がジャイアンを挑発する理由はない。
じゃ、もしタイ軍が先に仕掛けたとしたら、タイ側にはどんなメリットがあったからだと思う?
ソック:今回の衝突で、重要なポイントはそこなんです。
タケシ:おっ、核心にせまった?
ソック:去年の夏ごろ、タイでは経済がうまくいかず、政権にスキャンダルが起きて国民の不満が高まっていました。そこで、保守的な政党がその空気を利用して、カンボジアを敵視して愛国心をあおり、自分たちの支持を集めようとしたんです。
タケシ:たしかに、ペートンターン政権が8月に崩壊したあと、「タイ誇り党」が主導権をにぎって党首のアヌティン氏が首相になった。その政変にカンボジアとの戦闘が無関係とは思えないな。
ソック:大ありですよ。外に「敵」をつくって、国内の不満や怒りをそこへ誘導させて、自分が利益をえる。世界中の政治家がすることじゃないですか。
タケシ:なんか、俺もソックに誘導されてない? 「おしゃれですね」のあたりから。
ソック:いえ、正しい方向に進んでいますよ。
タケシ:……まあいいや。で、国力で劣るカンボジアは、この危機をどう乗り越えるつもりなの?
ソック:今、カンボジア国民はタイ製品のボイコットをしています。スーパーで買い物をするとき、バーコードを確認して、タイ製だと分かれば棚に戻して、カンボジアで作られた商品を選びます。
実際のところ、それがどこまでタイに影響を与えられるかは分かりませんが。
タケシ:そうやって抵抗の意思を示しているんだ。「私たちは微力だけど、無力じゃない」みたいな。
ソック:そうです。この戦闘は軍人だけのものではありません。国民も間接的に参加する「総力戦」なんですよ。今、カンボジア人は団結しています。
タケシ:軍事力や経済力、技術力など、国が持つすべての力を使って戦う総力戦。第一次世界大戦から続く考え方だな。
ソック:力では勝てないので、タイより大きな力、国際世論を味方につけようと頑張っています。国民が SNSをフル活用して、「カンボジア人は平和を求めているのに、タイが先にしかけて無慈悲な攻撃をつづけている」と世界に訴えています。
タケシ:情報戦ってやつか。
ソック:頭脳戦ですよ。国民がスマホで現地の悲惨な状況を発信し、世界中の人を味方につけるんです。それなら日本にいてもできるので、わたしも参加しています。
タケシ:21世紀らしい戦い方だ。
ソック:残念ですけど、カンボジアではタイに勝てないんです。カンボジアが受ける被害を最小限におさえるには、国際世論を動かして停戦に持ち込むしかないんです。
タケシ:つまり、戦闘を早く終わらせることが目的ってこと?
ソック:より正確に言えば、「願い」です。実力差が大きすぎて、勝負になりません。カンボジア人が望んでいるのは平和だけなんです。

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