メリクリは禁句? 多様性と伝統がぶつかる米国は日本の近未来

今、日本に住んでいる外国人は約400万人を突破し、過去最高を記録した。政府の動きを見ると、その数はこれからさらに増えると考えてよし。
そこで今回は、あるアニメのちょっとした出来事を通して、これから日本が迎える多文化共生社会で大切になる視点について書いていこう。
ひとことで言うと、「社会の多様性」と「伝統的な価値観」をどう両立させるか、という問題だ。

目次

セリフの「書き換え」

のんびり SNSを見ていたら、外国人(たぶんアメリカ人)が日本のアニメのワンシーンを投稿し、「これを見て失望した」と書いていたのを発見。
その場面は、10代後半の女の子たちが学校の一室に集まり、クリスマスパーティーをしているシーンで、「メリークリスマス!」と声を上げ、笑顔でジュースを飲んでいる。

※知らないアニメなので正確ではないが、だいたいそんな場面だった。

ところが英語字幕では、「メリークリスマス」というセリフが「Happy Holidays(ハッピー・ホリデーズ)」と訳されていた。それを見て、投稿主さんは失望したのだ。
日本人の中にもこの翻訳にがっかりした人はいたが、アメリカ人とは価値観が違うため、重視する点も異なっていた。

「忠実さ」を大切にする日本人

「メリークリスマス」を「ハッピー・ホリデーズ」と言い換えた翻訳に対して、日本で見られた批判は、「原作に忠実であるべき。勝手にセリフを変えるな!」というものだった。
日本では、作者の意図や元の表現を最も尊重すべきだと考える人が多い。そのため、マンガがアニメやドラマになる際に改変があると、「作品の世界観が壊された」と怒る人がよくいる。

今回の言い換えでも、「メリークリスマスと言いたい気持ちを無視している」という小さな不満から、「ハッピー・ホリデーズを強制するのは検閲であり、独裁的な思想による弾圧だ」という極端な怒りまで、否定的コメントがいくつか見られた。
もちろん、作品への忠実さを重視する考え方は海外にもあるが、経験上、日本人はとくに細かく、厳しいと感じる。

一方で、英語圏、とくにアメリカ人は、別の観点から怒ったり失望したりする人が多かった。

アメリカの「配慮」と「ポリコレ」

アメリカは伝統的にキリスト教の影響が強く、12月に入ると「メリークリスマス」とあいさつするのが一般的だった。
しかし、日本が国民のほぼすべてを日本人が占める国であるのに対し、アメリカはさまざまな宗教や文化を持つ人々が暮らす多民族国家だ。
国内にはイスラム教、ユダヤ教、仏教、ヒンドゥー教など多くの宗教があり、たとえば12月にはユダヤ教の祭り「ハヌカ」もある。

こうした事情から、近年のアメリカでは、キリスト教徒以外への配慮として、「メリークリスマス」の代わりに「Happy Holidays(良い祝日を)」を使う人が増えてきた。「ハッピー・ホリデーズ」はどんな宗教の人にも使える、ジョーカーのように便利な言葉だ。

※英語では複数の祝日を想定して「Happy Holidays」と複数形にするが、日本語では「ハッピー・ホリデー」でも「ハッピー・ホリデーズ」でもよい。

アメリカでは、異なる文化や宗教の人を傷つけない配慮が強く求められ、「ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)」が重視されている。
「メリークリスマス」を「ハッピー・ホリデーズ」に言い換えるのも、その一例で、アメリカらしい配慮といえる。
英語字幕は、おもにアメリカの視聴者を意識して作られたのだろう。「メリークリスマス」をそのまま訳せなかった点に、現代アメリカが抱える“問題”が見えてくる。

アメリカのリベラルと保守

アメリカの文化や習慣には、キリスト教に由来するものが多い。そのため、時代に合わせて言葉などを取り替える動きを、伝統的な価値観の否定だと感じ、嫌う人も少なくない。
ざっくり言うと、政治的にリベラルな立場の人はポリコレを支持し、「ハッピー・ホリデーズ」という表現を適切だと考える。一方、保守的な人は、昔から使われてきた「メリークリスマス」を好む。

冒頭の投稿には、保守的なアメリカ人からこんなコメントがあった。

「I think, for a lot of people in the US, if they see “happy holidays” they will simply stop watching the show entirely.」
(アメリカでは、「ハッピー・ホリデーズ」という言葉を見た瞬間、その番組を見るのをやめてしまう人が多いと思う)

この人は、アメリカのメディアがいつもこんな「クソみたいなこと(shit)」をしていて、本当にうんざりするという。
以下、批判的な声を拾ってみた(原文は英語)。

・ゲームでも同じだった。明らかに「メリークリスマス」と聞こえるのに、画面には「ハッピーホリデーズ」と表示される。
・なぜ彼らはこんなことをするのだろう? 担当者が独自の政治的見解を作品に挿入するべきではない。
・AIが翻訳者の仕事を奪うのが待ちきれない!
・リベラルの多くは自国を憎んでいるが、外国に行くとその国の文化は尊重する。

アニメの場面はクリスマスパーティーだったから、日本人のボクでも「ハッピー・ホリデーズ」は不自然に聞こえる。外国人、とくにアメリカ人なら嫌気がさすのも理解できる。

伝統と多様性の衝突

同じアニメの改変でも、文化や価値観によって受け止め方は大きく異なる。
「原作への敬意が足りない」と怒るのは、日本人的な感覚だ。一方で、ポリコレが行き過ぎて伝統や表現の自由が否定されたと感じるのは、アメリカの保守的な考え方といえる。
逆に、リベラルな立場の人なら、「『メリークリスマス』はマイノリティ(少数派)への配慮に欠けている!」と怒るだろう。

今後、日本に住む外国人が増えれば、伝統的な価値観と多様性がぶつかり、問題になる場面も増えていくはずだ。
たとえば、宗教的な理由で豚肉や牛肉を食べられない子どもがいる場合、学校がその事情に配慮し、給食の代わりに弁当を認めるのは自然だ。
しかし、「さまざまな宗教の人に配慮して、『いただきます』はやめよう」と学校が指導したら、それは明らかに行き過ぎ。日本人が大切にしてきた価値観を否定することになるから、国民の反発を招くはずだ。

宗教的な理由で「いただきます」を言えない子どもには、言わない権利を認めればいいだけで、ほかの子どもまでその価値観に合わせる必要はない。
違いを認め合うのが多文化共生のあるべき姿で、伝統的なあいさつが「禁句」になるのは多文化強制だ。
「メリークリスマス」を「ハッピー・ホリデーズ」に言い換えることに、多くのアメリカ人が不快感を覚える理由も、ここにある。もっとも、アニメや映画の字幕では、どっちの言葉を使っても炎上は避けられないだろうし、これはとてもアメリカ的な現象でもある。

内容がちがうだけで、異なる文化や価値観へ配慮が自国の伝統軽視につながり、多くの人が反発することは世界中で起きている。
伝統的な価値観を守りながら、多様性を受け入れることは簡単ではない。しかし、日本の「らしさ」を保ちつつ、新しい文化を受け入れることは、これからの日本にとって避けて通れない重要なテーマだ。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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